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84話 課外実習を攻略せよ~試作品×スイーツでトドメだ!

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思わぬ出来事に時間を取られてしまったが、ラングは気持ちを切り替えた。

今度こそ夕食の準備をしなければならない。


だが、ここでさらに問題が起こる。

調理道具を受け取りに行ったアリッサとウルマが、青い顔をして戻ってきたのだ。


――学園が用意した調理道具一式が、何者かに持ち去られていた。


野営地の入口には机が並べられ、調理道具がパーティごとに用意されている。

代表者(今回はエマルシア)の札がきちんと立てられているのに、彼女たちの分だけが忽然と消えていた。


他人のものを“間違って”持っていくなどあり得ない。

意図的な嫌がらせ――そう考えるのが自然だった。

思い浮かぶのは、やはり例のいじめグループだ。ウルマの私物を隠していたのも奴らなのだから。


鍋やフライパンがなければ調理などできやしない。

普通ならここでゲームオーバーだ。

だがここには、例の道具袋を持つ、ラングがいた。


出かける前に目についたものを片っ端から放り込んでおいた自分を、これほど褒めてやりたいと思ったことはない。


桁外れの収納力を誇る道具袋の中から取り出したのは、過剰ともいえる調理道具の山。

量だけでなく質も、学園の貸出品とは比べ物にならない。



まずはコンロセット。


鎮潮祭の出店でも使った、ドグマ謹製の魔道具内臓のコンロだ。

二口ヒーターに加え中央にグリルも備わり、火魔法が使えなくても魔力を通すだけで着火から火力調整まで自在。

さらに水魔法が使えなくても、魔力を流せば蛇口から水が出る。


――一家に一台!今なら送料込み金貨五枚!



次に取り出したるはテーブルセット。

木目を生かした落ち着いたデザインに、強化加工により相撲取りが座ってもびくともしない頑丈さ。

さらにマニフェスの【応用錬成】で表面に弾力を持たせてあり、お尻に優しい座り心地。


――さぁ奥様、貴女のお尻を愛する旦那様のために一ついかがでしょう?



いつものごとくラングの解説は脱線し、みんなは目を白黒させる。

「ラング(君)って……お尻好きなの?」というハモり声が飛んだが、誰のものかは分からない。


ただ一つ、彼の道具がとんでもなく優れていることだけは全員が理解した。

中には本気で購入を検討し始める者まで現れる始末で――。


(……売り物じゃないのに)

ラングは調子に乗りすぎた自分を密かに悔やむのだった。



ちなみに、今回調理する食材は現地調達分を含め、すべて野営地の担当職員によるチェックを受ける決まりだ。

持参した調味料をはじめ、口に入るものはすべて対象となる。


職員が「危険」または「不確実」と判断しない限り、使用は許可される。

要するに、生徒の安全を第一に考えた措置というわけだ。


ラングは念のため、提出用の料理についていくつか質問してみた。

その結果――TP5の課題は「現地で調達した食材を必ず使う」という意味であり、「それだけで料理しなければならない」という縛りはないことが確認できた。

一抹の不安も、これで解消である。



大鍋の中でぐつぐつと煮える音。立ちのぼる湯気。

完成した料理がテーブルに並んだ瞬間、早速レイチェル嬢が椅子に座り、両手にナイフとフォークを握りしめていた。


――姫よ、焦らずとも料理は逃げぬ。


そう突っ込みたくなる光景だが、釣られたのは彼女だけではなかった。

取り巻きの令嬢たちも、ちゃっかりレイチェルの両隣に陣取っている。

エマルシアやアリッサまで席に着いてスタンバイしている始末。


「……おかしくないか?

結局、オイラと一緒に準備をしてくれるのは、ウルマっち一人だけだ。泣けるぜ。」



さらに騒ぎは拡大した。

周囲の生徒たちまで匂いに誘われ、ぞろぞろと集まってくる。

二重三重に取り囲まれ、しかもまだ増え続けているではないか。


だが物欲しげに眺められたところで、やるもんか!

これは我らの晩餐なのである。



さすがに様子を見かねたのか、担当職員が現れた。

だが、むしろ好都合。こちらから呼びに行く手間が省けた。


「これは……なんの騒ぎですか?」


「いえ、普通に夕食を作っていたら、こうなりまして」


「なるほど。この食欲をそそる匂いが原因のようね」


「おそらく……」


「わかりました。ついでと言っては何ですが、提出用の料理ができているのなら、今ここで確認しましょう」


「はい! お願いします。こちらをご試食ください!」



そう言ってラングが担当職員に差し出したのは――


北東エリアで大量に捕獲した、大きな鱒のような魚のムニエル。

大鍋から取り分けた「男の大雑把具だくさん鍋」。

そして食後のデザートに、香ばしく焼き上げたアップルパイの三品だ。


ちなみに鍋の味付けには、イワン・スーベと共同開発した試作品の味噌を使用している。

どれも香辛料が効いていて、この匂いに皆が引かれたのだろう。

他にも料理はあるが、それらは職員が興味を示したときに出せばよい。

高評価を得るためなら、どんな要望にも応える覚悟だった。



「この魚料理……濃厚なコクと香りが見事に調和して、口いっぱいに旨味が広がりますね。

思わず“美味しい!”と叫びそうになりましたよ」


続いて鍋を口にした職員は、目を見開いた。


「なるほど、“大雑把具だくさん”とは言い得て妙です。豊富な具材がスープの旨味と相まって、フォークが止まらない……。

このスープ、いったいどんな味付けを?」


「それは味噌という調味料を使っています」


「味噌……初めて聞く名前です。こんな調味料があったとは。いや、私もまだまだ勉強不足ですね」


質問と感想を交えながら、試食は進む。

そしてデザートのアップルパイを口にした瞬間、職員の表情がぱっと崩れた。


「……素晴らしい! この美味しさを言葉で表すのは不可能です。

今日ほどこの課題を担当してよかったと思ったことはありません。エクセレント!」


紅潮した頬を震わせながら感動を隠しきれない担当職員。


その騒ぎを聞きつけ、生徒たちはさらに集まってきた。

例のいじめグループのリーダーも混じっていたが――あの忌々しげな顔が、ラングには一番のご馳走だった。


こうして最高評価を勝ち取ったラングたちは、うらやましげな視線を浴びながら晩餐を楽しむこととなる。






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