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【0-0】 天川周の原罪

【0 星の生まれる場所で】



 とある高校の少年少女を取り巻く青春模様については、閑話休題とおくとして。


 時を数年前に遡る。

 これは、ある少年の話。

 平凡な家庭に生まれた、平凡な少年が、平凡でなくなるまでの回顧譚。



 少年は、『負けた』ことがなかった。


 世界には二種類の人間がいる。幾億と存在するヒトの順列を、人間の価値を定めるものさしに、少年は物心ついた時から思い至っていた。


 二極化された人間。両極に帯を貼るとすれば、『強者』と『弱者』? ……否。そんなものは盲目的な価値を飾ることはあっても、たらしめる事実には到底及ばない。


 この世界は、『勝者』と『敗者』でできている。

 この真実に、逆は存在しない。この世のあらゆる争いにおいて、強者は常勝を誇ることはないからだ。強者の慢心、弱者の工夫。勝負事など、些細な要素によっていかようにも揺らぎうる。大事なのはそんな過程ではない。



 物心つく頃にそう至った少年の信念には、キッカケがある。


 常勝無敗を誇った少年は、しかしある日、初めての敗北を喫した。


 初の敗北は、少年にとって耐えがたい苦痛であった。巻き付いた劣等感の鎖が全身を軋ませ、歯噛みした口元からは血が滲む。呪いにも似た屈辱感が、熱病のように少年を蝕んだ。


 こんな想いをするのなら、死んだ方がマシだ。二度とこの感覚を味わえば、自己の抑制機構が破綻して人格が崩壊する。


 やがて少年は、ある男の言葉を通じて、今までの常識が覆されたことに驚愕した。

 生まれてから彼がその目に映してきた世界の姿。その色彩が反転した。

 そして少年は、学習することを知った。敗北から学ぶことを知った。


 ただ一つの結果にして、絶対的な事実。『勝者』こそが正義であるという認識を、少年は改めた。

 敗北は死ではない。しかして生き続けるには必然と勝利が要される。

 その貪欲な勝利への渇望が、彼に超絶的な学習能力を備え付けた。



 一度経験してしまえば、究極に至れてしまう。



 そこからは単純だった。

 学問、武道、娯楽、人徳。現存するあらゆる分野において、少年はひとたび見聞に触れてしまえば、そこから派生する技術を独自に応用して発展できる。もっとも、彼自身にその才能への執着がなかったために、身に着けた技術はどれも永くは続かなかったが。


 ただ一つ、恋愛に関してはまっぴらだったのが少年にとっての課題だった。

 ありていに言って、彼にとって恋心とはささいな探求心であり、たった一つの知識欲に過ぎなかった。それ以上でも以下でもない、好奇心の行く末であることになんら異存はない。



 そんな彼の前に、彼女は現れた。

 千切れ雲が映る空。雨の底。桜舞う道で。

 あの日の彼女と違う姿で、違う声で。しかし、あの日と同じ彼女。



 そんな彼女の記憶を、彼はまだ知らない。

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