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曇った世界と君  作者: ねぎ
4/4

ワイルドサイドをゆけ

女の場合

 お風呂からあがり、ゆるい部屋着に着替える。さて今日は何をしようか。職業「配信者」とは簡単に言えば趣味で小銭を稼ぐだけのニートなのだから、配信時間以外は時間を食いつぶすだけの存在となり下がる。バイトの一つでもすればいいのだろうが、親の甘い甘いスネから蜜が溢れて止まらないから、仕方なくニートをやらせてもらっている。そう、仕方なくだ。一人暮らしのニートで配信者なんて、道を踏み外しすぎたなぁと思うが、道なんて外れれば外れただけロックだ。

「標識無視して~悪い予感のする方へ~」

好きな曲の一フレーズを口ずさみながら、スマホをダラダラ見る。このまま人生を進んでいくのは悪い予感がする。そんなことわかっているが、私の好きな人が悪い予感のする方に行けと言ってるんだから仕方がない。

インスタのストーリーを覗くと、高校の頃の同級生や、大学で出会った顔見知りたちが楽しそうな日常をアピールしている。もう結婚して子供を作った知り合いさえいる。私も今年でもう25歳。早すぎでしょ、と嘲り笑うことはもうできないことにうすら寒くなった。

「結婚ねぇ」

 ぼそっと天井に向かって話しかけてみるが、あいにく、うちの天井は返答してくれないみたいだ。結婚なんてくだらない。子供なんてうるさいだけ。恋愛なんてめんどくさいだけ。ずっとそう言ってきたが、今はそれが呪いのように私の体を縛り付ける。

マッチングアプリでも始めてみようか。昔付き合っていた男に声をかけてみようか。顔は悪くないし、スタイルだっていいのだから恋人を作ろうと思ったら作れるはずなのだが、いかんせん、面倒くさい。付き合う前の駆け引きも、付き合った後の関係性の維持も、別れる時の苦しさも全部が面倒くさい。でも、愛されたいという自分勝手な気持ちだけが胸の奥の方で叫んでいるのを感じる。この気持ちの発散のために配信をやっているところはあるが、言葉だけの「好き」じゃこの渇きは潤せない。もちろん一生懸命応援してくれるリスナーは大好きだが。

私を、橋本透花はしもととうかを好きな人間はこの世にいないかもしれないと思うと途端に胸が苦しくなってきた。苦しい、息が浅くなる。動悸がする。目の前が白くなってきた。ああ、今日はダメな日らしい。ふらふらとベッドに倒れこみ、そのまま眠りについた。


 目を覚ますと完全に日が落ちており、時計は11時を指していた。配信予定の9時はとっくに過ぎていたため、Twitterのdmには心配のメッセージが大量に届いていた。今は焦って謝罪をする気にもなれないし、明日の朝までには謝ろう。ぼんやりした頭で心配のdmを眺めているとおなかが鳴った。昨日の夜から何も食べていなかったため、空腹感に体が重い。髪をくしで雑にとかし、だぼだぼのパーカーに着替え、近くのコンビニまで歩いて向かう。

 空腹でたまらないときは爆食いに限る。シュークリームとプリンとカップラーメンとおにぎりと酒と、目につくものすべてをかごにぽいぽい入れていく。こんなもんかなと、レジに持っていくと合計1700円までいってしまい、深夜の食欲の恐ろしさに顔が引きつる。

ぱんぱんのレジ袋を受け取り、軽い足取りで帰宅する。帰り道、ふと例のゴミ捨て場が目に入った。あの助けてくれた男の人とラブコメ展開になって付き合うとかなったら面白いのかなと、ふと思った。話としては面白い。ゴミ捨て場に埋まってた私を救ってくれた人と付き合ってますなんて飲み会の場で言ってみたりしたら大ウケ間違いなしだ。飲み会なんてしないのだから、誰にも語り継がれない面白エピソードとして墓に埋まることになるだろうが。

 彼とは一度しか目を合わせなかったのでそこまで顔は覚えていないが、印象的な目だけは覚えている。多分私より若い大学生だろう。ちゃんと話したらどんな人なんだろ、どんな人生を歩んでいるんだろ、私の事ちょっとは気になったかな、なんて、恋を覚えたばかりの少女のような気持になっていると、自然とテンションが上がってきた。そのままのテンションでTwitteで配信を無断で休んだことを謝罪して、るんるん気分で愛しの我が家に向かった。

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