衝撃
初代王は蘇生術を使えたけど、不死ではなかった。
つまり蘇生術が使えても、自然死は避けられないということだ。
また、お師匠様の細胞を若返らせるという研究。
もし奴等がお師匠様の研究を続けていたとしたら、お師匠様の方法では不死になることは出来なかったのかもしれない。
なぜなら細胞は、限られた回数しか分裂と増殖ができないからだ。
でも若い細胞のまま細胞の蘇生を繰り返せば、あるいは……。
「ここはあんたの体には毒だ。何もなさそうだし、外に出よう」
先輩に手を引かれる。
「奴等は不死の力を使って、何をするつもりなんでしょうか?」
階段を上りながら、先輩に尋ねた。
「不死の力が欲しいなんて、ろくなことを考えてないだろうね」
「相手はあのパルヴィア公爵だから、若返って王族になるなんてことも考えていそうだよ」
先輩の返答に、先生が相槌を打つ。
「私は平民なので分からないのですが、パルヴィア公爵が王様になると都合の悪いことでもあるのでしょうか? もちろん今の王様はお二人のご親戚にあたるので、防ぎたいという気持ちは分かります。ですが、国民にとっては誰が王様になろうが関係ないと思うんです」
「確かに国民にとっては、誰が王になろうがあまり関係ないのかもしれないね。でも新しい王の指針によっては、国が困窮する事態になることもある。その時も、今と同じ事を言っていられるかな?」
私の問いに答えてくれたのは、先生だった。
「以前、この国は他の国が侵略しないと宣言しているという話をしたよね? パルヴィア公爵はいつその約束を破られるか分からないから、軍事力を強化しろと訴えているんだ」
先輩が補足してくれた。
「今よりも軍事力を上げるにはお金がいる。そのお金は増税して支払われることになるんだ。それに……」
先輩が体を半分だけ振り返らせ、 私を見据えた。
「あんたは人殺しの魔導具を作れるの?」
もちろん作れないし、作りたくもない。
だけど軍事力を上げるなら、魔導具を利用するのが一番早いのは今の言葉で理解した。
「魔塔士は戦争に参加できないからね。代わりに国のトップが軍事用の魔導具の製作を命じてきたら、国に属する魔塔も貢献しなければいけなくなる」
先生が続けて言った。
「今の魔塔が街の人達のための魔導具製作だけに集中できているのは、現王が俺達と同じ考えを持っているからなんだ」
私達の生活にはなんの変化もないと思っていた。
けれど王様が変われば、今の生活が脅かされる危険があるということなんだ。
「ごめんなさい……。私、なにも考えてなかった……」
俯くと、頭に温かい手が乗せられた。
「謝る必要はないよ。俺達は幼い頃からこういう話を聞かされていたから知っているだけで、知らない人間の方が多いくらいだから」
頭を撫でられて目だけ上げる。
「君達、どうでもいいけどいちゃつくなら階段を上ってからにしてくれないかな?」
ハッとなり、先輩が咳払いをして先頭を進む。
階段を上りきり、倉庫に出た。
薄暗いけど、地下の研究室よりはなんだか安心する。
「気分はどう?」
「ここは大丈夫みたいです」
最初に来た時も、ここの部屋では何もなかった。
魔力が溜まっているのは地下の部屋だけのようだ。
「医術塔にはもうなにもなさそうだから、一旦外に出ようか。私は陛下に報告するから、アシル君は大公殿下に報告よろしく」
倉庫を出て、受付けの前を歩きながら話をしていると、入口が見えてきた。
外はすっかり日が落ちているようだ。
そのまま三人で医術塔を出ようと歩を進める。
すると突然私の足元が光り、足が宙に浮いたような感覚に襲われた。
この感覚には覚えがある。
魔塔主の使い魔の影に吸い込まれた時と同じだ。
「リュナ!?」
異変に気付いた先輩が、すぐに私の手を取り引っ張りあげようとする。
しかし体は徐々に床に飲み込まれていく。
このままでは先輩も一緒に飲み込まれてしまうかもしれない。
「手を離して下さい!」
「絶対に離さない!」
手は力強く握られたまま、上半身が飲み込まれていく。
手の温もりを感じたまま、目を開けた。
目の前に広がっていたのは、神殿の外陣のようだ。
「余計な奴まで呼び寄せおって」
低く威厳のある声が外陣内に響く。
その声に続くように、奥から違う声が聞こえてきた。
「そいつの排除は問題ない」
私の手を握っていた先輩の手に力が入る。
「こいつは俺の教えた魔術以上の力は使えないからな」
パルヴィア公爵の後ろから姿を見せたのは、先輩の師匠だった。
どうして追放されたはずの人が、追放した人に協力しているの!?
「信じたくなかったですが、やはりあなたが協力者だったのですね」
気付いていた様子の先輩が、言い放った。
「治癒魔術に転移術、隠し扉まで使える人間は限られているから、お前さんが気付いても仕方ないわな」
悪びれる様子もなく、先輩の師匠が頭を掻いた。
「どうして師匠が神の代行者に協力をしているのですか?」
「どうして……か」
先輩の問いに、師匠が近くに置いてある長方形の大きな鉄の箱を撫でた。
「愛しい人を蘇らせたいだけだ。嬢ちゃんの蘇生術を使えば、蘇るだろうからな」
「無理です。私の蘇生術は使い魔がいて初めて使えるものですし、それに亡くなってから時間が経っているなら効きません」
「だから細胞を若返らせる力を使うのだよ」
私と師匠の会話に、パルヴィア公爵が割って入ってきた。
「この若返りの力に治癒魔術ではなく蘇生術を加えれば、蘇ることは実証された。あの二人が命懸けで、研究結果を手に入れてくれたおかげだ」
私が蘇生術を使ったのは、コハナが蘇った一回だけだ。
つまりあの二人とは、マウノが殺したというあの二人のことだろう。
この人は私に蘇生術を使わせるために、コハナを殺したんだ。
心がザワリと波立つ。
しかし次の言葉で思考が停止した。
「お前も蘇らせたいだろ? ここにいるキイラを」
パルヴィア公爵の視線の先には、師匠が触れている鉄の箱がおかれていた。
そういえばお師匠様の遺体がどうなったのか、気絶していた私は知らない。
一度里帰りした時も、お師匠様の遺体はなかった。
まさかあの箱の中身って……。
お師匠様の遺体が眠っているの!?
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