105 行商人がやってくる
朝の光が村を照らし、空気がひんやりと清々しい中、遠くの道から馬車の音が聞こえてきた。村の広場に立っていると、徐々にその音が近づいてくるのがわかる。足音がはっきりとしたところで、馬車が現れた。
「おお、行商人が来たか！」と村の人々が声を上げ、集まってきた。馬車の後ろには、色とりどりの布が掛けられた荷物が並んでいる。行商人の姿が見えた瞬間、村の雰囲気が一気に活気づいた。
僕も人々に混じって、興味津々に馬車の方へと歩み寄る。行商人は、どこか落ち着いた雰囲気のある中年の男性で、長い髭と大きな帽子をかぶっている。その眼差しは優しく、口元にはいつも穏やかな微笑みをたたえている。
「おお、こんにちは、皆さん。」と、行商人はゆっくりと挨拶しながら、馬車を止めた。「今日はどんな物が必要ですか？」
村の人々がそれぞれ、自分たちが求める物を伝えながら、荷物を一つ一つ下ろしていく。木箱の中には珍しい香辛料や種子、布、工具などがあり、どれも村の人々には嬉しい品々だ。
僕も行商人の元に近づいて、「今日は何か新しいものを持ってきたんですか？」と尋ねると、行商人は少し考えてからにっこりと笑った。
「実はね、今回は新しい品をいくつか持ってきたよ。」と、荷物の中から一つの小さな袋を取り出す。「これは、特別な花の種だ。香りがとても良くて、どんな庭にもぴったりだろう。」
「香りが良い花の種…それは興味深いですね。」と僕は袋を手に取ると、確かにほのかな甘い香りが漂ってきた。「どんな花が咲くんですか？」
「それは、ちょっと育ててみるとわかるさ。」と行商人は笑う。「だが、育てるのに少し手間がかかるかもしれん。だが、その分、見返りは大きい花になるよ。」
その言葉に、僕は思わず頷く。珍しい花を育てるのも、また楽しみの一つだろう。
「それに、他にも色々な道具や食材を持ってきたんだ。あんたの村にもぴったりのものばかりだよ。」行商人は他の品々を見せながら、どんどんと荷物を下ろしていく。
村の人々も次々と商品を手に取り、必要な物を選び始める。そんな中で、僕もいくつかの道具を購入し、花の種も大切に袋にしまった。
「ありがとう、また来てくれ。」と村の人々は行商人に感謝を述べ、荷物を受け取っていった。
「それでは、また来るときまで。」と行商人は馬車に乗り込んで、再び出発の準備を始める。その背中に手を振りながら、村人たちはお別れを告げる。
行商人が去った後、村に再び静けさが戻った。僕は手に入れた道具と花の種を見つめながら、この村での生活がますます充実してきたことを感じていた。これからも、こうした小さな交流が続くことで、村がもっと温かくなるんだろうなと心から思った。
そして、行商人がまた次にやって来る日を、僕は楽しみに待つことにした。
