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【2-4】 作戦会議〈Ⅰ〉

 

 美浦(みうら)の提示する勝負内容について神峰(かみね)会長を介して連絡が届いたのは、翌日の朝だった。



『文化祭の部門別投票数と、期末テストの各教科上位二名の合計点それぞれを比較し、獲得した項目の多いクラスの勝利とする』



 二年五組、朝のHRはざわつきに包まれていた。

「ごめん、わたしのせいで……」


「いやいや、委員長が気にすることじゃないっしょ」

「それな? わざとぶつかってくるとか、普通にありえないでしょ」

「むしろ、日頃溜まったストレスを発散できるいい機会じゃね? 特進だかなんだか知らないけど、目にもの見せてやろうぜ」


 みなが口々に委員長をなだめている。クラスの誰からも信頼されているのは、彼女がひとりひとりに健気に寄り添うことで培った人徳だ。



「みんな……」

「つーわけで、文化祭の演劇と期末テストで勝負することになったんだけど、一つ問題がある」

 いい感じの雰囲気に割り込む形で、俺は目下の課題を示した。


 文化祭。学年ごとにステージ演目の評価をし順位付けが成されるイベント。そしてその評価項目は審査員票、生徒票、全体票の三つ。

 審査員票はあくまで教師陣の裁量だ。この海南とてそこのあたりの公平性は保たれる。

 つまり文化祭で高得点を獲得するためには、生徒票がモノをいうわけだが。



「あっちには美浦がいるしな。生徒票は特進でかっさらわれそうだ」

 そう、この生徒票と海南(うみなみ)の学園法、これがまた相性が悪い。悪いのか良いのかってところだが。ともかく変なシナジーを生んでしまっている。

 個人の人気が票に直結する。もうお気づきかと思うが、この投票形態は特待生にがぜん有利なものなのだ。



「でもよ、案外いいとこ行くかもしれないぜ? 男子はともかく、こっちには委員長と花室(はなむろ)さんがいるんだ。男子の票は稼げそうじゃね」


 さしもの桜川(さくらがわ)ひたちといえど、万に通じるわけではない。万人にウケる彼女ではあるけれど、その全員にブッ刺さる万能武器を有しているわけではないのだ。


 その点、こちらは手札が豊富だ。クール系美女の花室冬歌(ふゆか)と、巨乳チョロイン属性持ち委員長、桃園はとり。この二大属性をもってすれば、ヒロインにだって太刀打ちできる。いわば人海戦術だ。なによりこの巨乳っていうのがデカい。巨乳だけにデカい。いやなんも上手くねえんだけど。


 ともかく、懸念点の一つである桜川対策は申し分なし。男子票は俺たちと六組で大きく分かれるだろ

 う。



 もう一つの問題が女子票。これがまた厄介で、海南二年において桜川のような絶対的人気を博したアイドル的存在は、男子には一人しかいない。


 それがまさに美浦悠馬(はるま)――理系特進クラスのエースなわけで、仮に俺らが花室たちの力で男子票を全て獲得できたとしても、それでやっと引き分けが狙えるレベルだ。んでそんな仮定は桜川がいる限り絶対に成立しない。そっか、あいつヤっちまえばいいんだ(名案)!



「たしかに、生徒票は考えものだ。憎たらしいことにあのイケメンに女子票は持ってかれかねない」

「だ、大丈夫。私はあの人には入れないから」

「そこ、変に気遣わないでくれ。なんか虚しくなる」

「あたしは入れると思う!」

「そこ、ユダがいる。処せ」


 おどおどしてやたら視線を逸らす委員長と、はっきりと言いのけた小柄な少女、朱音(あかね)赤塚(あかつか)朱音。

 そだ、こいつもいるじゃん。男子票はこれで思うところないな。



「そこで、考えがある」

 一言とともに、俺はスマホを繰ってファイルを送信した。

 送信先は二年五組、このクラスのグループ。通知に気づいた生徒たちが一様にそのファイルを開いたところで、俺は続ける。


「これは文化祭の規約だ。やっていこととダメなこと、準備期間の細かいルールがびっしり並んでる。その中の一つ、予算について目を付けた」


 言われた通りに、みなが目を通す。遵守事項の真ん中あたり、それ一つは他の規約と遜色ない、ありふれた内容だ。

 だがしかし、モノは見方によるもので、多少捻くれた人格をしていりゃあこんな文章でも曲解できるのである。


「『予算から購入した物品は学内保管の備品として扱われる』『ステージ企画にて使用する物品は学内の備品として扱われているものに限り、個人保有の機材などの使用は禁止とする』……つまりは、予算で買えるものならなにを使ってもいいわけだ」


 クラスメイトたちの怪訝な視線はまだ止まない。俺の言葉にしっくり来ていない様子だ。

「確かに美浦は手強い。生徒票を奪うのは考えものだ。……だから考えた」

 だからもっと単純に、単刀直入に言ってやろう。



「バンドをやろう」

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