128 猫にシャズナという名前をつけた
寒い朝の出来事から数日が経った。あの日、玄関前に現れた灰色の猫は、そのまま僕の家で過ごすようになった。最初はただの通りすがりの猫かと思っていたが、どうやらこの場所に居つく気らしい。猫も僕の存在に慣れたようで、毎朝玄関を開けると、必ずといっていいほどそこで丸くなっている。
僕は少し考えた末、その猫に名前をつけることにした。だって、もはやただの「猫」ではなく、日々の生活の一部になりつつあったからだ。
「シャズナ…」
シャズナ。響きがなんとも心地よく、そしてどこか神秘的な感じがする。そう、シャズナはもともと音楽から名前を取った。少し流行りの名前にしてみたかったのかもしれない。そして、シャズナという名前には、まるで猫が不思議な力を持っているような、そんな雰囲気があった。
その日から、シャズナは正式に家の一員となった。名前を呼んでみると、猫は少し驚いたように首をかしげ、でもすぐにその名に反応して小さく鳴いた。
「シャズナ、よく来たね。」
そのまま僕の足元に寄り添い、暖かな冬の日差しを浴びながら、しばらく静かな時間が流れた。シャズナは僕が動くたびに一緒についてきて、まるで家の中で迷子にならないようにしているかのようだった。
彼(もしくは彼女?)は、いわば僕の小さな守り神のように感じられる存在になった。おかげで、毎日が少しだけ温かく、優しいものに変わった気がする。
「シャズナ、今日はどこに行こうか?」
名前を呼ぶたびに、シャズナはちょっとだけ目を見開き、首を傾げながら僕を見つめる。その仕草がまた、可愛らしくてたまらない。
僕はこれからも、シャズナと共に過ごす穏やかな日々を大切にしていきたいと心から思った。




