92話 企画生産部の今後について
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新人たちの顔見せも終わり、今日からいよいよ彼らの仕事が始まる。
まだ夜明け前の薄暗い時間、食堂の前に集まった列の中に、あの幼い兄妹の姿もあった。
最年少のロロはまだ寝ぼけているのか、ぽへ~っと突っ立っている。
兄のトトはそんな妹を気遣い、耳元で何やら盛んに囁いていた。
妹想いの良い兄である。
慌てずに、怪我さえしなければそれで十分だ。
企画生産部は鎮潮祭のどさくさで正式稼働していた。
社内通達で知らせただけだが、ラングが責任者として正式に周知された。
奴隷解放間近という事もあり、社内的にはすんなり受け入れられたのだ。
というわけで、この日も企画生産部の朝のルーティンから始まる。
まずは食堂から出る生ごみをリヤカーに積み込む作業だ。
ホルスがテキパキと指示を出し、またたく間に積み込み完了。
食堂の利用者は日に日に増えており、生ごみもそれに比例して多くなっている。
だが新人が加わった分、むしろ作業は早く終わったほどだ。
「では、拙者が引くでござる。――ふむ、大量の荷物の割には意外と軽いでござるな」
「ねぇロロ、乗ってみたい! 楽しそうだよ」
「だめだよロロ! ケンシンさんの邪魔になっちゃう!」
「トト殿、気にせずともよいでござる。――だがロロ殿、リヤカーの上に乗れば、生臭くなってしまうでござるぞ」
ケンシンが引くリヤカーの周りを、子供たちを含む一行が取り囲むように歩いていく。
ロロはケンシンの言葉を聞きリヤカーに乗るのは諦めたようだ。
なんたって子供は高い所が好きなものなのだ。
「さぁ、みんなで荷物を下ろしやしょう」
農園エリアに着くと、ファルコンが軽々とコンテナに飛び乗り、生ごみの入った箱を次々と手渡していく。
この生ごみを喜んで食べてくれ、卵まで産んでくれるのだからバイオレンスチキさまさまだ。
食堂の方できちんと分別してくれているおかげで、バイオレンスチキへの餌やりも実にスムーズだ。
「では次は小屋の掃除と水の交換、それから卵の収穫を手分けしてやりましょう! ただし有精卵は絶対に取っちゃだめだからね、気を付けて!」
ホルスの掛け声で皆が散り、作業が始まる。
バイオレンスチキの世話といっても、分担すればすぐに終わる程度のものだった。
その間、いたずら盛りのヒヨコたちと戯れつつ、掃除の邪魔にならないように相手をしてやるのも大事な仕事のひとつ。
この役目は、トトとロロ兄妹に任された。
ついさきほどまでは緊張した面持ちの二人だったが、今ではすっかりヒヨコたちと楽しそうに遊んでいる。
楽しみながら少しずつ覚えていけばいい。
ラングは後のことをホルスに任せ、シャルランを連れてその場を立ち去った。
イワンと打ち合わせをするためである。
途中ラングは研究棟の建築工事の進捗状を確認した。
魔道具製造部の内装をやり終えた大工達に、今度は研究等の建築をお願いしていたのだ。
現場ではちょうど準備の真っ最中。
道具の手入れをする者、寸法を測りながら打ち合わせを行う者、それぞれが真剣な眼差しで準備を進めていた。
「親方、今日もよろしくお願いしま~す!」
「おう坊や!今日も精が出るな。どうだ、思い描いた通りに進んでいるだろう?」
建築中の研究棟は、ラングの前世の知識を元に設計された。
――木造軸組みパネル工法。
柱と梁を組み合わせて骨組みを造り、そこに耐力壁を加えて強度を高める建築様式だ。
軸組みとは、簡単に言えば縦横の直線材を接点で固定して骨格を作ること。
さらに筋交いなどの斜め材を入れて補強するのが一般的だ。
今回はマニフェスが強化した木材を用い、接合部にはドグマが製作した金具を使用。
さらに分厚いパネル材で耐力壁を設けているため、竜巻が直撃してもビクともしないほどの強度になるはずだ。
本当は2×4(ツーバイフォー)のような箱型構造を採用したかったが、現状の技術力では一歩及ばない。
