【6-1】 桜川ひたちの憂鬱
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【Ⅵ Consolations】
五月十六日(金)
憂鬱な朝がやってきた。
季節外れな雨が降り積もっているとか、頭髪検査やテストがあるとかいうわけじゃない。
過ごすルーティンじみた生活は同じ。寝ぼけ眼を擦って、眠気覚ましにランニング。シャワーを浴びてから、昨日勉強した教科の復習をして、電車の時間に間に合うように家を出る。これがわたしの毎朝のくらし。
中身は違えど、みんなそれぞれいつも通りの朝を過ごしている。
たぶん、みんなにとっては代り映えのない日常。でも、わたしにとってそれは、決定的に変わってしまったのだ。
具体的にどう変わったかというと、ある人物の前で大っ恥をかいたのです。
ある人物って誰かって? あいつらよ、あいつら。
ここ最近、やたらとわたしに噛みついてくる生意気なやつら。
不本意にも二人の顔を脳裏に浮かべながら、洗面台の前に立つ。
もやもやする気持ちを胸に浮かべながら、ふと見た鏡に映る自分がやけに腑抜けて見えて、思わず顔をしかめてしまう。
あー、もやもやする。
面対称の自分とにらめっこしていると、募る気持ちがふつふつと煮えたぎってくるのが感ぜられた。
「だーーー‼」
洗顔するつもりが、どばーっと勢いよく顔を擦ってしまう。
だめだ、耐えられない!
叫喚の理由は一昨日のことにある。
一昨日の放課後。旧生徒会室での一幕。
二人の普通科生徒、天川周と花室冬歌の前で、無様にも泣きついてしまったのだ。
なんて姿晒してんのよ、わたし!
いくら友達が欲しいからって、あまつさえあの二人に見抜かれたからって、バカ正直にカミングアウトする必要ないじゃん!
それにしても、なんなのよあいつら! 急にわたしを寄って集って責めだして、なにもそこまですることないじゃない!
花室冬歌はことあるごとにわたしに盾突いてくるし……なにより、天川周。わたしの心の内を読み取ってくるなんて、あいつ、やっぱりただ者じゃない!
はあ。
昨日一日、まるで同じ脳内会議を繰り広げたけれど、それで心が穏やかになったかといわれればこの通り、一切の効力なんて見られなかった。
憂い気は晴れぬまま、歩き慣れた通学路を越え、校門を潜り抜ける。
「ひたちちゃーん!」
横を歩く女子生徒に声を掛けられた。誰だっけこの子。ああ、たしか最近お菓子作りハマってるって言ってた子だ。メイク変えたんだ。可愛いなあ。わたしメイクしないからそういう話あんまり共感できないけど。
適当に話を合わせていると、今度は男子二人組が声をかけてきた。誰だっけこの人たち……ああ、自称邦ロ好きのバド部の人だ。パーマかけたんだ、気づかなかった。彼女と別れたんだっけ? でもそっちの方が幸せかもね。死ぬほどどうでもいいけど。
その後も昇降口から廊下にいたるまで二十人強の人と軽い世間話をして、自分の教室にたどり着いた。
昨日も今日も、この廊下を歩くたび、一昨日のあいつの言葉が胸の中で反芻される。薄っぺらい付き合い――たしかに、空虚さを感じているのは事実だ。
でも、だからってあいつに説教される筋合いなんてないんだから!
これがわたしの生き方。みんなからもてはやされるのは悪くない。ヒロインだなんて呼ばれてるあだ名も、けっこう気に入ってるし。
そして、なにより――……。
だから学校では――完璧なヒロインを演じきってみせるんだ。
「おはよ!」
「お、桜川!」
「おはよう、ひたち!」
教室の戸を開けるや否や、クラスメイトの視線がわたしに集中するのを肌で感じる。
「なんか桜川さん、顔色悪くない? 大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫! 汐里こそ疲れ気味なんじゃない?」
「う。なんで分かったし。昨日推しのライブ見漁って夜更かしちったー」
「わたしもよくやっちゃうけど。無理しないようにね?」
ただでさえ騒がしいクラスが、わたしの登場で一層賑やかになった。
傍で話していた男子たちもわたしたちの会話に交じってくる。
「なんだ桜川。失恋でもしたのか?」
「バカお前、桜川さんに限ってそれはねえだろ」
「だな! もしもそんな奴がいたら、俺たちがぶっ飛ばしてるぜ」
「ちょっと、今あたしたちが女子会してたんだから! むさくるしい男はあっち行った!」
誰しも深いところを探ろうとしない。真相を知るのが怖いから。
ヒロインの恋なんて、半ば幻のように存在しないとみんな思っている。そしてみんなの暗黙の了解に、わたしは応えないといけない。
恋愛禁止とか。ヒロインというよりアイドルじゃん。
まあ、熱愛がバレて記者に囲まれて鬱陶しくなるよりは気が楽だけど。
ここならそんな心配もないし。
「あ。恋といえば」
「ねね、ひたちちゃん」
「ひたちちゃんって、天川くんと付き合ってるの?」
「…………へ?」
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