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87話 課外実習を攻略せよ~ドキドキの野営

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人垣が消え、ようやく落ち着きを取り戻した一行は食事を楽しんだ。

今日の出来事を肴に大いに盛り上がったのは言うまでもない。


クッキーを頬張りながらのティータイムも格別で、笑顔がはじけ、まさに至福のひととき。

上級生たちともすっかり打ち解け、和やかな雰囲気に包まれた。


後片付けを終えると、再び集まった生徒たちへ会員証を手渡す。

歓声が上がり、彼らの心を完全に掴んだのは明らかだった。

多勢に無勢――それがついに逆転したのだ。


その後はお楽しみのお風呂タイム。

エマルシアたちは遠慮して上級生に先を譲り、三人仲良く入浴していったらしい。


――さて、こういう場面でなぜ男の頭は「覗き」という文字で埋め尽くされるのだろう。

女性にとっては迷惑以外の何ものでもないが、男にとっては永遠のロマン。


だが紳士を自認するラングは、その煩悩をなんとか打ち倒した。


「ラングもご一緒にどう?」

レイチェルのからかいに鼻の下を伸ばすが、その顔を見たエマルシアは即座に不機嫌になる。


「食堂で反省会よ!」

彼女に腕を引かれ、ラングはダイニングへと連行された。


打ち勝つも何も――軟禁状態に置かれただけだったわけだ。



今日のお風呂は湖から汲んだ水。

鎮潮祭でドグマに作ってもらった水専用の道具袋が大活躍したのだ。


こうして風呂上がりの上級生たちと共にコンテナで一夜を過ごすことになる。

湯上がりの甘い香りに、ラングは早くも頭がクラクラしてきた。


「濡れ髪から漂う匂い」「うなじの色香」「火照った頬」

これで動じない男がいるだろうか。


しかし――紳士汚腐紳士(シンシオブシンシ)たるラングは、節度を守った。

女性陣の布団から距離を取り、背を向けて布団に潜り込む。


「見てはならぬ……見てはならぬ……」

念仏のように呟く彼の耳に、衣擦れの音が忍び寄る。



「この布団、どんな素材でできているのかしら? 見たことがありませんわ!」


「の、希の糸を加工した布で、コットンという綿を包んで――通気性抜群で、柔らかく……」

条件反射で解説してしまい、ラングは「しまった」と慌てて口を押える。


「なるほど。確かにコットンとやらは柔軟性抜群ですわね。そしてさすがは私の希ですわ。この肌触りは乙女の柔肌にぴったりだと思いませんこと? あぁ癖になる。 こんなの知ってしまったら私もう……

という事でラング、私の分も用意なさい!」

我がまま令嬢からの今日何度目かの無茶ぶりだ。


「申し訳ございませんが、試作品ゆえにこれ一組しか――」


「なら私もあなたと一緒に試しましょう」


「いえ、それは大分まずいと思いますが?」


「あなた私に何もしないと仰いましたね? なら何も問題ございませんわ」


そう言うが早いか、我がまま令嬢はラングの隣に横たわった。

背中越しに伝わる体温と甘い香りに、ラングの理性は危険信号を発する。

「ああ~ん、この感触。たまらな~い♡」


「石だ……横にあるのはただの石ころだ…… や、やめてくれ~そんな艶っぽい声出さないで~」

煩悩を祓うかのように、ラングは再び念仏を唱え続けた。だが、容赦のない精神攻撃がラングを苛む。



しかし、試練はまだ続く。

我がまま令嬢が背後でもぞもぞと妙な動きを始めたのだ。


「あのレイチェル様何をなさって?」

おずおずとラングが尋ねる。


「下着を脱いでるだけですからお気になさらず。普段から下着をかない派なのわたくし


「――申し訳ありませんが、意味が分かりません! 何故下着を脱ぐ必要が? それと今僕の枕元に置かれたのって……ひょっとして脱ぎたての”アレ”でしょうか? 本当に勘弁してください!!」


「さっき履いたばかりで、汚くはございませんわよ?」


「いえ、そういう問題ではなくて……脱ぎたてほやほやのアレが枕元にあること自体がその何と言うか刺激的と言いましょうか……」


「おかしいですわね。臭ったりなどしないはずですのに……」


「いえ、そういう“嗅覚的な刺激”ではなく、“煩悩的な刺激”のことを言ってるんです!」


――この問答は無意味だ。

レイチェル嬢は思うがままに行動する。今日一日で嫌というほど思い知らされた。

かといって、枕元のアレを手で払いのけるなんて、とてもできはしない……。


ラングはさらに精神を集中させ、瞑想を続ける。

だが、破天荒なお嬢様は追い打ちをかけるように動いた。


「あのレイチェル様何をなさって?」

恐る恐る問いかけるラング。


「上着を脱いでるだけですわ。なんだか暑くなってしまって」


「……それだけはご勘弁を! 暑いならご自分の布団にお戻りください!」


「嫌ですわ。この肌触りを知ってしまったら、もう他の布団では眠れませんもの。……仕方ありませんね、ではせめてブラジャーだけでも外しましょうか?」


「わざとですよね!? いい加減にしてください!」

ついにラングは悲鳴を上げた。

年上のお姉さんなんてもう嫌いだ……


「うふふ。今夜はこのくらいにして差し上げますわ。では、お休みなさい」

そう言うや否や、レイチェル嬢はすやすやと寝息を立て始めた。


――なんたる寝つきの良さ。

そして、なんたる強引さ。


結局押し切られてしまったラングだが、もちろん眠れるはずもない。

このドキドキの状況で安眠できるというなら、むしろやってみろと言いたい。

しかも彼女はどうやら寝相が悪いらしく、何度も布団を蹴飛ばしてはラングがかけ直す羽目になった。


……そう、見えてはいけないものが晒されているに違いないからだ。

すぐさま隠して差し上げねばならない。


何度か着崩れた服の隙間から“立派なふくらみ”が視界に飛び込んできてしまったが、誓って言う。

見ようとしたのではない。勝手に見えてしまったのだ。


――蛇の生殺しとは、この夜のラングを指す言葉であろう。

だが、煩悩に打ち勝った彼を称えたい。


翌朝。

様子を見に来たエマルシアが悲鳴を上げてラングを叩き起こした。

そして再び、食堂での正座反省会が延々と続いたという。


――くわばらくわばら。





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