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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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結束

 剣を抜き取られると、魔塔主がその場に倒れ込む。

 皇帝は剣を振り、付いた血を払い落した。


「儂に歯向かった奴隷の末裔のわりには、たいしたことないな。所詮、奴隷の子はいつまで経っても奴隷のままというわけか」

「父上!!」


 先輩の叫び声に、硬直していた体が弾んだ。

 先輩は体をよろめかせながら、魔塔主の傍に向かおうとしている。


「お前も同じところに送ってやる」


 不敵に笑いながら皇帝が、先輩に攻撃をしかけようと手の平を向けた。

 先輩を守らないと!

 咄嗟に皇帝をモヤの魔術で封じ込めるも、持っていた禍々しい黒い剣で内側から切られモヤが消失する。

 閉じ込められたら光魔術を当てないと消失しないのに、同じ闇の力で消されたということは、それだけ神の力が大きいということだ。


「邪魔な小娘だ。お前も一緒に片付けてやろう」


 雷を落とそうとしているのか、宙に浮いている皇帝が片手を空に掲げた。


「リュナ!!」


 先輩が私を助けようと土の壁を私に向けて放つ。

 しかしその壁が雷で打ち砕かれることはなく、代わりに私達の目に信じられない光景が飛び込んできた。


「クワワワワッ!!」


 なんと今まで大人しくしていたペンギンが怒ったような声を上げながら、ジャンプして皇帝に頭突きを食らわせたのだ。

 神になっても肉体がある以上痛みはあるのか、みぞおちにクリーンヒットした皇帝が悶絶する。

 精霊の森の生き物は、神を攻撃できないのではなかったの?


「ギョェェェェェェェッ!!」


 地面に着地したペンギンが、仲間を呼ぶ奇声を発する。


「このっ! 出来損ないの使い魔が!!」


 皇帝がペンギンに攻撃対象を変えた。


「させないわよ!」


 ペンギンを守るように、横から凄い勢いの攻撃が皇帝目がけて飛んでいく。

 火と風を組み合わせた攻撃なのか、高威力の魔術が皇帝を襲った。


「リュナさん! 今のうちに魔塔主様を助けて下さい!」


 攻撃が飛んできた方を見ると、意識を取り戻したコハナとマウノがいた。

 二人で協力して、攻撃を強化させたみたいだ。

 コクリと頷き、魔塔主を抱き起こす先輩に駆け寄る。

 薄っすらと目を開けた魔塔主が、力を振り絞りながら声を発した。


「この私を……父と呼んでくれるのですか?」


 魔塔主の服にポタポタと透明の雫が落ちる。

 魔塔主が震える手で先輩の耳飾りに触れた。


「私達夫婦のせいで、あなたにはずっと寂しい思いをさせてきましたね」


 魔塔主が私を見た。


「あなたのような方がこの子の傍にいてくれて良かったです。これで私も安心して休めます」

「そんなことを仰らないで下さい」


 先輩の声が震えている。


「アシル。あなたは私の誇りです」


 魔塔主は微笑んだ後、そのまま静かに目を閉じた。

 力を失った頭が、先輩の腕に委ねられる。


「そ……蘇生術を……」


 私が手をかざそうとすると、横から太い手に阻まれた。


「蘇生術はもう使えない」


 手の主を見ると、先輩の師匠だった。


「蘇生術は魔法使いの量産と神域復活のために特別に与えられた力だ。精霊の森が蘇り、神が存在する今、その力は失われた」

「そんな!」


 先輩が魔塔主の体を静かに地面に下ろすと、両指を絡ませた。

 そして腕で顔を拭い、立ち上がる。

 その視線は、皇帝と戦っているペンギンやコハナ達に向けられた。

 動物達を呼び寄せた事でなんとか保ってはいるようだが、それでも神である皇帝には押され気味だ。


「師匠。あいつを倒す方法は?」

「俺が知っているのは、我が家に代々伝わるあいつが書いた伝書の内容だけだ。そこには精霊の森が神域になる方法と人が神になる方法が記されていた。だからパルヴィア公爵家は長年、帝国復興を目的に動いてきたんだ。だがそれも、あいつに踊らされていただけだったようだがな」

「つまり不老不死の力を手に入れるために、医術塔に力を注いできたということか。王都民も実験体にして……」


 地下の部屋の怨念のことを思い出し、身震いした。

 あの怨念は、実験体にされた王都民も含まれていたというの?


