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【6-4】 ○○○○の告白

 

 意気揚々と円陣を組んだ俺たちは、それぞれの準備や座席に戻っていった。


 俺も目的の場所へ歩く。機材保管庫の、その()()()()へ。


 保管庫のある一画は近くに窓がなく、外からの光は入って来にくい。仄かなライトの灯りだけが差す暗闇に、他クラスの生徒も混じって散っていく。


 その中で、腕を伸ばした。

 伸ばした腕の先で、そいつを抑えるために。



「っ――」

「なにしてんだ?」


 手元を見ながら、嫌味に問いかける。


「そんな真剣な表情でスマホなんかいじって、なにやってんだよ?」

天川(あまかわ)こそ、なんでここに……」

「ちっとな。答え合わせをしようと思って」


 観客のいない推理ショー。誰に向けるものでもない解決編だ。

 なにを解き明かすか、そんなもの分かりきっている。そしてその答えすらも。

 この文化祭で俺たちの情報を敵対勢力である七組に明け渡し続けていた内通者の正体だ。


 眼前に立ち尽くす犯人。呆然と目を見開く人物の、名を告げる。



「五組の裏切り者――――お前だろ? 北原宏介(きたはらこうすけ)



「……っはあ? なに言ってんだ、俺が?」

「今のメッセージも、美浦(みうら)に送るつもりだったんだろ? 俺たちがバンドをやるつもりらしい、ってな」


 俺の通告を受けた犯人――北原は、たじろぎながらも抵抗してくる。


「違う、普通に友達に連絡してただけだ」

「こんなところで?」

「っどこだっていいだろ。なんだよ、なんなんだよ。裏切り者はいないって、お前が言い出したんだろうが」

「ああそうだ。みんな切り替えてがんばろう――でもそれは、本当に裏切り者がいないときの話だ。こうしてお前が内通者と明らかになっちまった以上、話は別だよ」


 俺の言葉を聞く北原は、わかりやすく動揺していた。

 これだ、この反応。木曜のHR(ホームルーム)でクラス全体を見渡した時に不自然な反応を見せた数人のうちの一人、容疑者は北原で間違いないな。


 申し訳程度の観察能力だが、『今の俺』の直感は研ぎ澄まされているからな。(いもうと)とのチェスで学習した『嘘を見抜くスキル』がこんなところで活きるなんて。というか、()()()()()()()()活かせてよかった。



「待てよ、そんなの言いがかりだろ。証拠もなしに適当いってんじゃねえ」

「証拠ならあるぜ。なによりそのスマホの向こうにいるやつが作ってくれたからな」


 テンプレ通りの反論を鼻で笑いながら、俺は顎で北原のスマホを指した。

 北原は俺の言葉の意味を理解できていない様子で、眉をひそめながら説明を欲している。


「一昨日の放課後、俺たちは一部のメンバーで集まって会議をしたよな。そしてその後、委員長から連絡があったはずだ。改訂版『ブレーメンの音楽隊』、その台本データを」

「……ああ、確かに受け取った」

「そのファイルが美浦の手元に渡ったみたいなんだよ。だから木曜の放課後の時点で、美浦はご五組の最新の情報を把握していたことになる」


 北原宏介の額から冷や汗が滲んだ。

 その様子を嘲笑うように、悠長に、俺は続ける。



「だがさっき、本番の直前で演目の変更がなされた。内通者からしたらたまったもんじゃねえよな。二転三転する五組の演劇、それが最終的にいちばん初めの脚本に戻るとなれば、急いで雇い主に報告しなけりゃならないな?」

「――それじゃあ、今俺がスマホを触っていたことが、美浦に情報を横流ししてた現行犯だって言いたいわけか? たったそれだけの情報で容疑者に仕立てあげようなんて、言いがかりもいとこじゃねえのか」


 俺の言わんとする言葉を察して、北原が勢いよく食いかかってきた。そうそう、そうやってしっかり食いついとけよ。


「なるほど。じゃあ美浦がそのデータを持っていたことに関しては、なにも異存はないんだな」

「そりゃあ……。誰かが漏らしたんなら、持っていてもおかしくないんじゃないのか。それだけで俺に結び付けるのは無理があるだろ――」



「あのデータな、お前にしか渡してないんだわ」



「――――は?」


 北原は、今度こそ言葉を失った。



「たぶん委員長からの連絡には、会議の出席者のみに送ってるとか書いてあったろうけど……実際には北原、お前にしかあの文言は送ってないんだ。あの時点であのファイルを持ちうる人間といえば、世界中でお前か作成者の俺しかいない」

