181 夕映えとシャズナと蜻蛉
秋の訪れを感じさせる涼やかな風が、静かに流れる時間を包んでいた。日が沈むころになると、空は茜色に染まり、山際から雲の隙間までが黄金の光に輝いて見えた。その美しい夕映えを、シャズナと一緒に楽しむために農場の小道を歩いていた。
シャズナはしっぽを揺らしながら、歩くたびに足元をカサカサと踏みしめ、リズミカルに歩調を合わせてくる。途中でふと立ち止まり、空を見上げると、その瞳には夕焼けの色が映り込んで、まるでその色彩に見入っているようだった。
「綺麗だな、シャズナ」と声をかけると、彼はゆっくりと座り込み、目を細めながら夕映えを眺め続けた。橙と紅のグラデーションが徐々に深まり、まるで空全体がひとつの絵画となって広がっていた。
そのとき、ふいに蜻蛉がひらりと飛んできた。夕陽の光を受けて、その羽は透けるように輝き、金色の縁取りをまとっていた。シャズナの耳がピンと立ち、興味津々な表情で蜻蛉を見つめる。しっぽを軽く揺らし、前足をそっと動かしながら、目で追いかけていた。
「にゃー」と小さく声を漏らしたシャズナは、その瞬間、蜻蛉を捕まえるつもりではなく、ただその美しさに感嘆しているかのようだった。まるで「綺麗だね」と言っているように見えて、胸がほっこりと温かくなった。
蜻蛉はしばらく空中で舞い、やがて風に乗って去っていった。シャズナはその姿を最後まで見送り、また夕映えに視線を戻した。彼の横顔はどこかしら穏やかで、その澄んだ瞳には何か特別なものを感じているように映った。
秋の夕映えと蜻蛉、そして愛猫と共に過ごすこの時間は、日々の喧騒から解放されるひとときであり、心の中に優しい記憶として刻まれる瞬間だった。夕暮れの中、シャズナの隣に座り込んでその光景を眺めていると、何とも言えない安らぎを感じた。