「精霊の森の伝承が本当なのか、湖に浸す実験は何度もしていたようだ。だが、蘇った者は一人もいなかった」


 先輩の師匠が、チラリと私を窺う。


「偶然とはいえ、私だけが蘇ったということですね」


 後ろめたさがあるのか、師匠が視線を逸らした。


「これは俺の予測でしかないが、皇帝は初代王の存在を知って精霊の森について調べたんだろう。そして自分が神になり世界を手に入れるために、伝書を残したのかもしれないな」

「その過程で魔法使い達の本当の役割を知った皇帝は、魔力暴走を起こさせるために魔法使い達を前線に送ったというわけね」


 先輩が拳を強く握り、目を伏せた。


「俺達は結局、人殺しをさせるための道具でしかなかったわけだ」


 咄嗟に先輩の手を包みこむ。


「それは違います!」


 泣きそうな顔の先輩を抱きしめた。


「精霊の森は自分を守ってくれていた人達を守りたくて、魔力という力を与えてくれたのではないかと思うんです。私達ならきっと魔力暴走を最小限にとどめられるだろうと信じて……。だって本当に魂を送ってもらうためだけに精霊の森が魔法使い達を覚醒させていたなら、もっと大きな被害を起こさせていたはずではないですか?」


 それこそ世界が崩壊するレベルの暴走をさせていただろう。

 そうすればあっという間に神域に達せられただろうから。

 先輩の手が私の背に回される。

 抱きしめたまま、眠る魔塔主に視線を向ける。


「ずっと魔力暴走を抑えるために努力し続けてきた先輩や魔塔主様が、人を殺めるための道具だったなんて思えません」

「……名前……」


 耳元で囁かれて、クスリと笑う。


「精霊の森に蘇らせてもらった私が言うのですから間違いないですよ、アシル」


 名前を呼ぶと、先輩がコクリと素直に頷いた。

 体を離して、顔を上げる。


「あの偽物の神様を倒して、いつもの日常を取り戻しましょう!」


 宙に浮いている皇帝を二人で見上げた。

 戦っていた一羽と二人が、私達の隣に移動する。


「神だかなんだか知らないけど、あなたの好きにはさせないんだから!」

「クワワッ!」

「私は結婚するまで死なないわよ!」

「結婚してても僕が死なせません」


 うん? 今、さりげなく告白した?


「俺もプロポーズされたままでは終われないから」


 ふぇっ!?


「あんたいつの間にプロポーズしたの!? 聞いてないわよ!」

「どういう流れでしたのかが、気になるところですね」


 マウノの告白はスルーだったのに、なんで先輩の言葉には反応してんのよ!

 もしかしてコハナは自分に向けられる感情には、鈍い?

 そしてマウノは参考にしようとしているよね。


「父親面するつもりはないが、後でじっくり話は聞かせてもらうからな。アシル」


 先輩の隣に、師匠が並んだ。


「それはちょうどよかったです。この状況が片付いたら俺からもたっぷり話したいことがありますから、覚悟しておいて下さい、お義父さん」


 師匠が口角を上げて、鼻を鳴らす。

 緊張がほぐれて、なんだか一体感が生まれた?


「神に楯突く愚かな人間ども。お前達に絶望を見せてやろう」

「そっちこそ、私達の結束を舐めていたら痛い目見るわよ!」


 ちぐはぐな私達の力を、見せてあげるんだから!





読んで頂き、ありがとうございます。

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