「なんで、そんなこと」

「なんでって、お前をおびき寄せるためだ。別にお前だけじゃない。容疑者全員にそれぞれ違う内容の機密事項を添付してある」



 俺が委員長に指示したのは二つだけだ。俺が絞った内通者候補を集め、会議とかこつけてわざと重要な情報を漏らさせる。あの会議に招集された人間の半数は容疑者だ。


 そう、半数。当事者であり被害者である委員長はもちろん除外。まちがいなくシロの滝田(たきた)朱音(あかね)はいわばサクラ、中心的人物を出席させることで意味のない会議に意味のない意味を持たせる。

 そして、花室冬歌(はなむろふゆか)も。


 もう一つの指示は、今言ったことだ――裏切り者として美浦に情報を流しそうな数人に、それぞれ違う内容の機密情報を『会議の出席者のみに送信』している前置きをつけて添付すること。俺の用意した三つの機密文書――という名目の餌を、容疑者にそれぞれ転送させた。


 いわばその内容こそが五組の唯一の生命線、そこを断ち切られれば今度こそ五組の演劇は崩壊する。

 犯人にとっては恰好の餌食だろう。身元を特定されない以上、リスクも十分に少ないのだから、まさしく絶好の機会。



「んで、お前はまんまと美浦にデータを明け渡したわけだ。お前しか知るはずのない資料。偽の重要事項をな。おかげで理特は俺たちの本当の計画に気づくことなく、無駄な妨害を働くことになった」


 いや。そもそもなにもしてこないだろう。楽器を使う線はリハでの一件で潰され、苦し紛れの代替案は取るに足らないものになった。美浦は俺らを追い詰めたと勘違いする。


 妨害工作を働くのにもリスクは伴う。勝ちを確信した美浦はこれ以上目立つ行動を取ることはなくなる。



「待てよ、美浦が知ってるって、なんでそう言い切れるんだよ。天川、お前は適当に情報が漏れたことにして、たまたま俺を狙っただけなんじゃねえのか」


 その反論も予想していたものだ。っつーかさっきから、俺がそうなるよう誘導しているだけなんだけどな。


「そりゃあな、本人が言ってたんだから仕方ねえだろ」

「だから、誰が美浦本人に確認できるんだって……」

「いるだろ、うちに一人。同じサッカー部で、コミュ力もある命知らずなバカが」

「――、まさか」

「滝田だよ。あの意味のない会議を切り上げたのはあいつだったろ。部活があるからつって。そんで北原はサッカー部の練習中に美浦にデータを転送した」


 冷静に考えれば、第三者の目に留まるタイミングで連絡するのは賢明でないことは分かる。北原だってバカじゃない。できるだけ足のつかない手段を取るだろう。


 だから、冷静にさせないことにした。

 委員長の送ったメッセージには、もう一つ注意書きを添えさせてある。



『外部への漏洩を防ぐため、このメッセージは三十分後に削除する』



 こうすりゃ否が応でもその場で転送しなきゃなくなる。

 時間の制限を設けて冷静な判断力を奪う。美浦が委員長にやったのと同じことをしたまでだ。


「練習終わり、滝田は美浦に接触した。それとなく文化祭の話題を持ち込んで、俺たちにとって致命的となる情報の漏洩、その言質を取った。疑ってんなら今から直接美浦に聞いてやろうか?」


 そんなことするまでもなく、滝田に録音させてあるから抜かりはねえんだけど。



「お前……! 騙したな!」

「騙した? ――っは、てめえがソレを言うのかよ。俺たちを欺いて、黙って騙し続けてきたお前が」


 鬼気迫った顔の北原を、嘲るように見下ろした。

 よくもまあ都合のいいことを恥ずかしげもなく。騙していいのは騙される覚悟のあるやつだけだ。自分だけ被害者ヅラがまかり通るなんて間違っているぞCC!


「まあでも、俺は信じてたぜ? 裏切り者と仮定したお前なら、俺の敷いたレールをバカ正直に辿ってきてくれるってな。おかげで俺は、お前の残した足跡を証拠として突きつけるだけでよかったわけだし」

「――っく、そ……!」


 なにも言い返せない。逃れる術を断たれ、北原の表情が怨嗟にまみれて歪む。


「どうしてこんなことを?」


 これ以上の抵抗は無駄と悟ったのか、北原は逡巡したのち、重々しく口を開いた。



「……美浦に賭けたんだ」


長くなっちゃったから切ります!

次だよ、次が重要回!

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