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閑話9 第2回汚腐会

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よろしくお願いします。

気付くと、俺はあの場所にいた。

前回は腐神が盛大に出迎えてくれたのだが、今日はなぜか姿が見えない。


――ひょっとして忘れられてる?

一瞬不安がよぎるが……ここに来られた以上、汚腐会(おふかい)は開かれるのだろう。


モルモルが現れるまで、退屈しのぎに部屋を見回す。

相変わらず何もない殺伐とした空間――と思ったら、壁がやけに騒がしい。


よく見れば、お色気たっぷりのピンク系。まるで怪しいお店みたいじゃないか。


「なんで壁紙がピンクなんだよ……。淡い色ならまだ可愛げがあるけど、これじゃぁ……」

呆れ交じりにため息が漏れる。


それにしても、どうやって模様替えしたんだ?

まさかモルモルが自分で貼ったのか? だとしたら案外器用じゃないか。

だが、あの腐神がせっせと壁紙を貼る姿を思い浮かべると――微笑ましいやら、神としてどうなんだと疑問やら。


「まぁ腐神だからな……。腐っても神じゃなく、腐ってる神ってとこだ」


そう呟いた時だった。

ざわざわと複数の声が近づいてくる。


「いや~何もないとこだけど上がって上がって~! アム様も遠慮なさらず~」

「はいモル様♡ お邪魔しま~~す」

「ウム、苦しゅうない」


少なくとも三人――いや、この場合は三柱か。

そのうち一柱は察しがつく。恐らく海神アムピトリーナ様だろう。


だが、もう一柱は……?


その答えはすぐにわかった。


「あっダーリン♪ 来ちゃった♡」


「ナタりん? 何? どういう事?」


「じゃじゃ~~ん、本日はスペシャルゲストをご招待しました~パチパチパチ~!

 先生もご存知のナタリン♡ この度、栄えある二人目の使徒となったのであります!

 そしてこちらは――海神アムピトリーナ様! 頭が高い、控えおろう~~!」


「……ナタリンが使徒? いつの間にそんなことに?」


愚腐腐腐腐グフフフフ、驚きました~? サプライズ大成功~~!」


……わざわざサプライズ演出。ここは某トーク番組の収録か?


実は裏事情を少し説明しておくと――。

魔道具製造部の拠点に小さな祭壇(神棚的なもの)を作り、モルモルを祀る場所を用意した。

ドグマ、マニフェス、ナターシャの三人が信者となり、簡単な作法を覚えさせて初の神頼みをしたのだが……。

その時ナタリンの願いが通じたらしく、見事モルモルの使徒に“就任”したわけだ。



ちなみに鎮潮祭で俺が使徒になった時は大神殿の鐘が鳴り響いたが、ナタリンの時は特に演出はなかったらしい。

単純に格の違い――上級神の中でも特に高位の神でない限り、ああいう派手な現象は起こらないのだとか。



今日の汚腐会に参加する前、面接代わりの面談をしたらしい。

どうやらそこで意気投合し、すっかり仲良しになったようだ。

お互いの趣味について熱く語り合ったというが――どうせろくでもない話に決まっている。


聞いてもないのにモルモルが説明してくれたところによれば、

ナタりんは世にいう腐女子とはちょっと違うらしい。


世間受けしないという自虐的な意味での「腐った女子」ではあるが、特定の「男同士」や「女同士」といったシチュを好むわけでもなく、ショタに走るわけでもない。


「私は見守り、そして育みたいのです! 夢に向かってひたむきな少年を助け、その成長を陰に日なたに支える……それこそ至高の喜び! だから私は育成したいのですわ!」


「うっひゃ~! 育成きた~! てことは光源氏の”若紫”的な?」


「”光る原人”が何かはわかりませんが、ダーリンはまさに理想! いつか嫁に行きたいのです。……実はもうかなり行き遅れてますがね。泣」


面談でまさかこんな会話が交わされていたとは、ラングは知る由もなかった。



「ねぇねぇナタりん♪ もう告っちゃいなよ! 先生って案外押しに弱そうだから、今のうちに唾つけといたほうがいいと思うんだ~。最近ライバル多いし、トンビに油揚げさらわれちゃうかもよ? あのレイチェルってご令嬢とかさ~。もちろんエマお嬢も本命っぽいし~」


「ええ、それはそうなんですが…… 言葉で告白する勇気はまだなくて。行動ではめいっぱいアピールしてるのですがね。……それに、今じゃないのですわ。もう少し年を重ね、オスのギラギラが出てきたところを“おいしくいただきたい”のです」



