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それでもウチのヒロインが最強すぎる  作者: 天海 汰地
1章『Symphony:Blue in C minor』
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【6-2】 霹靂


 五月十五日(木)



 一限の準備で行き交う人々を横目に教室へ向かう道中、気にかかるものを見つけて足を止めた。

 五組の隣、二年六組――文特の教室前で、二人の男子生徒が一人の人物に詰め寄っていた。


 両者の顔は俺が良く知る人物であった。



 粟野(あわの)柿岡(かきおか)が、飯田(いいだ)になにか話しかけている。

 さすがの俺も、飯田の監督役でもあの二人の保護管でもないので、いちいち口を出すことは憚られるのだが、どうもあの二人の行動は怪しくてならない。


 仲良く談笑している、というわけではなさそうだ。飯田の引きつった笑顔から見てとれる。



「なんだ飯田、だってのに花室さんに勉強教えてもらってたのか?」

「いや、それは……」

「それってどうなのよ。お前は腐っても特進なんだ。いくら花室さんとはいえ、普通科のやつに教えを乞うなんて恥ずかしくないのか?」


「おい、お前ら」

 たまらず駆け寄って、両者の間に割って入る。

「なにしてんだ。柿岡お前、飯田になに言った」

「別に天川(あまかわ)が心配することじゃないさ。お前の懸念するような言葉をそそのかしてなんかない」


「オレたちはただ、飯田に提案をしていたんだ」

「提案?」

 訝し気に訊いた。嫌な予感は変わらず消えない。


「な、飯田。俺らが勉強教えてやるよ――ってな」

「は?」

「俺たちも同じ特進だ。赤点回避くらいなら俺たちでも手伝えるさ」

 ぶっちゃけ、いらん気遣いだな。



「本当なのか、飯田」

「う……うん」

 確かに、こいつらの言っていることに間違いはない。


 粟野と柿岡、こいつらはどんなに胡散臭かろうと、二人の所属は文特。

 特進クラス。

 文系の特別進学コースといえど、普通科と比べて全教科ぬかりはないのだろう。定期テストの範囲で教鞭をとることくらいはできるはずだ。級友に教えることはできるはずだ。



「お前らが言ったように、飯田は今、花室に勉強を見てもらってるんだ。面倒を見てもらってるんだ。他のやつと並行して、なんて効率が悪くなっちまわないか」

「だから、そのことを言っているんだ。花室さんから勉強を教わるくらいなら、俺たちが直々に面倒を見てやるよって」


 柿岡が上から目線で提案してくる。

 分不相応な自信に満ちた発言に、説き伏せる言葉の一つや二つ浮かんでくるが、喉まで出かかったその言葉らを飲み込んで平常心を保つ。


「いや、すでに花室と飯田の勉強会はいい感じに進展してるから、今になってお前たちに教師役を変わってもらう必要は……」

 いい感じに進展してるといっても、あくまで勉強会のみの観点だが。


 くだんの恋路の方は進展しているのかはさておいて、そちらの方もこれから発展させていく予定だから、ここで邪魔立てをされるのは阻止したいのだ。

 代わりなどいらない。

 粟野たち野球部の聞き慣れた単語で言うなら、代打。



「でも、花室さんは特進でもない、普通科なんだぜ」

 嘲るように言い捨てる粟野に、柿岡が続く。その言葉に論理的な理屈はありもしないのだが、彼らは堂々と主張する。


「そうそう。飯田は特進だからな、普通科に教わるってのはこちらとしても避けたいわけよ」

「分かるか? これは飯田のためだけじゃなく、特進全体の威厳に関わる話なんだ」

 威厳ねえ。

 こんなとってつけたようなレッテルに、威厳なんてあるのかしらん。


 だめだ、そろそろ吹き出しちまう。

 なぜこうも意識の高い連中は身の程を弁えない態度を平然と見せびらかせるのだろうか。見ていると胸がそわそわしてしまう。


 咳払いをして顔を引き締める俺に、粟野の冷たい声色がかけられた。



「忘れるなよ天川。お前も普通科なんだ」

 どうしてこいつらが引き下がらないか。その理由はうっすらと見えている。

 ここは俺が折れるのが賢明か。



「……授業や休み時間に、飯田が気になった問題なんかがあれば教えてやってくれ。あくまで放課後は、花室との時間に割かせてほしい」

「オーケー。そうしよう」

 口元を吊り上げ要求を呑む粟野。


「飯田も、それでいいか?」

「俺は構わないよ。むしろ、そこまで協力してもらっちゃっていいのか?」


「もちろんさ。同じ特進のよしみってやつだ」

 にやついた言葉を残し、粟野たちは不穏に去っていった。

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