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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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あれから

 魔塔の入口の小部屋に入る。

 魔塔士長のプレートに鍵をかざすと、『許可』と表示された。

 隣の部屋の光る金属の板の上に乗ると、一瞬で違う部屋へと移動した。


「なにか用ですか? リュナ上級魔塔士」


 仕事机に溜まっている書類を片付けながら、魔塔士長が冷やかに声をかけてくる。


「しばらくの間、魔塔を離れるため、ご挨拶に伺いました」

「魔塔主様から事情は聞いています。大公妃教育を受けるそうですね」


 表情を変えることなく、魔塔士長が眼鏡を持ち上げた。


「はい。査定には戻ってくる予定です」

「分かりました。しかし未来の大公妃だからといって、私は魔塔主様のようにあなたの査定を贔屓するつもりはありませんよ。降格も覚悟しておいて下さい」


 別に彼も贔屓はしていなかったんだけどな……。

 容赦ない言葉に苦笑う。

 数ヶ月前にパルヴィア公爵が神となり、骸骨兵が国を襲った際、魔塔士達を率いて戦ってくれたのが眼鏡だった。

 その功績が認められて、魔塔士長に任命されたのだ。

 最終的に骸骨兵は、飛んできた赤い鳥の光により浄化され消失したそうだが、被害が最小限に抑えられたのは、魔塔士達の火と風の魔術で防いでいたのが大きかったらしい。

 だからこそ、戦い慣れていない魔塔士達を鼓舞した眼鏡の働きが評価されたのだ。

 挨拶を済ませて部屋を出た。


「あれ? リュナ?」

「リュナさん?」


 小部屋から転移板のある扉を開けた状態で立っていると、後ろから声をかけられる。

 振り返ると魔塔の入口の前に、見知った二人が立っていた。


「お手伝いに行っていたの?」


 手伝いとは、王都の復興のことだ。

 王都はパルヴィア公爵が落とした神の裁きで多大な被害が出た。

 しかし雷が落ちる前に王都民の避難が完了しており、民は全員無事だった。

 なぜ王都に雷が落ちるか直前に分かったかというと、パルヴィア公爵令嬢が王様に告発したのだ。

 お家断絶を防ぐために動いたか、もしくは愛している王様を助けたい一心だったのか、その心の内は彼女にしか分からない。

 だが彼女の勇気のおかげで全員ではないものの、パルヴィア公爵家が憎まれる対象となることは防げた。

 これによりパルヴィア公爵家の血筋と分かった私も、断罪を免れる形となった。

 彼女は今、告発して多くの民を救ったということで、母方の実家の養女として過ごすことを許可されている。

 王様との婚約は破棄となったようだけど……。

 そして今の王都は、魔塔士達による魔術の力で着々と復興が進んでいる。

 その影響で魔塔士の人気が、王都で急上昇しているのだ。


「そうよ。今日は医術塔の復興の手伝いだからね。エルメル医術長とお近づきになる大チャンスを逃したりしないわ」


 チラリとコハナの後ろに立つマウノを窺う。

 変わらない笑顔が逆に怖い……。


「エルメル先生は王族の人だから、結婚相手は貴族の人じゃないと駄目だと思うよ」

「そうね。じゃあまずは貴族の養子になることを考えないと」


 諦めるじゃなくて、そっち!?

 コハナの思考にあんぐりと口を開けていると、マウノが口を開く。


「貴族になるだけなら、簡単な方法がありますよ」

「え!? どんな方法!?」


 コハナが食い付くも、私も興味があり聞き入る。

 成長期を終えて背が伸びたマウノが、コハナの耳元に顔を近付ける。


「貴族と結婚すればいいんですよ」


 ここでまさかのプロポーズ!?

