145 月の光とシャズナ
夜が深まり、静かな農場を月の光が照らし出す頃、僕は家の縁側に腰を下ろし、静寂に耳を澄ませた。風がささやくように草を揺らし、虫たちの微かな声が響く中、シャズナがそっと僕の隣にやって来た。毛並みは月明かりを受けて白銀に輝き、まるで夜の精霊のようだ。
「静かだね、シャズナ」と声をかけると、シャズナは一声小さく鳴き、まるで返事をするかのように僕を見上げた。その琥珀色の瞳が月を映し、どこか遠い昔の記憶を呼び起こされるような不思議な感覚に包まれた。
少しの間、僕たちは無言で夜の空を眺めていた。月は満ち、農場の全てを優しく照らしていた。畑の野菜たちや遠くの木々までもが、その光に浸って静かに輝きを放っている。そんな光景に心が洗われるような気持ちになり、僕は自然と深呼吸をした。
「月の光って、なんだか特別な力があるよね」と呟くと、シャズナが僕の膝に前足を乗せ、まるでその言葉に同意しているかのようにゆっくりと瞬きをした。彼の温もりが伝わり、寒さも忘れるほどの安心感が広がった。
月夜の静かなひととき、僕とシャズナはただそこにいて、風と光を共に感じていた。この瞬間が永遠に続くわけではないことを知っていても、今この時の尊さが胸に染みた。夜空に輝く月は、僕たちを見守るかのようにその光を注いでいた。




