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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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神の降臨

 大泣きしていると地面がさらに大きく揺れ出し、天井が崩れ落ちてきた。

 先輩が落ちてきた瓦礫に魔術を打ち込むと、粉々になった欠片がパラパラと頭上に降り注がれる。

 崩壊した部分から、外を見た。


「この空気……。精霊の森と同じ?」


 視線の先には深い森が広がっており、感じた事のある清浄な空気に驚く。


「ここは精霊の森の脳内にあたる場所だ」


 パルヴィア公爵の声が聞こえてきて、顔を向けた。

 バリアを張ったのか、パルヴィア公爵も先輩の師匠も鉄の棺も無事のようだ。


「脳内? どういうことだ?」


 私を抱きしめながら先輩が尋ねた。


「魔塔士のくせにそんなことも知らないのか?」


 鼻で笑うパルヴィア公爵に、先輩が悔しそうに歯を噛みしめる。


「精霊の森は神の体そのものなのだよ。初代王とそこの娘は、精霊の森の羊水にもあたる湖で蘇ったから神の器になれたのだ」


 蘇った?

 じゃあ、私は一度死んでいるということなの!?

 心情を察したのか、私を抱く先輩の腕の力が心なしか強まった。


「お前達はおかしいと思わなかったのか? なぜ突然次々と魔法使い達が覚醒したのか」


 先輩の話では、初代王が覚醒した後から他の先住民達も次々と覚醒していったと聞いた。

 なにも知らない私達を馬鹿にするように、パルヴィア公爵が嘲笑する。


「精霊の森は帝国兵の侵略から自分を守るために、初代王を使って魔法使いを量産し、魔力暴走にて亡くなった者達の魂を吸収していたのだよ。そして吸収を終えた今、お前の力によってこの森は完全な神域と化した」

「ここに新たな神殿でも建てて、慈善事業でもしようっていうのか?」

「言っただろ、ここは神域だと。つまり何者にも犯すことのできない土地になったということだ」


 パルヴィア公爵が光り輝く液体が入った小瓶を取り出し、一気に飲み干した。

 同じ小瓶でも、病原体が入った液体には見えない。

 だとしたらあの液体は、私が発した蘇生術を含んだ若返りの薬ということ?

 液体を飲んだ公爵の体から禍々しいオーラが発せられ始めた。


「なんと素晴らしい力だ! これで我が家に伝わる伝書通りに解放された魂を集めれば、私は神になれる!」


 パルヴィア公爵が片手を空にかざすと、真っ黒い雲が空を覆い始めた。


「協力してくれたお前達には特別に見せてやる。私が神になるところをな!」


 上げていた手を振り下ろすと、激しい稲光が遠くに落ちるのが遠目にも分かった。

 そして大地から黒いモヤの塊のようなモノが無数に飛び出し、パルヴィア公爵の体に吸い込まれていく。

 するとパルヴィア公爵の体から、赤黒い羽と二本の雄牛のような太い角が生え、手足が黒く変色したのだ。

 その姿は不気味な神々しさを放っている。

 自分の姿に歓喜した公爵が、生えた羽を羽ばたかせ空に浮いた。


「長年求めていた力がようやく手に入ったぞ!」


 パルヴィア公爵の異形な姿を目の当たりにして、神の代行者の本当の目的をようやく理解した。

 神の代行者の表向きの目的は『人が神の領域を犯すことを許さない』だった。

 けれど実際は自分達が神となるために、神になりそうな人達を始末していたんだ。

 お師匠様の身動きとれなくしたのは、もしかしたら上手くいかなかった神になるための若返りの薬の手伝いをさせようとしていた?

