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それでもウチのヒロインが最強すぎる  作者: 天海 汰地
1章『Symphony:Blue in C minor』
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【2-7】 花室冬歌のウラオモテ


「く、くるなああ‼ 幽霊!」

「失礼ね。ちゃんと人間よ」

「…………花室(はなむろ)?」


 そうぼやくと、幽霊――もとい花室は、乱れた前髪を払う。

 か細い吐息も相まって、その仕草がやけに色っぽく感じられる。


「なんで、おまえが……」

「見ての通り、絵を描いていたのよ。あなたこそ、何をしているの」

「それはっ」


 声が裏返って変な返事になってしまった。



「それは……」


 俺の手元に目をやった花室が、握られたノートに反応した。


「あ、ああ、これか? そこで拾ってな。もしかして花室、このノートって、お前の?」


 俺の質問に、花室の纏う雰囲気は一段とおどろおどろしくなった。


「……見たわね」

「見たって、なにを」

「この絵と、ノート。そして私のことよ。言い逃れはできないわ」


 花室は眉根を寄せて、握った筆で自分を指す。

 うむ。その現場を見られているしな。花室を覗いているとき、花室もまたこちらを覗いているのだ。

 ましてこいつにハッタリなど通用しないだろう。ここは正直に出た方が吉か。



「見ました」

「やっっぱりね。…………どうしよう、見られたぁ」


 その様子に、俺は面食らってしまった。

 てっきり左手のナイフで刺し違えられるかとビビったが、果たして花室の口から零れたのは、しんなりした弱音だった。



「学校では他人なんて気にしない孤高なキャラでやってきたのに。もう全部終わった。そうですよ、私は所詮あの完璧ヒロイン桜川(さくらがわ)ひたちのナンバーツーですよ、ははは……」

「花室、お前……」


 完全に桜川に嫉妬してやがる。


 確かに、俺たちが普段見る花室冬歌(ふゆか)は、常に凛としていて孤高という風で、まさしく高原に咲く一輪の花と言う感じだ。


 だが、今目の前にいる少女は何者なのだ。

 きりっとした顔はだらけきり、すっと伸びた背筋は縮こまっていて、ふてくされた様子でぶつくさと呟いている。もはや別人だ。


 いやいやいや。なんだこの既視感は。


 このような現場に居合わせたことが、一度のみならず二度までも、ましてや校内で指折りの美少女として祀り上げられる二人の意外過ぎる一面を目の当たりにするなんて。

 それもまるで、桜川と正反対である。


 一面といえば、もう一つ、花室に問いたい事実があった。



「なにお前、絵描きだったの?」


 極度の桜川アンチだという花室の本性に気を取られてしまって、もう一つの新事実に意識の要領を割けていなかった。

 逡巡する花室と奥のキャンバスを見比べる。この絵を、こいつが描いたってことか?


「……失礼ね、ただの著作物よ」

「最悪じゃねえか」


 人のモンかよ!

 恥ずかしがりながら言うことじゃねえぞ。や、恥ずべきことだろうなんけれど。なんの言い訳にもなってねえよ。


「この旧美術室にある備品は全て校舎改築の際に放置されたものだから、どう使っても問題はないわ。この部屋にある作品もそう」


 処分するなら好きに使ってもいいか。……いいのか?



 だが、俺はそこである違和感に引っ掛かる。

 花室の描いたという、厳密に言えばもともと作品として在った絵に花室が上書きしたという絵の前に立った。


「にしては割と新しめっつーか。紙とか絵具の渇き具合的に、昨日やそこらあたりに描かれたもんじゃねえか?」

「なかなかの目をしているわね。そう、これは私が昨日描いたものよ」

「でもお前さっき、著作物だって」

「ええそうよ。この絵は間違いなく、ある生徒の著作物なのだから」


 依然として花室の言わんとすることが理解できない。

 ある生徒、とこいつは言ったが、とても素人の手によって作られたものではないような気がする。旧といえど元は美術部の部室だったわけだし、その道に精通した人物が描いたとなれば当然の出来と言えるが、いや違う。これはそういうレベルの話じゃない。


 もっとこう、プロに近い技術を誇る芸術家が生み出したような。



「なんでわざわざ作られた作品を。……いや、まさか」


 そして、俺の脳裏で散らばった要素がつながった。


 花室と、出来上がったばかりの桜の景色の、その向かい。

 部屋の隅に寝そべったキャンバスを持ち上げて覗き込む。積年の埃が舞う中で、よく知るその文字が、名前が、そこにはあった。

 桜の景色を題材に描かれた一枚の絵画。作者の名前は――、


「桜川、ひたち。……もしかして、さっきまでお前が描いていたっていう絵は」



「ええ。もともとはあの女の作品だったの」

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