144 春先と行商人とシャズナ
春の柔らかな日差しが農場を包み込み、草木が新しい命を吹き返していく。そんなある日のこと、村に行商人がやってきた。行商人は冬の間に集めた珍しい品々を、村の人々に届けるために再び足を運んでくれたのだ。
「よう、今年も元気そうだな」と、馴染みの行商人が笑顔で声をかけてくる。僕はその笑顔に応えて、「ええ、おかげさまで」と返した。隣にいるシャズナは、初めて会う行商人に興味津々でその動きを見つめている。
「その猫は新しい仲間か?」と行商人が尋ねると、シャズナは控えめに鼻をひくつかせ、まるで挨拶するかのように尻尾を揺らした。僕は微笑みながら、「そうだ、この冬から家に居着いているんだ。名前はシャズナ」と紹介した。
行商人は「いい名前だな」と言い、持ってきた品物の中から小さな猫用の首輪を取り出した。「この首輪、どうだ? 春にぴったりの花模様だ」と勧めてくれる。シャズナはそれに興味を示し、少し鼻先を近づけた。
「いいね、これをいただこう」と僕は首輪を買うことにした。シャズナは新しい首輪に少し緊張したような表情を見せたが、すぐに慣れて、嬉しそうにその場で転がってみせた。
行商人が去った後、シャズナと一緒に春の空気を楽しみながら、購入した品を農場に運んだ。春の訪れは、新たな始まりと共に、僕たちにまた一つの物語を与えてくれたようだった。シャズナの首輪が輝くたびに、僕の心もまた春の光で満たされた。




