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のほほん異世界暮らし  作者: みなと劉


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109 紅葉茶とほっと一息

秋の風が肌に優しく触れる朝、村は静かな目覚めを迎えていた。夏の暑さが完全に去り、涼やかな秋風が吹くこの時期、村の景色は少しずつ色を変えていく。赤や黄色、橙色に染まる木々が、まるで絵画のようにその美しさを広げていた。


僕は早朝の畑仕事を終え、ふと一息つくことにした。行商人から手に入れたばかりの「紅葉茶」を試してみることに決め、家の小さな囲炉裏で湯を沸かし始めた。茶葉を取り出すと、独特な秋の香りが広がる。紅葉茶の茶葉は、秋にしか取れない特別な品で、紅葉した葉のエキスがほんのりとしみ込んでいると言われている。


湯が沸騰する音と共に、窓の外に目をやると、朝の光が木々の間から差し込み、紅葉した葉を照らしていた。庭先に植えたラベンダーの花も、少しの風に揺れて心地よい香りを運んでくる。しばらくして、茶葉を急須に入れてお湯を注ぐと、香ばしい香りが漂い始めた。


「ふぅ、やっぱりこの香りは落ち着くな。」


湯気が立ち上る湯飲みを手に取り、テラスの小さな椅子に腰を下ろす。口に含むと、紅葉茶のほんのりと甘く深みのある味わいが広がった。柔らかな風が頬を撫で、心まで温かくなるようだった。


「秋の味わいって、本当に特別だよな。」


その瞬間、僕は日々の忙しさから少し解放された気がした。村での生活は毎日が充実していて、畑仕事や収穫、村人たちとの交流に追われることもある。しかし、こうして紅葉茶を飲みながら過ごす静かな時間は、心の余裕を取り戻す大切なひとときだった。


すると、遠くから村の子供たちの笑い声が聞こえてきた。彼らは秋風に乗って飛ぶ木の葉を追いかけたり、虫を探したりしているようだった。子供たちの楽しそうな様子を見ていると、自分も幼い頃に自然の中で駆け回っていた記憶が蘇ってくる。何も考えずに、ただ遊びに夢中になっていたあの頃の感覚を少しだけ思い出して、思わず微笑んだ。


「こんな何気ない時間が、一番贅沢かもしれないな。」


紅葉茶の湯気はまだゆらゆらと空に舞い上がり、僕の心を温かく包み込む。テラスから見える風景は、徐々に深まっていく秋の色彩で溢れていて、その中で紅葉茶の香りがさらに鮮やかな一瞬を作り出していた。


しばらくすると、近くを通りかかった行商人が声をかけてきた。「おや、紅葉茶はどうだい?気に入ってもらえたかな?」


僕は茶をすすりながら頷き、「とてもいい香りだよ。心まで温かくなる」と返した。行商人は満足そうに笑い、「それはよかった。秋は紅葉茶を楽しむための季節だからね」と言って、また村の広場へと歩みを進めていった。


その背中を見送りながら、僕は改めてこの村での豊かな日常に感謝した。この地に来てから、季節の移ろいを肌で感じ、自然の恵みを分かち合い、村人たちと心を通わせることができた。それがどれだけ心を豊かにしてくれるか、紅葉茶の湯気を見つめながら改めて感じたのだった。



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