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私のこと

作者: あか

少し強い言葉が多いです。

 たまに将来のことを考える。私はどうしてるだろうか。スポーツ選手やミュージシャン、漫画家や教師、サラリーマンや俳優、誰かと結婚して専業主婦になってたりするのかもしれない。いろいろな選択肢があるのは知っているが今一つ想像がつかない。


 小学五年生になり、自己紹介カードが配られた。私の名前は橋本未来、年齢は10歳、誕生日は6月22日、好きな食べ物は甘いもの・・・。一つだけ項目が埋まらない。私には得意なことがない。運動が苦手で走るのが遅い。クラスでは下から3番目か4番目ぐらいだ。勉強が苦手で100点が取れない。お母さんがドリルをいっぱい買ってきてくれるけど難しくて半分は間違えてしまう。字を書くのが苦手でよく間違えられる。習字に通っているけどなかなか上達しない。本当は何か堂々と胸を張って「得意なことはこれです!」と言いたかったけど、いつまでたってもその何かがわからなかった。

「未来ちゃん、どこか悩んでるところあるの?」

佐藤先生はとてもいい先生だと思うけど、何故だか私は自分のこの悩みを相談することができなかった。

「大丈夫!ちょっとだけ考えてただけで悩んではいません!」

少し心の奥がちくっとした。


 結局「得意なこと」にはピアノと書いた。3年生になってからやり始めたもので2年間ほど習っている。まだ難しい曲は弾けないがそれでも、これぐらいしか思いつくものがなかった。このクラスでは山本さんと花ちゃんがピアノを習っている。二人とも小学1年生の時にはすでに習っており今では音楽の授業でピアノを任されるなど大活躍している。二人と比べてろくに弾けない私がこんなこと書いてよかったのかなといまだに不安があった。


 3週間ほどたった総合の時間、自分の得意なことで作文を作ることになった。期間は2週間。最後の授業でみんなの前で発表する。私は前に何か「得意なこと」を書いたな、ということを思い出しその時書いたことを発表しようと思った。自己紹介カードは提出してしまっているので実際に見て確認することはできない。必死に何を書いたか思い返した結果10分ほどかかったが何とかピアノと書いたことを思い出した。作文の構成は指定されている。初めに得意なことの紹介、真ん中に実際に何ができるのか、最後にこれから何をしたいかを書く。初めは簡単だ。

「私はピアノが得意です。3年生から習い始めて2年ぐらいたちます。毎日家で練習してます。」

少し短い気もするが周りの子たちを見てみると同じような感じなので問題ないだろうと思いこれで行くことを決めた。次に真ん中だ。実際何ができるのか考えてみる。私は依然として不器用だ。「得意なこと」に書いてから3週間たち少しできることも増えた。しかし周りの子たちはみんなもっと上手にやっている。私ができることは練習すれば私じゃなくてもできてしまう。そう思うと自分ができることのどれもがかすんで見えた。

「どうしよう。ほかに何かないかな。・・・いやないな。・・・どうしよう。」


 結局授業中には何も進まなかった。来週の総合の時間に同じようにこの作文を書く時間があるからそれまでに何を書くか考えなきゃいけない。授業が終わっても何も書けなかったという気持ちが尾を引き、暗くなる。そんななか、先生が来た。私が書きあぐねているのを見越してここまで来たのだろう。

「未来ちゃん。悩んでるの?」

「・・・自分が何が得意なのかわからないです。何を書けばいいですか?」

一瞬言いよどんでしまったが相談することに決めた。こういうことを書けばいいよ、と一言一句教えてほしかったのかもしれない。

「・・・先生もそう言うの書くの苦手だったんだよ。あまり得意といえるようなことがなくてさ。」

「先生も?それじゃあ先生はどんなこと書いてたんですか?」

自分と同じ悩みを持つ人がいるとわかると少し安心する。

「ずっと悩んで、結局ほとんど嘘書いて提出したんだよ。」

先生は隣で昔の話を始めた。

「嘘書いて提出したらさ、自分で自分を否定してるみたいでつらかったんだよ。多分あの時先生は「私はこういう人間です!」って言える名札みたいなのが欲しかったんだと思う。ほかの人よりそれが劣ってるってわかったら自分の存在価値が否定されるみたいで、ごまかしてたんだと思う。」

いやな話だと思った。私とは少し違うと思いながらも否定しきれない強い言葉は聞きたくなかった。

「・・・そのあと先生が先生になってさ、不安だったんだよ。「大したとりえもないのにこんな人間がどうやって子供にものを教えるんだ!」って。だけど実際先生になったら全然そんな不安なくなって、今までやってきたことが役に立ってきたんだよ。小さいときにお父さんに教えてもらった正しい走り方の姿勢とか、必死に勉強したときのわかりやすい覚え方とか。あ、でも一番役に立ったのは大学生の時身に着けた早食いの仕方かな。」

少し笑いながら思い出すように話す先生。少し恥ずかしかった。

「必死に頑張って習得したことには胸を張っていいんだよ。そうやって頑張った先できっといつか「これが私だ!」って輝いていることに気づくんだよ。だから未来ちゃんもさ、好きなこと書いていいんだよ。時間がかかるかもしれないし、果てしなく苦労するかもしれないけど、きっとそれが自分の特別だって言える日が来るよ。」

先生は自信満々に話していた。おかげで何を書けばいいのかが少しわかった気がした。


 たまに将来のことを考える。私はどうしてるだろうか。今はまだ想像がつかない。だけどきっと大丈夫。いつだって私のしてきたことは私が特別にするんだ。それが私だ。

米津玄師さんのBOW AND ARROWが好きで書きました。つたない文章ですが楽しんでいただければ幸いです。

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