【5-1】 飯田の告白大作戦〈破〉
【Ⅴ National Emblem】
「じゃあ早速、作戦会議といこうか」
猛烈な告白大作戦(爆)からはや二日。
気だるい二限を終えた昼休み、俺たちは旧生徒会室で秘密裏に作戦会議を始めた。
長机を挟んで事務椅子に腰かけ、それぞれ用意した弁当をつついている。わりと広い一室に二人きりで昼ご飯だなんて、俺の思い描くような青春の一ページなのだが、むさくるしい男と部屋の中心に座しているというだけで言葉のイメージが百八十度変わってしまう。なにここ、拷問部屋かなにか?
「なにか策はあるのか?」
もしゃもしゃと白米を頬張りながら飯田が問うてきた。
それに俺は首を傾げ、うーんと唸る。
「それが今んとこ、思いついてねえんだよな」
会話の内容は無論、花室のことだ。
飯田が彼女に対して抱く恋心を解消することが俺の課題。
解消。解決もしくは消滅。
一応、開いた時間を使って考えてはみた。風呂入ってる時だけだが。
もちろん生半可な心意気であいつを攻略できるとは思っていない。花室に最大限の警戒を置いているからこそ、飯田は俺の言うがままに花室に接触し、勉強会に参加した。花室にとってもそんなに悪い印象は与えなかったはずだ。
とはいえ、実際のところは分からない。俺だって自分の作戦が正しいとは言い切れないし、主観的な物言いでしか評価を下せない。
もはや俺一人でこの件を解決するのは厳しいかもしれない。そもそも俺には誰かと付き合った経験などないのだから、ノウハウなどいまいち分からない。
つまり、恋愛に関して言えば、俺には専門外と言える。ある分野にはその専門家に頼るのが一番だ。
「俺もいまいちピンとくるアイデアがない。そこで、ある人物を呼んでいる」
「ある人物?」
こんこん。
飯田の反応と同時に、部屋の扉が丁寧に叩かれた。
来たな、その音に俺が応じると、そのまま戸が引かれ、一つの人影が俺たちの前にあらわれた。
眠そうにしていて開き切っていない瞼と、しゅっと締まったシャープな輪郭が特徴的な滝田昴が長机へと歩いてくる。
「す、昴?」
「よ、飯田」
目を丸めキョトンとする飯田に手振りをすると、滝田は俺の隣の事務椅子を引いて腰かける。
普段訪れない一室を興味深そうに見渡す滝田。ホワイトボードだとか積み重なった段ボールとかを面白そうに眺める滝田の横で、俺は飯田に事情を説明する。
「身近でこういうのに精通してそうなやつに声をかけた。滝田なら飯田と同じサッカー部だし、いろいろ協力してもらいやすいだろ」
花室と同じクラスだし、なにかと役に立つことは間違いないだろう。
滝田は不敵な笑みを浮かべる。
「ま、そうゆうこと。しっかし飯田も隅に置けねえなあ。あの高嶺の花を手に掛けるとは」
滝田の煽りに飯田は顔を赤らめた。
「花室さんは人気者だからさ。うだうだしてられないだろ」
「それでだ。やけに女慣れしていやがりそうな滝田に花室の攻略法を一緒に考えてもらうわけだが。アテはあるか?」
「でもぶっちゃけ、難しいとは思うぞ。つけ入るスキがなさすぎる。趣味、友人関係,、悩み事……踏み込む領域さえあれば、あとは話術でどうにでもなる。俺の女を落とすトーク術を伝授してやってもいいが、飯田にゃ難しいか」
聞いていて、滝田の言うことがどこかで聞いた覚えのあることだと思い当たった。
桜川だ。あいつもこの前、似たようなことを教示していた。
「つまり、花室の人間性を明かせればいいんだよな」
「どういうことだ、天川?」
「今まで通り花室と過ごして、会話の中であいつの人となりを見抜けばいいってことだ。要するに、やり方は間違ってなかったってわけだ」
「ザッツライト。内容の問題だ」
恋愛というのは情報戦だ。たぶん。
相手の事情や人間性から話をうまく合わせて、そいつの好みに合う人間に成ればいい。
人との距離を縮めるのには共感を得るのが手っ取り早い。単純に話が合うと会話が盛り上がるし、なにより潜在意識に問いかけることができる。共通点の多い存在を無意識的に気に掛けるのは自然な道理だ。
「なあ飯田。お前高嶺の花にグイグイ無茶言ったらしいじゃんか」
「わ、悪かったよ。血迷っただけだ」
「別に責めてはねーよ。むしろ飯田らしくて感心した」
滝田は笑いを抑えることなくからかうように言う。
「ま、安心しろ。ぶっちゃけ向こうは軽く引いただろうが、それでお前のことが嫌いになったりはしないと思うぞ。どっちかっつーとまだ知らないから、ってのが大きいだろ。逆に言えば、好感度なんてここからいくらでも上げられるのさ」
信憑性がなさすぎる。が、滝田は自信満々な風だ。
「この俺に任せろ。必ず飯田を究極のモテ男にしてやんよ!」
「さすが滝田! よっ、色男!」
最終目標が変わってね? こいつの男磨きにつき合う気なんかねえんだが?
まあいいか。俺関係ねーし。
先日、はじめてレビューをいただきました! マッジで嬉しくて心臓飛び上がっちゃいました




