160 シャズナと一緒に納品から帰ってきたら研究と記録つけ
市場から戻ってくると、日も傾き始め、柔らかなオレンジ色の光が農場を包んでいた。シャズナは僕の隣で歩きながら、納品後の疲れもどこ吹く風といった様子で軽やかに尻尾を揺らしている。「お疲れ様、シャズナ」と声をかけると、彼は一度小さく鳴いて応えてくれた。
家に入ると、収穫物を納めた後に手を洗い、作業着の汚れを軽く落とす。そして、テーブルに広げられたノートといくつかの資料に目をやった。ここしばらく研究しているのは「瓜きのこ」の栽培だ。市場の行商人から得た知識や実験の結果をもとに、日々改良を重ねている。
「さて、シャズナ。今日は新しい記録をまとめる日だよ」と言いながら、研究用のランプに火を灯す。シャズナは椅子に飛び乗って僕のそばに座り、その大きな瞳で興味深そうにこちらを見つめている。ふと見ると、彼の尻尾がゆっくりと揺れていて、どこか落ち着いた空気を漂わせていた。
ノートに書かれているのは、瓜きのこの成長過程や土壌の湿度、日当たりの加減などの細かい記録。実験の結果を再度確認しながら、新しい試みとして今後試すべき点をまとめていく。
「この温度ならもしかして、もっと育ちやすくなるかもしれないな」と自分のメモに新しい考察を書き込むと、シャズナが前足を伸ばしてノートに触れる。インクのにじむノートを見て僕は苦笑し、「シャズナ、お手伝いありがとう。でも、今は触らないほうが助かるかな」と優しく言い聞かせた。
研究と記録がひと段落つくと、外はもう夕闇が迫ってきていた。窓から吹き込む風が心地よく、シャズナもその風に目を細めている。今日一日の納品と研究を終えて、僕はほっと一息つく。
「明日も一緒に頑張ろうな、シャズナ」と声をかけると、彼は小さく「にゃあ」と鳴いて、再び穏やかな時間が流れ出す。




