夜に浮かぶ桃色
男の場合
バイトの時間が近づいてきたので、僕は制服に着替え、家を出た。制服での出勤はルールでは禁止されているらしいが、上に何かを羽織れば店長からグダグダいわれるなんてことはない。ピンクの女とあってから家でずっとダラダラと過ごしていたため、時間には余裕がありそうだ。自転車にまたがり、秋の少し冷たい風を体いっぱいに受けながらバイト先へと向かう。全国チェーンのハンバーガー屋で働き始めて半年は経ったが、特に楽しいというわけもなく、ただ時間を犠牲に少ないお金をもらっているだけだ。周りのバイト仲間は、提供スピードがどうとか、接客態度がどうとか議論しているが、どうやればこの完璧にマニュアル化された仕事にそこまで熱くなれるのかご教授願いたい。僕が冷めた人間だと思われるかもしれないが、もちろん仕事中はまじめにやるし、笑顔だって欠かしていないはずだ。自己評価なので実際にどう映っているかは知る由もないが。
そんなこんなでバイト先にたどり着いた。自転車で10分なのであっという間だ。
「おはようございまーす」
と、気の抜けた挨拶をして今日の仕事が始まる。
「ういー」
と背中を叩かれ振り向くと、高校からの友人である立花がニヤニヤした顔で立っていた。
「テンション低いなぁ。性病でももらったか?」
「いーや、素晴らしいバイトが始まっるてのにお前が話しかけてきたからだよ」
と、中身のない軽口を言い合い、立花がいるから今日は少しは楽しくバイトできそうだなと安心しながらレジの前に立った。
4時間のバイトが終わり、帰ろうとすると立花が声をかけてきた。
「明日休みだし、お前んちで飲まん?」
幸い今は部屋がきれいだし、今朝の話もしたかったので頭の上で丸を作った。
「よっしゃ、んじゃ酒買って帰ろうぜ。」
「飲める分だけな」
そういい合いながら、夜中10時の街を二人でやかましく騒ぎながら帰った。
「ピンクの女がゴミ山に埋まってたwwwwww」
今朝の話は立花には大うけしたようだ。
「それで、そのピンクの子と連絡先でも交換したんか?」
「そんなラブコメ展開にはならねーよ」
「はっ、どうだか。そんなこと言いながら実は住所も連絡先も知っててもう深い仲でしたー、とか許さんからな。」
どうしてこいつは僕がそんなことできる人間だと思うのか甚だ疑問だが、どうせいつもの何も考えていない軽口だろう。最近彼女に振られてから、人の色恋に興味深々なんだろう。
「それで、一番大事なことを聞いてなかった。ぶっちゃけタイプだった?胸はデカかった?」
絶対聞かれると思っていたが、いざ聞かれると、心臓がひゅんと鳴り、鼓動が早くなった。
「いや、まあ、そうだな。タイプじゃないといえば嘘になる。胸は知らん。」
ぬるくなったビールを無理やり飲みながら、曖昧な表現でごまかしてそう答えた。嘘は言っていない。胸は見ていないし、顔だって正直タイプだ。でもどうしてこんなにドキドキするのか分からない。これが恋だって言うなら、なんてちょろい男なんだ。
なぜか火照った体を冷ますために窓を全開にしてやろうとカーテンを開くと、ピンク色の髪が夜道に浮かんでいた。手にコンビニの袋をぶら下げ、なんだか楽しそうに歩いている。ついさっき彼女のことを話していたのにこんな偶然あるだろうか。いやない、と言いたいところだが、全然ただの偶然だし、同じマンションなんだから見かけることもあるのだろう。
「おい、どうした」
友達の一言で我に返る。
「ああ、窓開けようと思ったけど、さすがに寒いか」
笑いながら、ごまかしながら、そう言ってまた酒を飲み始めた。




