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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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約束

 雑談をしながら、二人である場所に向かう。

 辿り着いた先は黒く染まった大地と、静かな森が広がる見覚えのある場所だ。

 黒い土の上に置かれた、魔術で造った石の前に座る。


「お父さん、お母さん、会いに来たよ」


 石を優しく撫でた。

 この石の下には母親である、お師匠様の体が埋まっている。

 父の体は雷の力で消失してしまったのか、戦いが終わったあとに探しても見つからなかった。

 だからせめて一緒の場所で眠らせてあげたいと思い、この場所に埋葬することを選んだ。

 アシルは森の方に佇む位碑に手を合わせている。

 大公であり王族でもあった前魔塔主は、本来なら盛大な葬儀を挙げるべきなのだが、黒猫が傍にいられるようにというアシルの配慮で、遺体をこちらに埋葬することにした。

 そのため葬儀は形だけで、大公領にある棺は空のままとなっている。

 目を閉じて前魔塔主の石碑と向き合うアシルから視線を逸らし、自分の両親の石碑にお酒をかけた。


「飲み過ぎ注意だからね」


 酔っぱらう母を介抱する父の姿が目に浮かぶ。

 事が落ち着いた後、アシルが二人のことについて調べてくれた。

 子爵令嬢だった母と、公爵家の次男だった父の出会いは、狩場だったらしい。

 狩猟大会で一目惚れ……などというロマンスは全くなく、公爵家の嗜みとして狩場に訪れていた父の狩猟を邪魔したのが、弓の腕試しに来ていた母だったそうだ。

 動物を助けたくて……などという優しさなど微塵もない母は、父の狙う獲物をことごとく弓で仕留めて得意気になっていた。

 いつしか二人は張り合うようになり、そこから父が母を好きになり、獲物ではなく、母を射止めるのに成功したとか。

 これを言った時のアシルが、少し恥ずかしそうだったのはなんでだろう?

