179 シャズナと鯵フライ
市場を訪れた日のこと、行商人が笑顔で「今日は新鮮な鯵が入ってますよ」と声をかけてきた。籠の中には銀色に光る鯵が並び、その艶やかさは見るからに鮮度の良さを物語っている。
「この鯵は刺身やナメロウにもできますが、今日はフライ用のものが一番です。肉厚で揚げたときにしっかりとした食感を楽しめますよ」と行商人が教えてくれた。フライ用の鯵を手に入れ、調理法まで丁寧に教えてもらい、自宅へ戻った。
キッチンに立ち、鯵を下ごしらえし始めると、シャズナが足元にやって来て興味津々な様子でしっぽをふりふりし始めた。彼の大きな瞳はキラキラと輝き、まるで「何を作っているの?」と問いかけているかのようだ。調理をする手元を見つめては、耳を少し動かして匂いを確認しようとしている姿がとても愛らしい。
鯵に小麦粉をまぶし、溶いた卵にくぐらせ、パン粉をしっかりとつけた。熱した油にそっと鯵を入れると、ジュワッという音とともにキッチンに香ばしい香りが広がった。シャズナはその音に驚くことなく、むしろますます興奮した様子でしっぽを揺らし、前足で立ち上がって様子を覗き込んでくる。
「もう少しでできるからな、待ってろよ」と声をかけると、シャズナはにゃーと小さく返事をし、期待に満ちた表情を浮かべた。揚げ終えた鯵フライをお皿に盛り付け、少し冷ました後、シャズナ用に一口サイズに切り分けた。
シャズナは初めての鯵フライに舌鼓を打ち、ひとつ食べ終えるとまるで感謝を示すように「にゃー」と甘い声を漏らした。その声には満足と幸福が溶け込んでいて、思わずこちらもほっこりとした気持ちになる。
「おいしいか?」と尋ねると、シャズナはしっぽをゆるやかに振りながら、嬉しそうににっこりと笑ったように見えた。




