199 シャズナとミミズ
農場での作業を終えた僕とシャズナは、夕方の陽光が赤く染まる帰り道を歩いていた。雪の中を歩くたび、足元から響くサクサクとした音が心地よく耳に届く。シャズナはいつものように、しっぽをふりふりと揺らしながら僕の横を歩いている。その足取りは軽やかで、まるで今日のミューズの初植えが楽しかったと言っているかのようだ。
道は静かで、僕たちの周りには雪に覆われた畑が広がり、その先にはまだ薄く霧がかかる森が見える。そんな中、突然シャズナが「にゃー」と短く鳴いた。その声に何かを感じ取り、僕は立ち止まってシャズナの方を見ると、彼は何かに注視していた。
「どうしたの?」と問いかけながらシャズナの視線をたどると、そこには一匹のミミズがひっそりと道を這って移動している姿があった。土の中ではなく、寒さに負けずに這い出したこの小さな生き物に、僕も思わず目を見張った。シャズナは興味津々といった様子で、耳をピクピクと動かし、まるでそのミミズの一挙手一投足を観察するかのように、しっぽをふりふり揺らしていた。
「そんなに面白いのかい?」僕は笑いながらつぶやき、シャズナの愛らしい姿を見つめた。彼の瞳は、いつも以上に輝き、まるで世界の秘密を解き明かそうとしている探求者のように見えた。その瞬間、シャズナがただの猫ではなく、好奇心と賢さを持ち合わせた特別な存在だと改めて感じさせられた。
ミミズはゆっくりと、しかし着実に道を渡っていく。その動きを見つめるシャズナは、一度も視線を外さず、じっくりと観察し続けている。風が吹き、冷たさが頬に触れても、シャズナはまるでその冷気を感じていないかのようだった。僕はそんなシャズナの姿に、思わず目を細めた。
「渡りきるまで見守ってるんだね、シャズナは優しいね。」僕が声をかけると、シャズナはちらりと僕を見上げて「にゃー」と鳴き、再びミミズに視線を戻した。その鳴き声は、まるで「もちろんだよ」と言っているかのようだった。
ミミズがようやく道の端にたどり着くと、シャズナは満足そうにしっぽをさらに振り、耳を動かして僕を見上げた。その賢く、優しい瞳には、僕がまだ知らない世界の物語が映っているようで、心が温かくなった。
夕暮れの中、僕はシャズナを見ながらこう思った。「この猫と一緒に過ごす毎日は、どんな些細な瞬間も特別なものになるな」と。静かな帰り道に、僕とシャズナの笑顔が広がっていった。




