152 シャズナと春の終わりと行商人
春の終わりが訪れ、穏やかな日差しが村全体を包み込む季節。花々が満開を過ぎ、風に舞う花びらが春の名残を告げていた。そんなある日の朝、シャズナは庭先で気ままに日向ぼっこをしていた。彼の毛が太陽の光を受けて輝き、何とも心和む光景だった。
そのとき、遠くから鈴の音が聞こえてきた。行商人が村にやってくる合図だ。シャズナは音に気付いて耳をピクリと立て、興味深そうにそちらを見つめた。行商人は季節ごとに珍しい品を持ってくることで有名で、村の人々にとって彼の訪問はちょっとしたイベントでもある。
「シャズナ、一緒に行ってみようか」と声をかけると、彼はにゃあと返事をし、軽やかな足取りで僕の後をついてきた。村の広場にはすでに人々が集まっており、行商人が持ってきた品物を見て賑やかな声が飛び交っていた。籠の中には、色とりどりの布や新鮮な野菜、そして遠方で採れた珍しいハーブなどが並んでいた。
「これはどうだい？」と行商人は満面の笑みで新しい商品を見せてくれた。それは春の終わりを告げる特別なハーブで、風味豊かな料理に使えるという。僕はそのハーブを手に取って香りを嗅いでみた。爽やかでありながらほんのり甘い香りが鼻をくすぐり、シャズナも興味津々にクンクンと匂いを嗅いでいた。
「このハーブは、暖かくなり始めた頃に採れるもので、特に煮込み料理に合うんだ」と行商人が説明してくれた。料理好きの僕にとって、その話は興味深く、購入を決めた。
家に帰ると、早速そのハーブを使ってスープを作ることにした。鍋から立ち上る香りにシャズナもそわそわしながらキッチンに近寄ってきた。「もう少しで出来るから、待っててね」と声をかけると、彼はその場に座り、じっと待っている。
スープが出来上がると、シャズナと一緒に庭でゆっくりと味わった。春の終わりの風が心地よく、ハーブの香りが漂うそのひとときは、まさに贅沢な時間だった。春の終わりを感じながら、僕たちはこれから訪れる初夏の気配に思いを馳せた。
