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89話 課外実習を攻略せよ~アリッサ&ボスチキの活躍

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一方その頃――

TP8を後にしたエマルシアは、希の背に揺られながら、あっという間にTP9へとたどり着いていた。

何せ湖の北岸から南岸へと移動しただけのこと。

大した距離ではなかったのだ。


さて、TP9の課題を確認してみよう。


【目の前に並べられた桶の中を水で満たしなさい。満たされた桶は順次運び去られ、残る桶はどんどん少なくなっていきます。ただでさえ少ないというのに……。】


ご覧の通り、この課題は特別難しい要素はない。

あえて挙げるとすれば、桶の数が参加パーティー数より一割ほど少ないという一点だけだ。

つまり――“早い者勝ち”というわけである。まさにそれがTP9の肝だった。



手つかずの桶の山から、エマルシアはひとつを選び、水用道具袋から水を注ぎ入れる。

この湖の水は初日のうちに汲み置いていたものだ。

昨晩お風呂に使った程度では減りもしない。まだまだ余裕はある。


正真正銘最初のクリアとなったわけで、エマルシアは訳もなく嬉しくなった。

やはり一番というのはそれだけで価値があるものだ。

そのまま待っていると、ほどなくしてTP8を突破したラングたちと無事に合流することができた。



☆ ☆



同じ頃――

ボスチキの背に揺られながら移動していたアリッサは、地図を片手に宝の在りかを探していた。

現在地はTP2とTP3のちょうど中間あたり。

しかし、目当てのものはすぐには見つからない。


仕方なくボスチキから下り、腰を下ろして地面を手探りで探っていた、その時だった。


――ピクリ。



アリッサの気配察知スキルが反応を示した。

人数は……三人、いや、四人。


足音を殺し、こちらにじりじりと近づいてくる。


課題に挑む生徒たちの一団は既に去った。

今頃は出発地点となったTP1の辺りだろう。

ならば、宝探しか?


断定はできない。

だが、油断はできなかった。


アリッサは咄嗟に身構え、ボスチキは素早く藪の中へと姿を隠す。


やがて――


木立の向こうから姿を現したのは、アリッサにも見覚えのある人物たちだった。




「――あんた、ここから立ち去りなさいよ。ここは私たちの宝が眠ってるの。邪魔しないで頂戴!」


昨日、列に並びながらクッキーを手にできなかった生徒だった。

当然会員証を貰えるはずもなく、その腹いせに嫌がらせをしに来たのか?


宝の在りかは、それぞれの地図ごとにある程度離れた場所に点在していることは判明している。

だが、目の前にいるいじめグループの連中とその従者にはわからなかったのだろう。

なにせ昨晩以来、孤立していたのだから。地図を見せ合い、情報を照合する機会もなかっただろう。


おそらく彼らは別動隊として、アリッサ(+ボスチキ)が反対方向へ向かうのを追ってきたか、どこかで待ち伏せしていたのだ。

そして、今このタイミングで妨害に踏み切った――そう考えるのが妥当だった。


生徒たちは意地の悪い笑みを浮かべ、立ち塞がった。


「なに馬鹿なこと言ってるのよ。あんた達は知らないみたいだけど――宝の在りかが重なることなんて、まず起こり得ないの! それぞれの地図には違う場所に印がついてるって知らなかったんでしょ? 嫌がらせしようとしてるの、見え見えなのよ!」

アリッサは自信満々に言い放ち、やれやれといった風に頭を振った。



「それが? どうせでたらめを言ってるに決まってるわ。 本当だというなら証拠を見せなさいよ! その地図、こっちに渡しなさい! 私が確かめてあげるわ」

敵もさるもの、一瞬たじろいだが、すぐにもっともらしい口実を繰り出してきた。


「なんであんたなんかに地図を渡さなきゃいけないのよ! どうせ取り上げてどこかに隠すんでしょ! あんた達、人の物を隠すの大好きだもんね!」


アリッサが痛烈な皮肉を投げると、さすがに相手の顔色が変わった。


「根も葉もないこと言ってんじゃないわよ! 何かって言うと突っかかってきて……ほんっとムカつくのよ、あんた! いい加減にしないと、ただじゃすまないわよ!」


「ふぅん? で、どう“ただじゃすまない”のかしら?」


アリッサの挑発に、相手の堪忍袋の緒が切れた。

ついに実力行使に出ようとしている。


一対四――一見すればアリッサには不利な状況だ。

だがその直後、藪の中から黒い影がぬっと姿を現した。


「オゥオオ~オィイヤ~!」


ボスチキがキモい唸り声を上げながら飛び出す。

お姫様を守る騎士――と呼ぶには程遠いが、タイミングだけは申し分なかった。

大きく羽を広げ、アリッサを守ろうとするその健気な姿を、称えてやるとしよう。



「何このキモい鳥。鳴き声が変質者にしか聞こえないんだけど……。とりあえず、このバカたちを無力化して縛り上げなさい!」

少女の合図とともに、従者の二人が襲いかかる。

一人は人種、もう一人は獣人。それぞれ木製の武器を手に、一直線に飛び込んできた。


「ボスチキ、変質者だってさ。こんなに聞き分けがよくて可愛いのにね。しかも強くて頼りになるってのに。――だから、見返してあげなよ! やっちゃって、ボスチキ!」

実習を通じてすっかり仲良しになった相棒を侮辱され、アリッサは頭に血が上った。

従者二人はボスチキに任せ、自らは女生徒二人と対峙する。


「ふん。私たち二人に勝てると思ってるの? 生意気な女ね」

「ごたくはいいからかかってきなさいよ。こっちは希に鍛えてもらってるんだから。しかもラングの祝福もあるし――多分、傷ひとつ付けられないだろうけどね」


こうして一対二の戦いが始まった。


「赤く(たぎ)る炎よ、形を成せ! ファイアボール!」

「風よ集い、我が力となれ! エアウィンド!」

簡易詠唱とともに、炎の球がアリッサへと放たれる。さらに風によって勢いが増し、包み込もうとする。


「ばか! 森の中で火魔法を使うんじゃないわよ! 山火事になったらどうするの!」

アリッサは木製のスピアに魔力を込め、薄い膜を纏わせる。そのまま突きの連撃を繰り出した。


風を纏った突きが炎を次々に穿(うが)ち、やがて炎は霧散した。

「海神の威」の祝福もさることながら、アリッサ自身の【風任せ】のスキルが決め手だった。


風に自らの意思を宿し、自在に操る。範囲内なら風向きさえ思い通りにできるのだ。

そして、ラングに教えてもらった空気を構成する酸素やそれ以外の元素を調整すれば火消しなんて造作もない。


どんなに風の勢いを得て大きな炎となったとしても、酸素が無ければ燃え続ける事はできないのだ。

巨大化した炎が一瞬で消され、唖然とする二人。


その隙を突き、アリッサは一気に踏み込み当身を叩き込む。

二人は意識を失い、地面に崩れ落ちた。


アリッサは額の汗を拭い、ボスチキの方へ視線を向ける。

そこには、既に従者をねじ伏せ、勝ち誇る姿があった。


「ま、ボスチキにかかればこんな雑魚あっと言う間よね。何せ希に一番スパルタ特訓を受けたのはあんただもん。……でもありがとう。私のナイト様♡」


大好きな少女からの称賛に、ボスチキは歓喜の雄叫びを上げる。


「ゥゥオオオオ~~! ウィヤアアアアッ!」


その後――「森に変質者の呻き声が響く」との通報を受け、学園職員たちが必死に探索を繰り広げたという。

どこまでも哀れなボスチキであった。






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