表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曇った世界と君  作者: ねぎ
1/4

非日常は突然に

初投稿です

週一で更新予定です

男の場合

 空っぽな僕にとって大学とはただの苦痛でしかない。毎日一番前で講義を聞き、講義が終わったらバイトして、それが終わったら布団と本しかない空っぽの部屋に帰る。そんな毎日を惰性で繰り返している。

 しかし、つまらない日常とは簡単に崩れ去るのだ。


 意外と生活リズムは良い方で、7時になると勝手に目が覚める。今日は燃えるゴミの日だと思い出し、たいしてたまっていないゴミ箱を開け、ゴミ捨て場に向かう。

 朝の日差しは嫌いじゃない。澄んだ空気とまっすぐな光はこの曇った世界が少しだけ明るくなるようで。そんなことを思いながらゴミ捨て場に向かうと、人が埋まっていた。言葉通り埋まっていたのだ。目が痛くなるほどのピンクの髪がゴミ山からひょっこりと浮かんでおり、見なかったことにできそうにない。警察を呼ぼうかとスマホを取り出したが、警察はなんだか面倒なので恐る恐る声をかけてみることにした。

「あ、あのー」

寝起きのかすれた声でそう呼びかけてみたが反応がない。死んでいるのではないかと、鼓動が急に早くなり、脂汗がにじみ出てくる。一大事にはこんな僕でも体が自然に動いてしまうようで、ゴミ山をかき分けピンクの女性を掘り出した。生ごみのにおいと、アルコールと、ドンキで嗅いだことのあるような強い香水の匂いが混ざり、僕は顔をしかめた。ただの酔っ払いか。口元に耳を近づけると、よかった、息はあるようだ。僕の心配を返してほしい。このまま放置するのも寝覚めが悪いので、なんとか起こして帰ってもらおう。さて、どうしようか。さっきから肩を叩いてはいるが唸り声をあげるだけで起きる気配は一向にない。耳元で叫んだりしたら起きるだろうか。いや、それで鼓膜が破けたとなったら僕は犯罪者だ。1限の微分積分学のこともすっかり忘れ、僕はゴミ捨て場の前で謎のピンクの女と戦いを続けた。


 一時間後、汚いうめき声をあげ、ピンクの女が目を覚ました。結局耳元でスマホのアラーム音をかけたのが正解だったみたいだ。あれほど不快な音はそうそうないのだから。謎の達成感と安心から気が抜け、ふとスマホで時間を確認すると9時を回っており、1限には間に合いそうにない。なぜアラームをかけたときに時間に気が付かなかったのか…。自分の間抜けさに呆れる。ピンクの女は起きたのだから自分で家に帰るなり何とかするだろうと、僕はその場を立ち去ろうとする。

「ちょっと」

背中から甲高い声が聞こえる。また厄介なことになりそうだなと振り向くと、

「ありがとう!」

満面の笑顔でそう言われ拍子抜けしてしまい、

「とりあえず風呂入った方がいいっすよ」

と、優しさも気遣いもないぶっきらぼうな返事をしてしまい、そういうところだぞと自分を叱責する。決してクールではないがクールな主人公のような発言をしたせいで、このまま立ち去らないと恰好が付かなくなり、ピンクの女を放置してそのまま歩いて自宅に戻った。


 今朝は大変だったなと、くたびれたベッドの上に横になりながらスマホをいじり、内容のない動画を画面の上で滑らせる。今日の講義にはどう頑張っても間に合わないなと、自主休校とした。朝からゴミまみれになってしまってはどうにもこうにも行く気になれないので、バイトが始まる18時まで無意味に時間を潰すことにしよう。この無意味な時間の蓄積が今の僕を作っているんだなと朝っぱらからブルーな気持ちになるが、いまさらどうこうできるものでないことは僕が一番わかっている。

しかし、今朝の女は一体何だったんだろうか。正直顔はタイプだ。なんでも許してくれそうな下がったやさしい目尻、すべてを見透かすような大きな瞳、時折覗かすきれいな白い歯、何よりこの世の不幸を全部集めたかのような深いくまが印象的だった。辛気臭い顔が好みというわけではないが、どうにもあの女の人生を表しているようなクマが頭から離れない。(あの女の何を知っているんだと言われたら、ゴミに埋まっていたとしか答えられないが。)

 あの派手なピンク髪なら大学でも名物扱いされそうだが、そんな話は聞いたことがない。そもそも大学生かすらも謎だ。髪がピンクで、顔がタイプで、ゴミに埋まる変な女以外の情報はあいにく持ち合わせていないのだ。名前でも聞いとくべきだったなと思うが、ゴミ捨て場でナンパまがいのことをするなんてできる玉ではなかったことを思い出す。それでも、あまりに印象的な出会いだったため、少しだけ、アイスクリームに入れる一つまみの塩よりも少しだけ、彼女に興味が湧いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