198 ミューズの初植え
朝の冷たい空気が窓に霜を残していたが、日差しは冬の静けさに優しく輝いていた。シャズナが「にゃー」と目を覚ます頃には、僕もすでにキッチンで朝食を用意していた。暖かなスープと焼き立てのパンの香りが、家中に広がると、シャズナはしっぽをふりふりしながらテーブルへと向かってきた。
朝食を済ませると、次は昼食用のお弁当を作る番だった。シャズナがキッチンの端で大きな瞳を輝かせながらこちらを見守っている。その様子に心が和みつつ、僕は卵焼きや野菜のサラダを準備し、炊きたてのご飯を詰めたお弁当箱を二つ用意した。
「さあ、シャズナ、農場へ行こうか。」僕が声をかけると、シャズナは「にゃー!」と元気よく鳴き、玄関に駆け寄った。外に出ると、夜の間に降り積もった新雪が地面を白く覆っており、一歩踏み出すたびにキュッと音を立てた。シャズナは好奇心いっぱいにその雪を肉球でとんとんと触れ、冷たさに驚いたように一瞬耳をぴんと立てた後、またその動きを繰り返す。そんな仕草に思わず微笑みがこぼれた。
道中の景色は、雪が光を反射して輝き、まるで銀世界が広がっているようだった。シャズナと一緒にその中を歩くと、まるで僕たちだけの世界にいるような気がして、胸が温かくなった。ほどなくして農場に到着し、今日の目的であるミューズの種植えを始めることにした。
僕は鍬を手に取り、土を一面に耕し始めた。冷たい風が頬をかすめる中、土の重みを感じながら鍬を振るうと、温かな汗がじんわりと額に滲んだ。隣でシャズナは耳を動かし、時折雪の上に足跡を残しながら僕の作業をじっと見つめていた。その姿がなんとも愛らしく、思わず手を止めてシャズナの方を見てしまう。
「これでミューズもきっとすくすく育ってくれるね。」耕した土にそっと種を埋め、一つひとつに願いを込めて土をかぶせていく。寒さの中でも、この小さな種がやがて緑の生命を芽吹かせることを想像すると、未来が少しだけ輝いて見える気がした。
作業が終わるころには、太陽は頭上に昇り、昼の時間になっていた。僕は持ってきたお弁当を開き、シャズナにも食べやすいように準備してやった。シャズナはしっぽをふりふりと揺らし、さっそくぱくりと一口食べて、満足げに「にゃー」と鳴いた。その音がまるで「おいしいよ、ありがとう」と言っているかのようで、僕の心にもほっこりとした温かさが広がった。
白く輝く雪の農場で、シャズナと共に過ごす昼下がり。新しい希望と共に、また一つ小さな思い出が刻まれた。




