112 冬の始まりを告げる者
朝起きると、冷たい空気が部屋に染み渡っていた。窓を開けて外を眺めると、庭には白く薄い霜が降りており、冬の訪れを告げていた。村の風景も、これまでの秋の温かみを失い、冷たく引き締まった雰囲気に変わりつつあった。
外に出ると、吐く息が白く立ち上る。冬の初めにしては、例年より冷え込みが早いと感じた。村の人々も暖かい服装に身を包み、家々からは朝早くから煙突から煙が立ち昇っていた。暖炉で薪を燃やす香りが漂い、その香りが冬の始まりを実感させる。
「寒くなってきたな、いよいよ冬が来たか」と僕はつぶやきながら、畑に目をやった。夏や秋に育てた作物の収穫も終わり、土は休息に入っている。しばらくの間、この畑は静寂の中で冬の眠りを迎えることになるだろう。
そのとき、遠くから鈴の音が聞こえてきた。顔を上げると、丘の上から見慣れた行商人が歩いてくるのが見えた。彼は肩に大きな布包みを背負い、そこから冬を象徴するような真っ白な羊毛のマフラーを覗かせていた。
「おはよう、冬の使者かと思ったよ」と僕が笑いながら言うと、行商人も笑みを浮かべて手を振った。「冬の始まりを知らせに来たんだ」と彼は冗談めかして答える。
荷物から彼が取り出したのは、冬に備えるための特別な品々だった。乾燥させた薬草、冬を越すための保存食、そして体を温めるためのスパイスティーの袋も見えた。村の人々は彼を囲んで、次々に必要なものを求めて声をかけていた。
「これで長い冬を乗り切れるね」と近くにいた村人が笑顔で言う。行商人は頷きながら、「この村に冬が訪れるたびにこうして集まって話すのが楽しみだよ」と応じた。
僕はそのやり取りを眺めながら、静かに頬に当たる冷たい風を感じた。これからの季節、寒さは厳しくなるが、村の人々の心は温かさを失わない。それは、こうした日々の交流や笑顔によって支えられているのだと改めて感じた。
「さあ、これで冬も迎える準備ができた」と僕は心の中でつぶやき、来たる季節に向けて気持ちを新たにした。




