197 夕飯の炒飯とシャズナ
市場での買い物を終え、賑わいの名残が残る道をシャズナと共に帰路に着いた。冷たい風が頬をかすめる中、手に持つ買い物袋の重みが、これから始まる夕食の支度を予感させた。シャズナは僕の足元を軽やかに歩き、尾を揺らしながら鼻をひくひくと動かしていた。家へ帰り着くと、さっそく夕飯の準備に取り掛かることにした。
台所に立つと、心地よい暖かさが広がり、料理を始めるための緊張感が胸に宿った。冷蔵庫から取り出した食材を手際よく並べ、玉ねぎやニンジンを細かく刻んでいく。シャズナはその音に反応し、耳をピクピクと動かしながらキッチンの端に座っていた。まるで僕の動きを見守っているようで、その姿に思わず笑みがこぼれる。
「今日の夕飯は炒飯だよ、シャズナ。君も好きだよね?」と声をかけると、シャズナは耳をさらに動かし、期待に満ちた瞳でこちらを見つめた。僕はフライパンを熱し、香り高い油の中に野菜と一緒にご飯を投入。ジュッという音とともに湯気が立ち、部屋中に芳ばしい香りが広がった。その香りに反応して、シャズナは目を細めて嬉しそうに「にゃー」と鳴いた。
炒飯が程よく炒められ、黄金色に輝く粒が完成すると、僕は慎重に盛り付けを始めた。シャズナ用には、食べやすいよう小さな器に適量を盛り、冷ましてからテーブルへと運んだ。その間もシャズナは期待でいっぱいの様子でしっぽをゆっくりと揺らし、待ちきれないといった風情で前足をちょこんと持ち上げていた。
「さあ、お待たせ。食べようか。」僕が声をかけると、シャズナは素早く器に顔を近づけ、一口ぱくりと炒飯を食べた。小さな口から響く「にゃー」という音は、まるで「美味しいよ」と言っているようで、その表情は満足げだった。僕も自分の器に箸を伸ばし、出来立ての炒飯を口に運んだ。温かくほっこりとした味が、今日の疲れを一瞬で癒やしてくれる。
シャズナが夢中で食べている姿を眺めながら、僕の心にはほのかな幸福感が広がった。冬の寒さが感じられる外の世界とは対照的に、この小さな家の中は暖かさと静けさで満たされている。隣に寄り添うシャズナと共に過ごす何気ない日々が、僕にとって何よりも大切なものに感じられた。
食事を終える頃、シャズナはお腹を満たし、少し眠たげな様子で僕に近づいてきた。僕の足元に丸くなり、目を閉じるその姿を見て、また思わず微笑んでしまう。新しい一日を共に迎えるこの時間が、僕にとってのささやかな幸せなのだと改めて感じた夜だった。