「ちょっと! 本人の前でどぎつい話は控えてくれませんかね!? 正直、聞くに堪えないんですが!」


「いえいえ先生! 女の想いを聞いたからには、男としてびしっと決めちゃいましょうよ! 『ナタりん、俺もお前が欲しいんだ』ってささやいて押し倒すとかさぁ! 愚腐愚腐♡」


「いや~、聞いたっていうより“聞かされた”だけで……しかもこの場でどうこうなんて絶対しませんからね!」


「お主も煮え切らんやつじゃのぉ。 さっさとまぐわってしまえ! 人に繁殖期は無かったはず。なら今すぐ始めても支障あるまい!」


「アムピトリーナ様まで!? 支障ありまくりですよ!」


「ふむ……では妾が立ち会ってやろうぞ。神の御前にて契りを交わすがよい。なんなら祝詞もあげてやるから、すぐに神聖な婚姻儀式が――」


「だから勝手に式を執り行わないでくださいってば!!」


「それにだ、ナタりん。おぬしも女子ならば、もっと積極的に求愛せい! 古来より海鳥どもは、相手の背中に乗って羽をばさばさやりながら愛を示すものぞ! 妾の加護をやろう、今すぐやってみよ!」


「ええっ!? 羽ばたき……? そ、それはちょっと恥ずかしいですわ……でもダーリンのためなら……」


「やらなくていいからッ!! みんな悪ノリがすぎるんだよ~~!!


――みんな、汚腐会をなんだと思ってるんだ!?

夢の中の会話だからって油断しすぎ! ここで話したことは俺もみんなも、全部覚えてるってこと忘れてない?」


それにしてもアムピトリーナ様って、あんなにノリがいい神様だったとは……。

加護だってあんなにポンポン授けていいものなのか?

ま、悪ノリしただけで実際に授けたりはしないよな? まさかね……。


言いたい放題の女性陣をこのまま暴走させたら、どんな話になるかわかったもんじゃない。

このままでは埒が明かないと判断した俺は、話を強引に切り替えることにした。


「モルモルさんや、つかぬ事を聞きたいのじゃが……」

「なんじゃ、じいさんや」


「それがの、神石というものを知っとるかね?」

「ふ~む……神石なら知らんでもないがの。 私より、そこな女神様のほうが詳しかろう」

「何? 神石とな? 知らんこともないが、ただでは教えられぬ! はよ捧げよ! 甘味が食べたいのじゃ~~!」


やっぱりだ。

この場に来ると、どうしてみんな壊れてしまうんだろう。

鎮潮祭で見せた神々しさなんて欠片もなく、そこにいるのは甘味に目を輝かせる女子たちだけだった。


「はい、もちろんご用意して参りました! スイーツを食しながら、お話をお聞かせください」

俺は持参したクレープやクッキーを山ほど取り出し、女性陣に振る舞う。


「これじゃ! もっちもちの生地に、甘すぎるほどの生クリーミーとイチゴ! うまいのじゃ、もっと欲しいのじゃ!」


女神が幸せそうにクレープを頬張る姿は、ただひたすらに無邪気であった。

――人だけでなく、神すら魅了する甘味の力を、改めて思い知る。

それと”生クリーミー”に正式決定だね。

女神までがそう仰せなのだから。



十分に腹を満たしたアムピトリーナは、ようやく重々しい声で口を開いた。


「さて、神石についてじゃが……あれは神代の遺跡を動かす動力源なのじゃ」


彼女の語る内容は難解だったが、要点はこうだ。

神石は遺跡そのものの心臓部であり、原神が世界の秩序を保つために設けた“巨大な制御装置”の核。

人の世に出回る神石は、その欠片や壊れたゴーレムから取り外されたものにすぎない。

そして新たに神石を生み出せるのは、原神か――かつて存在した源世種だけ。

ゆえに神石を得たいなら、遺跡を訪れ守護者と相対するほかないのだと。


……つまり、いずれは遺跡に挑まねばならないということか。


なお、源世種とはヒューマンの祖であるエルダーヒューマン、エルフの祖である

エルダーエルフ、ドワーフの祖であるエルダードワーフ、

獣人の祖であるエルダービーストなどが知られている。


その後、ここ最近の状況を手短に伝え、第2回汚腐会は無事に幕を閉じた。

拠点ができたことにモルモルも大喜びで、次回を心待ちにしている様子だった。







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