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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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レポート提出

 マウノがコハナのお菓子を買いに行っている間、街を眺めていた。

 よく観察してみると、街の至るところに魔導具が設置されている。

 初日は原動力がなにか分からなかったが、魔塔で暮らすようになってなんとなくそれらは魔力で動く魔導具だということは理解した。

 本来なら不思議な道具なのだが、街の人達はそれをさも当たり前のように使用している。

 お師匠様も時々医術用の魔導具を作っていたが、こんなに精巧な物はなかった。

 どちらかといえば、魔力で動けばそれは魔導具だ! と知らしめるような雑な物ばかりだった気がする。

 だから最初にこの街に来た時に、これが魔導具とは思いもしなかったのだ。


 そのまま観察を続けていると、一部赤みがかったシルバーブロンドの髪が目に映る。

 人混みの中を歩くその人物に思わず駆け寄る。


「先輩?」


 声をかけると裏地が赤色のローブを羽織った人物が振り返る。


「あんたは……買い物?」


 一瞬驚いたように目を見開くも、私の持っている紙袋を見て状況を把握したようだ。


「はい。魔導具を作るための道具を買いに来たんです」

「レポート提出してないよね?」

「買った後で知りました……」


 経費の話をしているのだろう。

 項垂れる私の持つ紙袋の中に、先輩が手を入れる。

 紙袋から取り出した物に、首を傾げた。


「……魔導具?」


 無理もない。

 だって取り出したのは、休憩用のお菓子だから。


「作りながら食べようかなって……」


 へらっと笑って奪い返し、さり気なく袋に戻す。


「それより先輩は何をしていたのですか?」


 話題を変えようと尋ねると、深い溜息を吐かれた。


「誰かさんがやらかした後処理に、医術塔に行ってた」


 相当お疲れのご様子だ。


「魔塔士長って大変なんですね……」


 労わりの言葉をかけるも、苦々しそうに見つめ返される。


「自分がやらかしたという自覚がないところが凄いよ」

「え!? 私!? 私、なにかご迷惑をおかけしました!?」


 今日、外に出るまでずっと魔塔に籠っていたけれど、どこかで私の名前を騙った悪者がいる?

 しかし先輩は小さく首を振る。


「何でもない。それよりもう、医術塔には手を出さないでね」


 医術塔といえば初日にエルメル先生に会った施設だ。

 先生の顔が浮かび上がりハッとなる。


「もしかして、エルメル先生の女性達から何か苦情が来たのですか?」


 あの恐ろしい呪われそうな視線の数々を思い出し、身震いをする。


「それはどうでもいい」


 くだらないといった感じで、力強く否定された。

 じゃあ女性問題以外の問題ってこと?


「リュナさん」


 買い物を終えたのか、マウノが私を呼びながら駆け寄る。

 しかし私と一緒にいる人物を目にして、慌てて頭を下げた。


「魔塔士長! お疲れ様です!」


 先輩に会ったら普通はこういう対応をしなければならないのか。


「マウノ下級魔塔士だったよね。こいつ魔塔のことを何も知らないから、色々と面倒見てやって」

「は……はい!!」


 先輩に声をかけられ、マウノが嬉しそうに顔を上げて返事をする。


「二人とも門限は守りなよ」


 私達に忠告すると、先輩はそのまま立ち去った。


「なんだか嬉しそうだね」


 目を輝かせてマウノが先輩を見送る。


「それはもう! だって魔塔士長に名前を覚えてもらえていたのですから!」


 マウノの反応を見ていると、先輩って本当は雲の上の存在なのではないかと思う。


「それにしても魔塔士長って怖い方かと思っていましたけど、想像よりも優しそうで驚きました」

「私もあまりよく知らないけど、面倒見のいい人だなとは思うよ」

「審査会の時の姿を見たら、面倒見がいい人とは到底思えませんよ。主任相手でも淡々と減点部分を査定していきますからね」

「それはイメージできる。時間外で対応してもらった時も、淡々としていたから」

「時間外で対応ですか?」

「そうなの。初めて魔塔に着いた時は夜になっちゃって、野宿になるかと思っていたから、助かっちゃった」

「……」

「どうしたの?」

「時間内しか対応してもらえないのはもちろんなのですが、本来、魔塔士長自ら魔塔士希望者を対応することはありません。それなのに主任に任せなかったというのが驚きです」

「遅い時間だったから、魔塔主任も寝ていたんじゃない?」

「それだったら一晩野宿させてますよ」


 もしかしたら黒い手帳が関係している?

 真っ先に確認していたよね。


「ただ、これがリュナさんにとって悪い方に働かなければいいのですが……」


 手帳のことを考えていた私は聞いていなかった。

 マウノが不吉な言葉を呟いていたことに――。



 その後、魔塔に戻った私は、早速レポートを仕上げた。

 そして翌日の朝、食堂にてコハナ達と合流した私は、レポート提出の件について相談したのだが……。


「レポートの提出は魔塔主任にすればいいんだけど……」


 コハナが言い淀む。


「リュナさんは魔塔士長と仲がいいですから、どの主任に提出するかが問題になってきますね」

「魔塔士長の仲とレポート提出に、何の関係があるの?」


 首を傾げる私に二人は顔を見合わせる。


「魔塔主任は選ばれた五人だけが務められるランクなんだけど、その五人の間でも派閥があるのよ」

「魔塔士長が大好きな主任達と、魔塔士長を蹴落としたい主任達です」

「魔塔士長が好き好き大好きな主任達はリュナに嫉妬しているだろうから、可にしてもらいにくそうだし、かといって魔塔士長を蹴落としたい主任達はレポートの粗を探して魔塔士長にクレームを入れにいくでしょうね」


 嫉妬されるほど先輩と私は仲がいいのだろうか?


「さあ、どっちがいい?」


 両手を広げてコハナが選択を迫る。

 どちらも結局不可の予感しかしない。

 頭を抱えて究極の二択に悩んでいると、テーブルに置いていたレポートが横からすり抜けていく。


「レポートですか?」


 レポートの行方を目で追うと、眼鏡をかけた勤勉そうな男性が私のレポートに目を通す。

 その男性の羽織っていたローブに驚き、思わず指でさす。


「紫の人!?」

「相手は魔塔主任だから!!」


 コハナが慌てて私の手を下ろす。


「魔塔士長のお気に入りというわりには、知能が低そうですね」


 男性はあきれたように指で眼鏡を持ち上げる。


「すみません。この子まだ魔塔士生なもので」


 コハナは私の頭を掴むと、無理矢理下げさせた。

 鼻をテーブルにぶつけそうだ。


「まあいいでしょう。このレポートは私が見てあげましょう」

「ありがとうございま~す」


 コハナが可愛くお礼を言うと、男性は私のレポートを持って立ち去った。


「あんたちょっと気を付けなさいよ! 相手は魔塔主任なのよ! 失礼があれば一緒にいる私達の査定にも響くかもしれないじゃない!」


 私の心配じゃなくて、己の査定が優先なのね。

 さすがコハナ。


「ご……ごめんなさい……」

「魔塔士長と仲がいいリュナさんにとったら、怖いものなんてなさそうですからね」


 いつもは優しいマウノも、苦笑うしかないようだ。

 以後、気を付けます。


「ちなみに、あの人はどっち派なの?」


 雰囲気的には先輩を嫌っている感じも慕っている感じもなかった。

 もしかして中間に近い人?


「……蹴落としたい派の筆頭よ」


 よりにもよって、筆頭引き当てちゃったよ!!





読んで頂き、ありがとうございます。

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