 キャーーーーー!! な状態に口元を両手で覆った。


「それじゃあエルメル医術長と結婚できないじゃない」


 ごもっともです。

 コハナの真っ当な返事に冷めた。


「コハナさんだけを大事にするというだけでは、不満ですか?」


 捨てられた小動物のように悲し気に見つめてくるマウノに、さすがのコハナも顔が真っ赤に染まる。

 そして話を逸らすために私に向き直った。


「それよりも! 医術塔はあと数週間ほどで復興完了しそうだって、魔塔主様に伝えといてね!」


 そんなことを言わなくてもたぶん知ってると思うけど……。

 きっと甘い空気に耐えられなくて苦し紛れに話題を作ったんだね。

 ちなみにパルヴィア公爵が残した負の遺産でもある医術塔は、現在王族が管理することになり、その管理者としてエルメル先生が任命された。

 治癒魔術があるとはいえ、やはり医術も必要であるとの判断からだ。

 そして医術塔に勤めていた人達の一部は、かけられた洗脳に苦しみ、自分達の勤め先だった場所で入院している状態である。

 もちろん洗脳されていなかった信仰者は捕らえられて、牢獄に入れられている。

 これに伴い、貴族派の粛正も一斉に行われたそうだ。

 またお師匠様の命を奪った元魔塔士長も、逃げ出そうとしていたところを捕らえられた。

 ここで凄かったのは、現魔塔主である。

 魔塔士は刺激すると魔力暴走の恐れがあるため、犯罪者も魔塔で管理するのが一般的だった。

 だが現魔塔主は、魔力を吸い取る黒い魔法陣と魔力を無効化する石を設置した牢獄を、たったの一ヶ月で作製したのだ。

 これにより魔塔士も牢獄に入れられるという恐怖を、全魔塔士達に植え付けることに成功した。

 しかしコハナやマウノの話によると、この牢獄の作製に国家予算に匹敵するお金が投入されているらしい。

 今まで魔塔士達を投獄する牢がなかった理由を垣間見た気がした。

 そんな色んな意味で恐ろしい牢獄を作った魔塔主はというと……。


「入口に集まって、なにしてんの?」


 転移板が光ったと思ったら一部赤みがかった銀髪の青年が現れ、細長い耳飾りを揺らしながら首を傾げた。


「医術塔のお手伝いに行っていたコハナとマウノに、偶然会っただけです」

「魔塔士のローブを羽織っていない魔塔主様は素敵ですね。リュナより私なんてどうですか?」


 私の斜め後ろに近付いてきた人物が、顔をしかめる。


「周囲を揶揄いたくて言っているなら意味無いって、そろそろ気付いたら? そもそもリュナ以外に興味のない俺を口説いたって、なびかないことは周知の事実なのに」


 きっとコハナ的には恋愛を匂わせたくて、わざと言ったに違いない。

 なぜなら顔に出ているから。

 しかし次の指摘でその顔が崩れた。


「いつまでも子どもみたいな冗談言ってないで、取り返しがつかなくなる前に素直になった方がいいよ」


 苦言を呈すると、私の肩に手を回して歩きだす。

 悔しそうなコハナの横を通り過ぎ、魔塔を出た。

 外に出ると、肩から手が離された。


「二人を置いてきたけど、よかった?」

「大丈夫です。きっとマウノがフォローしているでしょうし、二人の絆が深まるなら私はお邪魔虫ですから」


 いい感じだった二人を思い出し笑うと、頬を軽く摘ままれる。


「なんれすか?」


 驚き顔を上げると、口を尖らせた顔と目が合った。


「なんだかマウノ魔塔士生のことをよく分かってるみたいで、嫉妬した」


 意外な反応に驚き瞬く。

 今までコハナやマウノのことを話しても、感情を表に出したことはなかったからだ。


「それなら私も、コハナのことをよく分かっているアシルに嫉妬しましたよ?」


 顔を覗き込むと、恥ずかしそうに隠された。


「でも素直に嫉妬していると言ってもらえて、嬉しいです」

「本当はいつもしてる。マウノ魔塔士生やエルメルと話している時も、現魔塔士長の部屋で二人きりの時も……」


 意外だった。

 アシルは前魔塔主のように、恋愛もスマートなイメージがあったからだ。

 というより、私にとって後者は拷問に近いんだけど……。


「嫉妬も度を超すと狂気になるからね」


 そういえば以前、エルメル先生も同じことを言っていた気がする。

 あの時はその言葉に納得したけど、これが相思相愛の相手だったら狂気になるのかな?


「お互いが好き同士なら、それもいいかもしれませんね。そのくらい愛されてるってことですから。それに……」


 不安からか、暗い顔のアシルの手を包み込む。


「本当に想い合っているのなら、相手の気持ちも考えることができると思うんです。少なくともアシルはいつも、私の気持ちを優先してくれているじゃないですか」


 今まで私のやろうとしていることに反対したことはあっても、最終的に私の思いを尊重してくれる。

 だからこそ思う。

 私、我儘すぎる?


「むしろもう少し感情を出して欲しいです。じゃないと、好き勝手やってる私の方が捨てられそうで怖くなりますから……」


 私もつられて暗くなり、俯く。

 すると今度は逆に手を包み込まれた。


「危険なことに手を出して欲しくはないけど、俺は自由なリュナが好きだから力になれることが嬉しいかな」


 顔を上げると微笑まれて、自然と微笑み返す。

 大切な人だからこそ、相手を思いやることができる。

 包み込まれた手を繋ぎ、どちらからともなく歩き出す。


「あれから使い魔には会った?」


 歩きながらアシルが尋ねてきた。

 首を横に振る。

 リュナペンギンは王国中を飛び回った後から姿を見せていない。


「あの子は私と一緒で自由奔放ですから」


 きっと今頃、世界中の空を飛んでいるのかもしれない。

 私の寂しさを感じ取ったのか、繋いでいたアシルの手の力が強められる。


「ゲートを使える彼なら、気が済んだらきっとまた会いに来てくれると思うよ」

「そうですね。お菓子をいっぱい用意しておいてあげないと」


 二人でクスリと笑い合う。

 アシルの言う通り、ある日突然姿を見せそうだ。

 だからきっとまた会えると信じてるから。

 雲一つない青空を、見上げたのだった。

 




読んで頂き、ありがとうございます。

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