171 不機嫌と機嫌の狭間
農作業を終えて自宅に帰ると、シャズナが玄関前で待っていた。いつもなら嬉しそうに迎えてくれるシャズナが、今日は少し不機嫌な様子だった。耳がピンと立てられ、しっぽはまっすぐに伸びて、少しでも触れると「ふんっ」と小さく鼻を鳴らす。それはまるで、
『なんで連れていってくれなかったの?』
と言っているかのように見えた。
思わずその姿に笑ってしまう自分がいた。シャズナのちょっとした不機嫌ささえ、可愛くて仕方がない。つい、その小さな背中を見つめて、心の中で思わず呟いた。
「お前って、なんでそんなに可愛いんだろうな。」
でも、もちろんそのまま放っておくわけにはいかない。シャズナが不機嫌だと、家の中の空気もどこか淀んでしまう。それに、ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまったなら、すぐにでも直してあげたくなる。
近づいて、シャズナの頭を優しく撫でる。最初は少し抵抗のように体を震わせていたが、次第にその肩の力が抜け、ぴっと伸びたしっぽも、少しずつ緩んでいく。僕が手を止めると、シャズナは「にゃー」と可愛らしく鳴き、今度はその顔に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「お前、本当に…現金だな。」
心の中でこっそり呟く。
それにしても、シャズナの機嫌の変わりやすさは、見ていて可愛らしいものであり、逆に心の中で何度も笑みが溢れる。ほんの少しのことで、こんなに表情が変わるからこそ、愛おしくて仕方がない。
僕はもう一度シャズナの頭を撫でると、今度はシャズナが甘えてくるように膝の上に乗ってきた。そのまま、しばらく一緒に過ごしながら、心がほっこり温かくなるのを感じていた。
「これからは、もっとお前を連れて行くからな。」
そう言いながら、シャズナを抱き上げて、ゆっくりとその心を癒してあげた。




