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【5-9】 『ヒロインVS高嶺の花』(キャットファイト)、再来!

朝起きたらPV爆増してるし感想も増えてるしで驚天動地の勢いで喜んでしまった結果、茨城県南で微弱な揺れが観測されました。


 あくまでも退く意思はないと。断固としてこの部屋から出るつもりはないようだ。


 花室からアイコンタクトが飛んできた。もはや疲れすら見える顔で俺にヘルプを求めてくる。


 だがしかし、花室はよくやった。

 多少の茶番はあったが、俺の狙い通りの話の方向に進めたのだ。このまま桜川を誘導して、確認したい情報を聞きだし、都合のいい展開に持って行ければ。

 俺は桜川をまっすぐ捉え、問いを投げかける。



「前から思ってたんだけどよ、お前、なんでいつもこの部屋でゲームしてんの?」

 感じた疑問をそのまま投げかけた俺に、桜川は不服そうな顔をする。


「なんだっていいでしょ。いきなりなに、気持ち悪い」

「そんなに噛みつくこたあねえだろ。で、どうなんだ」

「べつに、ゲームばっかりしてるわけじゃないし。スマホ見て寝っ転がったりするし」

「ほぼ変わんねえだろ。だから、なに? そういうの、家でやればよくないか」


 わざわざ学校に残ってく意味ないだろと首をかしげるが、桜川は分かってない、といった風に肩をすくめた。


「わたしだって、できればそうしたい。でもそうはいかないの」

「どうして」

「なんで解らないのよ。それでもウチの生徒なの?」


 なんでお前の事情が必修であるかのような物言いしてんだ。

 俺の反応に対し億劫そうな表情をして、桜川は説明口調になる。



「自慢じゃないけど。わたしの家は開業医……代々継がれる医者の家系で、それなりに裕福な家庭なの」


 まじかよ。



 桜川ひたち――桜川。



 知っていた。

 俺は知っていた。桜川の名を。おそらくこの学校にとどまらず、市内のものなら誰もが知る慣れ親しんだ大きな病院が、その名を冠していた。


 勿論俺もお世話になったことがある。というか母親曰く、幼い頃に長く病床に伏し、面倒を見てもらっていたのだとか。


 こいつは、この完璧美少女はあろうことか、その経営者の家系の生まれだというのだ。


「家系の話はぶっちゃけどうでもいいんだけど。うちのパパが、けっこうお堅い人でね。今時珍しい昭和の思想をお持ちなの」

「なるほどな。大体わかった」


 その先を遮るように俺は相槌を打った。

 厳格な父親の目の届く家の中では、満足に羽を伸ばせないという有様なのだろう。

 家。

 そりゃ、そっか……医者の上澄みともなれば、あんな邸宅を構えることができるのも納得だ。


「それはもう厳しいのよ。欲しいものはなんでも買ってくれたり、旅行にも連れて行ってくれるんだけど。それはあくまでパパが許す限りのモノだけ」

 要するに、になんだ? 生きていくうえでこの上なく不自由ないけど、その分制限が多いってか。娯楽も許されない。だからこの旧生徒会室で自分の部屋のようにくつろいでいると。


