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85話 課外実習を攻略せよ~クッキーは甘いが波乱の香り

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試食を終えた職員は、満面の笑みを浮かべながら席を立った。


「食後のおやつにどうぞ」

ラングはクッキーを詰め込んだ小袋を手渡す。


「まぁ嬉しい! 今すぐ食べたいのですが、ここは渾身の気力で我慢しましょう。

同僚にもきちんとおすそ分けしませんとね。素敵な贈り物をありがとう」


そう言い残し、担当職員は足取り軽やかに去っていった。

ふわふわと浮かれて、どこかへ飛んでいってしまわないか心配になるほどだった。


――さて。

この衆人環視しゅうじんかんしの中で食事を続けるのは、なかなかつらい。

落ち着いて味わうどころではなかった。


光を目指す虫のように、匂いに誘われて集まってきた生徒とその従者たち。

こうして集めてしまった以上、責任を果たさねばなるまい。


そこで、道具袋にぎっしり詰めてきたクッキーを配ることにした。

何しろ売るほど用意してある。

もともとエマルシアたちの味方を増やす意図があったのだから、配るなら今こそ絶好の機会。


ラングはスキル【言霊】を全開放する。



「お集まりいただいたみなさ~ん! 料理に興味を持っていただきありがとうございま~す!

お礼と言ってはなんですが、クッキーという、とても甘くて美味しいお菓子を配っちゃいま~す! 欲しい人~?」


「は~い!」

観衆から大声が上がると同時に、その場にいた全員の体が淡く光を帯びた。

ラングのスキルが作用し始めたのだ。


「では、一列に並んでくださ~い! あっ、でも全員には行き渡らないかもしれませんよ~?」


「いや~~~!!!!」


こうして我先にと列ができ、ラングは先頭から順にクッキーを配り始めた。

だが直後、ずっこける羽目になる。


「あの、レイチェル様。レイチェル様にはあとでたっぷり差し上げますので、並ばなくても大丈夫ですよ?」


「そ、そんなことはわかってますわ! 私はただ、皆の模範を示す意味で並んだだけなんですからね!」


勢いよく先頭に並んだものの、ツッコミを受けて赤面する食いしん坊令嬢。

急にツンデレ調子でごまかす姿は、なんとも憎めない。

普段は気が強く我がままだが、こうした天然めいた一面が彼女のチャームポイントなのだろう。



「え~、気を取り直して……はい、先頭のあなた。どうぞ」


ラングは順番にクッキーの入った小袋を渡していく。

大人しく自分の番を待ち、受け取った瞬間に見せる嬉しそうな顔は、渡す側まで幸せにさせる。

ラングも笑顔を絶やさず、次々と手渡していった。


待ちきれずその場で口に放り込み、歓声を上げる者も多い。


「ひゃっほ~い! なんて甘さだ! お嬢様に同行できたこと、一生の栄誉にございます!」

従者らしき人物が大げさに喜びを表現する。


「いえ、私こそ忠臣のあなたと喜びを分かち合えて嬉しいわ。

この甘い時間を胸に刻み、これからも当家のために尽くすのですよ」


主従が手を取り合い、喜びを分かち合う姿に、周囲からも温かな視線が注がれる。

お涙頂戴の名場面が、そこかしこで繰り広げられていた。


思えばこの課外実習は、ともに困難に立ち向かう事で主従関係に新たな気づきをもたらすものなのかもしれない。

普段陰で支える事しかできない従者が、表立って主家の大切な子息のために働ける機会など滅多にない。

逆もまたしかり。陰で支えるものがあるからこそ、自分が快適に過ごせるのだと、改めて気づかされるのだろう。


――そのための一助になったなら、ラングも嬉しいと感じていた。


だが、そんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。


列の前方に、見覚えのある顔ぶれが現れた瞬間、ラングの手がぴたりと止まる。

空気がわずかにざわめき、周囲の明るさが一段階落ちたような錯覚すら覚える。


そこに立っていたのは――例のいじめグループの面々だった。







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