役目
ペンギンが現れたゲートの奥から、声が聞こえてきた。
「リュナ!」
「リュナさん!」
コハナとマウノが姿を現す。
「やれやれ。彼に負けてしまいましたね」
「負けてないわ! あいつは自分の主の魔力を探っただけだから!」
さらにその後ろから魔塔主と黒猫がゲートをくぐる。
「みんな……どうして?」
「精霊の森から凄い光が放たれたと思ったら、王都が大変なことになっちゃったのよ!」
コハナが言っているのは、私の蘇生術とパルヴィア公爵が放った雷のことだろう。
「光が放たれる前に、魔塔士長が付けた僕の首輪が解除されたので、すぐに魔塔主様に報告してお二人の魔力を探っていたのです」
「私のソファーでくつろいでいたこいつが、あんたの魔力から居場所を突き止めたってわけ」
どこに行ったのかと思っていたら、大公家にお邪魔していたの!?
魔塔主の執務室のソファーが相当気に入っているようだ。
それとも高級菓子がお目当て?
「それにしても、厄介なことになっているようですね」
魔塔主が私達の前に立ち、皇帝と対峙する。
「なんか骸骨兵とかも土の中から出てきて、国内が大変なことになっているのよ!」
「そちらはエルメル教授が軍を率いて、魔塔士達と連携して防いでくれています」
「だから私達は一刻も早く元凶を突き止めるように命じられたの」
コハナとマウノが交互に外の状況を説明してくれた。
骸骨兵……私の蘇生術で蘇った? それともパルヴィア公爵の雷が原因?
骸骨なのは魂がパルヴィア公爵に吸い取られたから?
「目の前のパルヴィア公爵はパルヴィア公爵ですが、中身は最後の皇帝になります。彼は若返りの薬と蘇生術を組み合わせた薬を飲み、不死者となりました」
「神の領域に手を出したということですね」
先輩が立ち上がりながら報告すると、魔塔主が瞬時に状況を察したようだ。
「骸骨と化した帝国兵は、おそらく神の力である裁きの雷で目覚めさせたのだと思います」
魔塔主が面白そうに口の端を上げる。
「この場合、神に背く我々が反逆者になるのでしょうかね」
魔力のなかった人間と怨霊とのタッグでも、神は神になるんだ。
私達の方が悪者とか、なんだか納得いかない。
「……主……」
黒猫が魔塔主を見上げた。
「分かっています。精霊の森に生きる者は、神と戦えませんからね」
だからペンギンも姿は見せたけど、戦闘体勢になっていないんだ。
地面に座ってボーッとしているペンギンを見た。
「神の力にどこまで対抗できるか……」
魔塔主が腰に下げていた剣を抜く。
「大丈夫です!」
その隣に立った。
「私達は神に力を与えられた、魔塔士ですから!」
魔塔主を中心にみんなが横一列に並んだ。
「私なんかもうすでに殺人犯ですから、怖いものなんてありません!」
「僕も、大切な人……達を守るために戦います」
この様子だと、まだ告白はできていないようだ。
「俺は……」
先輩が私の隣に立ち、私を見つめた。
「これからも大切な人と共に歩む未来を守るために、戦います」
魔塔主が感慨深そうに目を閉じる。
「子ども達の成長というのは、嬉しいものですね」
決意に満ちた目を、皇帝に向けた。
「儂に楯突いた奴隷によく似ているな。お前を神にして乗っ取ってやろうか」
「あいにく私は、人間として生き、人間として死ぬことにしか興味はありません」
「どいつもこいつも儂に逆らいおって、生意気な奴等だ。魔法使いなど、儂を神にするために利用されていただけの存在にすぎないというのに……」
そういえばこの皇帝が目覚めた時、自分が書いた伝書がどうこうとか言っていたよね?
「あなたはこうなることを知っていたのですか?」
「知っていたのではない。儂が蘇るように仕向けたのだ」
皇帝が横目で私を見た。
「全ては神として蘇るためにな!」
皇帝の目の前に竜巻が出現し、私達に向かってくる。
咄嗟に魔塔主がドームの防御壁を張り私達を守った。
しかし防御壁を張った当の本人は、風の魔術で空を飛び、そのまま皇帝につっこんでいく。
ガキンッと剣と固い何かがぶつかるような音が響いた。
「攻撃をさせる隙を与えてはいけません!」
交戦しながら魔塔主が私達に指示を出す。
魔塔主の動きに合わせてそれぞれが皇帝に攻撃魔術を仕掛けた。
次々に飛んでくる攻撃に、さすがの皇帝も防戦一方になってくる。
もう一押し!
私達が勢いづいてきた時だった。
皇帝が黒い影に飲み込まれて、コハナとマウノの背後に突如出現した。
これは、黒猫の能力!?
コハナとマウノが皇帝の攻撃により吹き飛ばされた。
「コハナ! マウノ!」
「ごめんなさい……」
不本意そうな声で謝る黒猫に、魔塔主が微笑みかける。
「あなたは自分の与えられた役目を全うしただけです。気にする必要はありません」
きっと神である皇帝に命じられたのだろう。
ということは……!
ペンギンに視線を向けると、首を傾げて不思議そうに見つめ返された。
皇帝に戦力だと思われていないのか、はたまた本人のやる気がないだけなのか。
だがペンギンが参戦しないのは好都合だ。
状況は三対二の状態。
「……魔塔主様の使い魔の相手は、私がします」
「リュナ!?」
この中で一番戦力にならないのは私だ。
だったら皇帝を強い二人に任せて、私は黒猫に影の力を使わせないようにサポートに回る。
「私はこれでも先輩が審査してくれた上級魔塔士ですよ。だから信じて下さい」
微笑んでみせるも、先輩の顔は固いままだ。
「アシル。ここは彼女に任せましょう。我々は一刻も早くあの者の力を削ぐことに尽力しますよ」
魔塔主の言葉に先輩が一度目を閉じる。
再び開いた時、力強い眼差しが向けられた。
「……分かった。あんたを信じるよ」
絶対に先輩の期待に応える。
助けて欲しそうな目で見つめる猫と対峙した。
「あんたじゃ私は止められないわよ」
魔塔主の傍にいたこの猫は、私の力をある程度知っている。
だからこその警告だろう。
「私、戦いは苦手だけど……」
猫に向けて魔法陣を描く。
「封じ込めるのは得意なの!」
猫をモヤの魔術が包む。
しかし黒いモヤは猫にとっては影だらけのようで、すぐに地面から脱出された。
「あんたバカなの!? 闇の魔術は私の十八番なのよ!」
私の真後ろに飛び出して来た猫が叫ぶ。
私は待っていましたとばかりに振り返りながら再び魔術を唱えた。
皇帝を背後に移動させた猫の行動から、今回も後ろに現れると思っていた。
再びモヤの魔術で猫を閉じ込める。
「私の話を聞いてたの!? 何度やっても同じ……」
「同じじゃないわ」
閉じ込められた猫がドームの中を見回す。
「モヤの魔術は闇魔術でも、その中に光魔術である治癒魔術の粒子が充満すれば影は作れないでしょ」
私が仕掛けた魔術は、治癒テープの巨大版だ。
治癒魔術の四方に浮遊する光の粒子が影を消す。
これにより、影を必要とする猫はここから出られないというわけだ。
三重魔術で捕獲完了よ!
役目を果たせたと思った矢先のことだった。
背後から激しい衝撃音が響く。
振り返ると瓦礫の上に倒れる先輩と……。
皇帝の禍々しい黒い剣で体を刺されている、魔塔主の姿があった。
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