第2章『神託者の日常』(続き10)
「こちらへ」
セイラは二人を、いつもと違う方向へ導いた。
神殿の奥へと続く、慶一が見たことのない通路だ。
「神殿の第三の場所...」
エリカがつぶやく声が聞こえた。
どうやらこれは、普段の神官ですら立ち入ることの少ない場所らしい。
通路の突き当たりには、古めかしい扉があった。
セイラが水晶の杖をかざすと、扉が静かに開いていく。
「ここが...」
慶一の言葉が途切れた。
目の前に広がっていたのは、円形の広間。
天井まで届く本棚が、ぐるりと部屋を取り囲んでいる。
そして部屋の中央には...。
「これは...まさか」
大きな水晶が、台座の上で静かに輝いていた。
その周りを、無数の光の糸が渦を巻くように回転している。
さらに驚くべきことに、その光の糸は、書庫で見た古の本に描かれていた図と、ほぼ同じパターンを描いていた。
「世界の理を記録する水晶...」
セイラが静かに説明を始めた。
「かつて、神託者たちはここで世界の在り方を観察し、記録し、そして...」
「実装していた」
慶一が言葉を継ぐ。セイラが頷く。
「そして今、その必要性が再び」
セイラの言葉が終わらないうち、水晶が突如、強い光を放った。
同時に、慶一が持つ古の本も反応するように輝き始める。
「あっ...」
本のページが勝手にめくれ、見たことのない術式が現れた。
そこには、世界の理の根幹に関わる重大な警告が記されているようだった。