そのため可能な範囲で工夫を重ね、この工法に落ち着いたのである。
何せ研究施設だ。
強引な侵入や破壊衝撃をも跳ね返す頑丈さは絶対条件。
身近な所で異世界の建築技術を試す。
「衣食住」への改革はこうして地道に進められていくのだった。
建築が完了するまでは、コンテナハウスを臨時事務所として利用することにした。
チキ小屋の前にある管理小屋は狭く、とても会議ができる空間的余裕はない。
せいぜいブルマーに着替えるために、あの秘書さん専用で使い続けてもらおう。
研究を担うのは、イワンと新たに加わったシャルランの二人だ。
植物の知識に長けたイワンと、細菌すら視認できるシャルラン。二人が力を合わせれば心配はない。
あとはラングが時折顔を出し、今日のように打ち合わせを行えば十分だろう。
さて、企画生産部の今後についてだ。
これまでは生産特化で動いてきたが、今後は様々な企画を立ち上げていかねば「名前負け」してしまう。
その点を踏まえ、イワンと協議した。
1.植物系食材の継続的なサンプル採集・試験栽培
2.耕地面積の拡大と生産量増大、穀物の安定供給
3.各種食品開発(製粉、麺類、乾物、発酵食品etc.)
4.調味料・香辛料の開発
5.綿やウールからの衣料品開発(店舗展開を視野に)
6.紙の生産
以上を中・長期的な目標として掲げた。
現状の人員では、この程度が現実的なところだろう。
上記は優先度の高い順に並べているが、1~4の「食」に関わるものは同列に重要だ。
まずは「食の充実」を最優先にし、時が来れば「衣」、さらに「住」へと段階的に進める予定だ。
イワンには「焦らず、順繰りに進めればよい」と言い含めてある。
「焦らず行こう、慌てずに!」
この標語を貼っておくのもいいかもしれない。ブラック企業化だけは、絶対に避けねばならない。
イワンの場合、この仕事はまさにライフワークの延長だ。
そのため熱中するあまり、休みなく働き続ける傾向がある。
だからこそ、ラングが目を光らせ、適度に休ませることも重要なのだ。
特に以下の二つについては、近いうちに再びポルトニア平原へ赴かねばならない。
1.植物系食材の継続的なサンプル採集・試験栽培
5.綿やウールから衣料品の開発
前回目にした羊に似た魔物は、できるだけ早く捕獲しておきたい。
そのためには探索用のパーティーを編成せねばならない。
ただし、毎回部門ごとの寄せ集めでは効率が悪い。
企画生産部と魔道具製造部、それぞれ独立したパーティーを持つべきだろう。
そこでラングは次の編成を考えた。
斥候は、優れた視力と飛行能力を持つファルコン。空を飛べるのだから、万一の時も逃げ道はある。
前衛は、侍剣士(免許皆伝)のケンシンに任せる。
中距離攻撃と気配探知による警戒はイワン。
そして盾役には、強靭な肉体を持つ豹系獣人のレプリスを据えるつもりだ。
ちなみに俺自身も”総監督”みたいな立ち位置で彼らを見守る事にする。
昨日の自己紹介ではクネクネしていて大丈夫かと不安になったが、俺のスキルで能力補正すれば、ポルトニア平原程度の魔物なら問題ないだろう。
なんならビキニアーマーでも十分かもしれない。あのクネクネした動きにビキニアーマー――間違いなく「映える」。
ピチピチのミニスカメイド服とあわせ、製作は急務だな。
……いや、冗談はさておき。
いずれはヒーラー候補にも当たりをつけねばならない。ポーション頼みでは、いつか限界が来る。
さらに、強化訓練を兼ねて「お嬢」を同伴し、羊の説得もお願いできれば理想的だ。
近いうちに予定を聞いて、日程を組むとしよう。
【新加入メンバー】
● 魔道具製造課
- ゴンゾーラ(元冒険者・オネェ)
- ダイス(元裁判官)
● 生き物係
- ファルコン(鳥人)
- レプリス(豹獣人)
- ケンシン=タケダ(東方出身)
- シャルラン(三つ目族)
- トト・ロロ(犬獣人兄妹)
● その他
- ララ(母・調理補助)