189 コートの魔法と心のざわめき
冬の冷たい風が街の角を吹き抜ける中、僕は行商人から購入した猫用のコートをシャズナに着せてあげていた。柔らかな毛並みでできた深いグリーンのコートは、シャズナの毛色にぴったりで、彼を一層愛らしく見せていた。小さな耳がコートの襟からぴょこっと飛び出し、しっぽを軽く揺らしているその姿に、僕の心は思わずときめいてしまった。
「これで寒さも大丈夫だね」と声をかけた瞬間、シャズナがにっこりと微笑んで、ふっと小さな「にゃー」という鳴き声を上げた。温かな瞳で見上げてくるその仕草に、僕は一瞬、何かが胸に刺さったような感覚に陥り、顔が自然と赤くなるのを止められなかった。
その瞬間、行商人が笑みを浮かべて、「おや? どうやら特別な気持ちがあるようだね」と言った。その言葉に僕は心臓が跳ね上がり、視線をそらしてしまった。行商人の察しの良さに驚きながらも、否定する言葉がうまく出てこなかった。
そのとき、シャズナはまるで僕の心を理解しているかのように、さらに近づいてきてまた「にゃー」と言った。目を細めて柔らかく笑うその姿は、まるで僕の気持ちに応えるようで、視線が交差したときに感じたものは単なる友情を超えていることを、僕に静かに知らせてくれた。
心の内が見透かされているようで、なんとも言えない恥ずかしさと、同時にじんわりと広がる温かさが僕の胸に満ちていった。行商人はその様子を見て、意味ありげな笑みを浮かべて何も言わずに立ち去っていった。
僕たちはその後、ゆっくりと家路についた。寒さは厳しいものの、シャズナの隣を歩くそのひとときは、心が温まり続けていた。家に帰り着くと、シャズナは新しいコートを身に着けたままストーブのそばに丸まった。僕もひと息つきながら、ふと視線を向けると、彼がこちらをじっと見つめているのに気づいた。
「今日もありがとうね、シャズナ」と声をかけると、彼は少しだけ尻尾を揺らしながら、「にゃー」と鳴いて答えた。その声が優しく響き、心臓がまたどきどきと音を立てた。外は冷たく暗い夜が広がっていたが、その中で僕の胸だけは、じんわりと温かく燃えていた。




