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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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蘇生術

「この遺体に蘇生術を加えた若返りの薬を与えたら、一部ではあるが身体の機能が再生されてね」


 得意気に話すパルヴィア公爵に怒りが沸き起こる。

 お師匠様の体を実験体に使うなんて!!


「あなたはお師匠様を愛していたのでしょ! その愛する人を殺したのは、そこにいる男が率いる神の代行者なのですよ!?」


 パルヴィア公爵を無視して、先輩の師匠に叫ぶ。


「そういうお前はどうなんだ? アシルが俺に殺されても、偽善を吐き続けられるのか?」


 先輩を見上げた。

 私に置き換えた状態で同じ事を考えていたのか、困惑した様子の先輩と目が合う。


「試してみるか?」


 目を離した一瞬だった。

 先輩に向かって攻撃魔術が放たれた。


「駄目!!」


 咄嗟に前に出ると、防御壁のような物が出現し攻撃を防ぐ。


「自分で作ったもんで防がれるとか、傑作だな」


 腕輪に付いている魔力石の一つが光を失う。


「兄上とやり合った時に、二つ使っちまってるだろ。補充してねえから、残り二回だな」


 コハナが仕えていた屋敷から戻ってすぐに、医術塔に向かっている。

 つまりあそこから新しい魔力石を、補充できていない状態だ。


「リュナは下がってて」

「でもあと二回は防げ……」


 バチッバチッと二度弾く音が耳に届いた。

 ブレスレットに視線を向けると、赤かった魔力石が全て透明に変わっている。

 咄嗟に先輩が私の前に出た。


「こちらとしてはお前さんが出てきてくれた方が、都合がいい」

「俺だって、ただ魔力を放出するだけだったあの頃よりは成長しているんです。簡単にやれるとは、思わないで下さい」

「それは楽しみだ」


 話し終わると同時に、魔力の塊のような物が飛んできた。

 先輩は咄嗟に土の壁を作るも、何発も打ち込まれてヒビが入る。

 少しでもフォローできればと思い、モヤの魔術で閉じ込めようと試みる。

 しかし治癒魔術を当てられて、すぐに解除されてしまった。

 このままでは壁が壊されるのも時間の問題だ。


「一旦外に逃げましょう」


 袖を掴むと、先輩も限界を感じていたのか、壁を強化した後に私の手を引いて走り出す。

 壁は読み通りすぐに破壊された。

 激しく崩れ落ちる音と砂煙が周囲に広がる。

 目隠しになると期待するも、端まで来て絶望した。


「出口が……ない?」


 鉄の箱があった場所が内陣だとすれば、私達が走ってきた方に出口はあるはずなのだ。

 しかしどこを見ても壁に一面覆われていた。

 その一瞬の戸惑いを見逃してはもらえなかった。


「ぐっ!」


 爆音に続いて、隣にいた先輩から苦痛の声が漏れ聞こえてきた。

 次の瞬間、繋いでいた手が激しい力で引き離された。

 先輩が吹き飛ばされ、壁に体を打ち付ける姿が目に映る。

 慌てて駆け寄った。


「敵を前にして背を向けるなと、教えただろ?」


 すぐに治癒魔術を施すも、体内に異変が起きているのか先輩がもがき苦しむ。


「無駄だよ嬢ちゃん。治癒魔術では体内に入り込んだ闇魔術を相殺することは不可能だ」


 闇魔術を体内に入り込ませた?

 それなら光魔術だって体内に入り込ませることができるんじゃないの?

 必死で闇魔術を打ち消そうと治癒魔術をかけ続けた。


「光魔術は放出された時点ですぐに消失することは、治癒テープとやらを作った嬢ちゃんなら分かるだろ? 唯一アシルを助けられるとすれば、体内まで作用させることができる蘇生術だけだ」


 つまり私が蘇生術を使わなければ、先輩は死ぬということだ。

 薄っすらと目を開けた先輩が最後の力を振り絞るように、優しく笑った。


「泣いているより……あんたの笑った顔を見せてよ」


 先輩の指が、頬を伝っていた涙を拭う。

 そしてそのまま流れ落ちるように手がパタリと地面に落下した。

 お師匠様やコハナの死を目の前に見てきた私は、それがなにを意味するのか瞬時に理解した。

 けれど頭で理解していても、心が追い付かない。


「寝てるだけですよね? 笑いますから、目を開けて見て下さい」


 体を揺するも、されるがままの体から反応はない。

 蘇生術を発動させたくて動かない体に治癒魔術をかける。

 どうして発動しないの?

 コハナだって蘇らせられたのに!

 ありったけの魔力を治癒魔術に注ぎ込む。

 蘇生術は私が元々持っているものだと眼鏡も言っていた。

 治癒魔術をかけ続ければきっと……!

 体内の闇魔術の影響なのか、先輩の体が黒く染まっていく。

 まるで私に死を突きつけるように――。

 なぜ私は蘇生術を発動できないの?

 未熟だから?

 蘇生術が使えると慢心していたから?

 力を失くしたブレスレットが目の端に映る。

 『辛いことがあったらそれを見て俺がいるってことを思い出して』

 先輩のいない未来が頭を過る。

 まるで自分の半身を失くしたような喪失感が、心を覆いつくす。

 頭を撫でてくれる温かい手は動かず、優しく見つめてくれる青い目も開かない。

 もう二度と……。

 全ての感情を体から追い出すように、声にならない叫び声をあげた。

 大地が激しく揺れ動き、床の隙間から無数の強い光の筋が天に向かい一直線に伸びる。


「ついに精霊の森が目覚めるぞ!」


 歓喜の声を上げるパルヴィア公爵の声も、今の私には届かない。

 光が収まり、全ての力を使い切った私の上半身がだらりと垂れ落ちる。


「精霊の森に吸収された魂が解放された! 待ちに待った帝国復活も目前だ!」


 興奮しているパルヴィア公爵の笑い声が響く。

 もう何も考えたくない。

 このまま目を閉じていれば、先輩と同じ場所にいけるだろうか?

 空虚感に苛まれながら、そっと目を閉じる。

 すると誰かの指が、私の頬に触れた。


「……リュナ」


 聞こえてきた声に、重かった瞼が瞬く間に軽くなり、弾かれるように目を開けた。


「無事でよかった」


 これは、夢?

 先程まで眠っていたはずの人物が、体を起こし私の顔を覗き込んでいた。

 ぼう然と目の前の奇跡に瞬きを忘れて見入る。


「……あっ……」


 夢か現か判断がつかず、思うように声が出ない。

 代わりにポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

 恐る恐る手を伸ばす。

 もしお師匠様と同じようになっていたらという恐怖が襲う。

 しかし先輩に触れる前に、力強い腕に包み込まれた。


「透けない……」


 温もりに身を委ねながら、先輩の体に触れて確認した。

 するとおかしそうに笑う息が頭頂部に吹きかかる。


「あんたのおかげで生きてるよ」


 顔を上げると先輩が微笑んでいる。

 生きていたのか生き返ったのか分からないけど、今、私の目の前にいる人は、間違いなく私の愛する人だ。

 ようやく安堵することが出来て、私は抱きつきながら声を上げて泣いた。


「ありがとう、リュナ」


 そう言いながら、私のこめかみにキスを落とす。

 今はその感触さえも嬉しくて、幼子のように泣きじゃくった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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