 だけど私の誕生をきっかけに、母は魔塔で過ごすことになり、父は母と私を守れなかったことに絶望して覚醒した。

 その後父は、自分との結婚生活を思い出さないようにと、大公領から母を見守っていたようだ。

 この話で驚いたのは、魔塔の入口は王都にあるが、私達が生活していた魔塔の建物は大公領にあると知ったことだった。

 誰かが覚醒しても、魔塔主が結界を張って被害を大公領だけにするという施策だそうだ。

 確かにあれだけの人数の魔塔士を一つの場所に集めているならば、覚醒の危険は格段に上がる。

 だからと言って、魔導具の発展を大公領から広げるのは王の威信にも関わる。

 その結果が、入口は王都、建物は大公領という不思議な構造になった。

 つまり今度は、その結界を張る役目をアシルが担うことになる。

 チラリとアシルがいた方に顔を向けると、目の前に人の足があり驚いた。


「挨拶は済んだの?」


 頭上から声をかけられて、立ち上がる。


「お酒をかけてあげたので、満足していると思います」


 お酒で濡れた石碑に視線を落とした。


「なんだかんだ言っても、二人には世話になっていたからね……」


 アシルが上着のポケットから小さな箱を取り出す。


「師匠のように上手く作れているかは自信がないけど、弟子の卒業作品にはピッタリだと思うから」


 箱の中には赤い魔力石の付いた指輪が入っていた。

 その指輪を取り出すと、私の薬指に嵌めた。


「あの時した約束を、果たさせて」


 アシルの言葉に皇帝と戦っていた時に言われたことを思い出す。

 『ここが片付いたら結婚しよう』


「リュナ」

「はい!」


 名前を呼ばれて緊張が走る。


「俺の気持ちはもう分かってくれていると思うけど、改めて言わせてくれる?」


 高鳴る心臓の音と同じくらいの速度で、コクコクと頷く。


「大公でもなく、魔塔主でもない。ただのアシルと結婚して欲しい」


 身分とか立場とか関係ない、アシルという自分を選んでという気持ちに、目頭が熱くなる。

 それは私も同じで、純粋覚醒とか、犯罪者の娘とかそんなものは関係ないと言われているようだったからだ。

 ローブについているポケットから、給料の範囲で買える自分なりには高価な材料で作った、手作りブレスレットを取り出した。

 それをアシルの腕に付ける。


「私は魔力石も付いていないし、不格好だけど、アシルがこのブレスレットが不要になるまでずっと傍にいたいです」

「生涯を終えても外したくないから、それは俺の死後も傍にいてくれるってことだよね」


 アシルの両腕が私の両肩に乗りかかる。

 顔を覗き込まれて目だけでアシルを見上げた。


「結婚の話をしているのに、死後の話をするのは不謹慎ですよ」

「じゃあお互い、頑張って長生きしようね」

「約束ですよ」

「うん」


 アシルの顔が近付いてきて、唇を重ねる。

 石碑に見守られているけど、今は許してくれるよね?

 長いキスに浸っていると、眠る人達がいい加減にしろと思ったのか、懐かしい足音が森に響く。

 ペタペタペタ……。

 うん? この音は?

 音に気付き、お互い唇を離す。

 ペタペタペタ……。


「クワァ?」


 木々の陰から姿を見せたのは、やせ細ったリュナペンギンだった。


「ぶふぅ……!」


 反対側の木々の陰から人の吹き出す声が聞こえてきて振り返る。

 そこにいたのは笑いを堪えるコハナと、申し訳なさそうに頭を掻くマウノがいた。


「いつからそこにいたの!?」

「『リュナ』『はい!』あたりから?」


 プロポーズの一連の流れを見られてた!!

 アシルも怒りを抑えるように、顔を手で覆う。


「魔塔主様も僕達の気配に気付けないほど、緊張されることがあるんですね」


 意地悪マウノが発動する。


「それよりもあんた、なんでそんなにやせ細ってんのよ!」


 笑いが止まらないコハナの興味は、私達のプロポーズよりもリュナペンギンの方のようだ。


「クワァ……」


 笑われても怒る気力がないのか、その場にペタリと座り込む。


『もう! 主なら気付きなさいよ! 力を使い過ぎてお腹が空いているのよ!』


 耐えかねたように黒猫が、ペンギンが現れた木々の陰から姿を現した。

 しまったと思ったのか、黒猫は再び木の後ろに隠れる。


「教えてくれて、ありがとう」


 ペンギンを抱き上げて、黒猫が隠れている木に向かってお礼を言った。


『ふ……ふん! あんた達が頼りないから仕方なくよ! それにそいつがあんた達のところに連れていけってしつこいから……』


 もしかしたら黒猫は前魔塔主が亡くなってから、一人寂しく過ごしていたのかもしれない。

 だからペンギンは、黒猫も連れて私達の元に帰ってきたのだろう。


「それなら大公家で、今までのように俺達を見守ってくれないか? 前大公の傍にいたあんたなら、色々教えてくれるだろ?」


 アシルの提案に、黒猫が木から顔を出す。


『主のようになりたいなんて、千年早いわよ! だから少しでも近付けるように、協力してあげてもいいわよ』


 ツンツンしたりデレデレしたり、感情が忙しいね。

 アシルは黒猫の傍に寄り、片足を地面について座った。


「よろしく」

『ふ……ふんっ!』


 そっけなく見せているけど、照れているようだ。

 顔も黒いから赤くなっているかは分からないけど……。


「それじゃあ帰ろうか。俺達の家に」


 アシルが立ち上がり、私達を見回す。

 初めて会った時とは違い、全員が晴れ晴れとした顔をしている。

 色々あったけど、最終的にはみんなで協力して勝ち取った世界。

 その世界は今日も穏やかだ。


「それと、覗き見していた二人は、査定で引いてもらうから覚悟してね」

「「えぇーーーーー!?」」


 二人の叫び声が森に響き、驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。

 う~ん……。

 魔塔士達に穏やかな日々は、本当に訪れるのだろうか?





本編はこれで終了となります。

次話からアシル視点になります。

読んで頂き、ありがとうございます。

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