 ぜいたくな悩みだが。


 それについて、俺にはなにも思う所はない。



「さすがに、だらけることくらいはできるけど。それでも口うるさいの」

「ふーん」

 間の抜けた反応しかできなかった。


 彼女の気持ちも、境遇も分からんでもないが、しかし親御さん側を完全に悪役だと決めつけるのはお門違いだ。

 まして部外者の俺が他人の家庭環境に口を突っ込むなど論外だ。第三者がその関係性を否定していい権利はない。


 それぞれの家には、その家庭における正義が成り立っているのだ。

 その正義に盾突くことには責任が生じる。

 俺にその責任を負うつもりはない。ゆえに、縦にも横にも、桜川に首を振ることはしない。



「ていうか、わたしが毎日ここでのんびりできるほど暇じゃないってことは知ってるでしょ? 昨日だって放課後、わたしのこと尾けてたんだし」

「えあ⁉ な。なんのことでせう」


 かと思えば話題が一転、桜川の目つきは鋭いものに切り替わった。視線に貫かれた俺は口笛を吹かして誤魔化そうと試みるが、無言の圧に耐え切れずうなだれる。


「とぼけても無駄だし。そこの女が隠れ下手なせいでバレバレだっての」

「花室……」

 やっぱバレてたのかよ。

 俺がジト目を向けると、花室はすでに縮こまってそっぽを向いてしまっていた。


「だから身を乗り出すなって言っただろ」

「だ、だってあまねが邪魔だったんだもん」

「だもんじゃねーわ。……そうだよ、尾行してた」


 俺はため息交じりに告白することにした。

 バレていたのなら仕方がない。ここで変に取り繕っても時間の無駄だ。


「だからというか、さっきの話はすんなり入ってきたな」

「むしろ腑に落ちたわ。あんな豪邸にどんな大富豪の生まれかと考察を巡らせたものよ」

 その態度に、桜川は自分で仕掛けておきながら戦慄した表情を浮かべた。


「な、ななななんでウチのこと知ってんのよ」

「尾けていたのだから当然でしょう」

 あ、開き直った。

 尾行していただけで済んだんだからよかったけどな。花室(こいつ)、お前のこと闇討ちしようとしてたんだぞ。

 花室の暴露に桜川は血の気が引いた顔色で腰を抜かしている。


「そこまでするか! 周、まさかあんたも……」

「言っておくが、俺は止めたからな」

「ついてきたのだから同じでしょう」

 あなたが連れてきたんですけれどね?


「くだらないことを……」

 はあ、と深いため息を吐いたかと思いきや、桜川からは予想外の質問が飛んできた。



「で、どう? わたしの尻尾はつかめた?」

「え? いやまったく。これといって弱みだとかにつながる収穫はなかったな」

「ふん。でしょ」


 なぜかまんざらでもなさげに口角を上げる桜川。てっきり尾行されていた事実に怒るかと思ったが、試すような問いを投げかけてきたり、この態度といい、なにがしか伝えたいという風だ。

 なんだか気味が悪いので、ここは素直に彼女の欲しているだろう言葉をかける。


「なんでそんな余裕なんだ」

「別にい? ただあんたたちが読み通りの人間で、面白くなっちゃっただけよ」

「あ?」

「嗅ぎまわられるのは想定内ってこと」

 余裕綽々な笑みで言う。


「いつか来るって分かってるなら、ただの一瞬も気を抜かないで弱みなんて見せなければいい。放課後や休日はともかく、学校内ですら私に取り入るスキは与えないから」


 それはつまり、四六時中俺たちに警戒態勢を敷いていればいいという極論。

 なるほど簡単な話だ、が、思い立って実行できることではないだろう。


「あんたたちはわたしを見張ってる気でいたんだろうけど、逆にわたしに見張られてたのよ。そんなことも気付かないでまんまと時間を無駄にしてたってわけ。ほんと滑稽ね!」

「黙って聞いていればこの女、つくづく忌まわしい……!」


 俺の隣では花室が歯をきしませ拳を握っている。

 それを見て好機と察したのか、桜川はここぞとばかりに叩きこむ。


「なんとでも言えば? 結局、あんたの力はその程度ってことよ。所詮二位止まりね! いつまでもわたしの前座として、席を温める権利をあげる!」

「あまね! 今すぐこの部屋から出てもらえるかしら! 目撃者さえいなければ密室殺人は成立する!」

「落ち着け花室。カッとなって完全犯罪を計画するのはやめろ」


 なんなんだ、このキャットファイトは。この二人は校内トップを争う頭脳の持ち主のはずなのに、二人揃うとなぜこんなにもバカらしく見えるんだろう。花室に関してはヒステリックの類まであるぞ。


 今にも噛みつかんばかりの花室を制御して、「なあ桜川」一拍置いて問いかけた。



「お前、友達いないのか?」

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