表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/22

第2章『神託者の日常』(続き4)

「慶一様!」


 セイラの声に、ハッとする。

 書庫の奥から、黒い靄のようなものが湧き始めていた。


(エラーハンドリング...忘れてた!)


「try-catch...じゃなかった」


 慶一は慌てて古の本のページを繰る。

 そこには確かに、予期せぬ事態への対処法が記されているはずだ。


 黒い靄は徐々に広がり、触れた本棚の本たちが軋むような音を立て始める。

 デバッグどころではない。早急なエラー処理が必要な状況だ。


「flow.pattern('archive').rollback();」


 慶一は反射的にロールバック処理を唱えた。

 しかし、黒い靄は消えない。


「違う...これは...」


 古の本を必死で読み解く。

 そして、ページの端に小さく記された注釈が目に入った。


「解りました」


 慶一は深く息を吸い、今度は異世界の言葉で詠唱する。


「理よ、還れ。混沌を秩序に。」


 その言葉と共に、セイラの杖が強く輝いた。

 光の糸が新たな模様を描き、黒い靄を包み込んでいく。


「もう一度...」


 慶一は現代のプログラミング言語と古の言葉を組み合わせた。


「const order = new Harmony();

 order.bind(flow).purify();

 我が理に従え!」


 まるでゴミ箱からデータが削除されるように、黒い靄が徐々に消えていく。

 光の糸は本来の穏やかな輝きを取り戻し、書庫内は静寂に包まれた。


「はぁ...」


 膝から崩れ落ちそうになる慶一を、セイラが支えた。


「よくぞ制御なさいました」


 セイラの声には、安堵と共に何か深い感慨が混じっていた。


「古の術者たちの記録によれば、理は時として反逆する...だからこそ、prototypeではなく、ちゃんとしたプロトコルが必要だったのですね」


「プロトタイプ...ですか?」


 慶一は思わず吹き出しそうになった。

 まさか異世界でソフトウェア開発用語が飛び出すとは。

 しかし、確かにその表現は的確かもしれない。


「セイラさん」


 慶一は震える手で古の本を持ち上げた。


「これまでの神託は、世界の理を『表示』するだけでした。でも、この本を使えば...」


「『実装』することができる」


 セイラが言葉を継いだ。


「そうですね。しかし、それには相応の責任が...」


 セイラの言葉が途切れた時、突然、書庫の扉が勢いよく開いた。


「大変です!神官長様!」


 駆け込んできたのはエリカだった。

 普段の落ち着きを失った様子で、肩で息をしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