 その過程で私が純粋覚醒だと知り、マウノ達を利用することを思いついたのかもしれない。

 結果、神域を蘇らせる蘇生術の力を混ぜ合わせたことで、若返りの薬は完全な不死の薬へと変化したのだ。

 不死の力は先輩が以前話していた通り、神の領域にあたる。

 つまり不死の薬により不死の体を手に入れ神の領域に踏み込んだパルヴィア公爵は、まさに今、本当の神になったということだ。

 そして神域になった精霊の森にいる神は、世界に裁きを下すことができるようになってしまった。

 先輩も同じことを考えていたのか、お互いに言葉を失う。


「おい! キイラを蘇らせる約束はどうなっている!?」


 神となったパルヴィア公爵を恐れずに、先輩の師匠が叫ぶ。


「うるさい奴だ」


 パルヴィア公爵が師匠に向けて黒い刃を放った。


「ぐああああ……っ!」


 刃が腕に刺さり、師匠がうずくまる。


「心配せずとも先程の蘇生術を浴びたことで、不死の実験で蘇った部分から活性されていくはずだ」


 苦しむ師匠を見下ろしながら、パルヴィア公爵が鼻をならした。

 憎々し気に師匠がパルヴィア公爵を睨んでいると、むくりと鉄の箱の中にいた人物が起き上がった。


「……お……お師匠様?」


 亡くなる直前と変わらない姿のお師匠様に声をかけた。

 お師匠様がゆっくりと私を見据える。


「皇女がどうしてそこにいる?」


 皇女?

 私のこと?

 驚く私に状況をおかしく思ったのか、お師匠様が自分の体に目を向けた。


「なんだこの体は? 儂の体はどうしたというのだ?」


 姿はお師匠様なのに、お師匠様じゃない?


「そうか……儂の体は魔法使い達の暴走で……」


 魔法使いの暴走って、帝国が滅びた時の話?

 それに皇女は帝国での皇帝の娘を意味する。

 そして皇女を呼び捨てにできる立場の人間は、帝国でもトップの地位にいる皇帝と皇后だけだ。

 だとするとお師匠様の体の中にいるのは、滅びた帝国の最後の皇帝だというの?


「どうして……お前が……?」


 先輩の師匠が、目を見開きながら私を見た。

 その様子を空から見ていたパルヴィア公爵が呟く。


「なるほど……。キイラが一か八か、死んだ自分の赤子を湖に投げ入れたということか」

「お師匠様の子どもって……どういうこと!?」


 私が尋ねると、目を逸らした師匠の代わりにパルヴィア公爵が答えた。


「我々は滅びた帝国で密かに生き延びた皇女の子孫にあたるのだよ。つまりその皇女にお前がそっくりだということは、お前は我が弟とキイラの亡くなった子どもというわけだ」


 お師匠様が、私の母親?

 お師匠様はその事実を知っていたの?


「そういうことか……」


 あ然としていると皇帝がポツリと呟き、笑い出した。


「ふっ……ふふふっ……あーはははははははっ……!」


 異様な笑い声に、全員が身を固くする。


「そうか、そうか。儂の望みを叶えてくれようとした奴が現れたというわけか」


 皇帝が顔を上げて私達を見回す。


「ふむ。どうやらそこのお前が実行者のようだな」


 皇帝が見据えたのは、パルヴィア公爵だった。


「生前の儂の姿に似たその体なら、この女よりも相性がよさそうだ」


 そう一言発すると、お師匠様の体は糸が切れたようにガタリと倒れ込む。

 その直後、パルヴィア公爵に向かって黒い塊が物凄い早さで飛んでいった。

 塊が公爵の体に入ってすぐに、公爵が頭を抱えて悶絶しだす。

 しばらく苦しんだ後、パルヴィア公爵が顔を上げ、自分の体を確認し始めた。


「もう少し若い肉体の方がよかったが、神の力を宿しているだけあって生命力に溢れているな」


 まさかパルヴィア公爵の体が、皇帝に乗っ取られた!?

 乗り移った皇帝が私達に目を向ける。


「皇女に似た娘よ。儂に服従するなら、神の妻として迎えてやってもよいぞ?」


 無理無理無理無理!!

 大きく首を横に振る。


「ならば、死ね」


 私達に手のひらを向けた瞬間だった。

 横から眩しい光が室内を照らす。

 もしかして、神様降臨!?

 ペタペタペタ……。


「クワァ?」


 光の中から現れたのは、皇帝を眺めて首を傾げたリュナペンギンだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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