薄暗い地下
三人で私が気になっていた場所付近を歩いていると、先輩が突然立ち止まった。
「……わずかだけど、魔力の気配がする」
何も感じない私と先生は、キョロキョロと辺りを見回す。
先輩は立ち止まった場所の近くにある扉に視線を向けた。
「この部屋の中から感じる」
扉を開けると、そこは医術に使う備品などが置かれた薄暗い倉庫だった。
先輩は躊躇うことなく魔力の気配がする方へと歩いて行く。
そして壁沿いに積まれた、たくさんの箱がある場所の前で立ち止まった。
箱で隠れた壁の前で手をかざし、円を描く。
すると壁が先輩の手に合わせてぼやけた。
私と先生が「おおっ!」と感嘆の声を上げる。
「魔術で作られた隠し扉があるみたいだね」
「格好いいですね!」
「え? そう?」
目を輝かせて先輩を見上げると、照れくさそうな返事が返ってきた。
「君達、私がいることを完全に忘れているね」
私達の間に、ぬっと先生が顔を出す。
お互い、近くなっていた体を離した。
「くだらないことを言ってないで、この邪魔な箱をどかすよ」
「君なら魔術でどかせるだろ? リュナちゃんに良いところを見せるチャンスだよ」
「こんな軽い物くらい、手でどかせばいいでしょ」
先輩が先生を睨む。
「なるほどね……。体力的にも格好いいところを見せたいってことね」
先生が先輩の肩を叩く。
「違うから!」
「はいはい。早くどかそうか」
二人が箱をどかし始める。
「私も手伝います」
箱を持ち上げると、想像よりも重くて落としそうになった。
すると箱が突然浮き上がる。
「こういう仕事は任せていいから」
先輩が私の箱を持ち上げて、移動させてくれたのだ。
さりげない甘い優しさに、嬉しくなる。
その後は私も軽そうな箱を探して手伝った。
黙々と移動させていると、先生が先輩に尋ねた。
「今まで何度も医術塔に来ているのに、どうして魔力に気付かなかったんだい?」
「こんな通路通ったことなかったからね。俺達が通らない場所に、あえて作ったんだろうけど。それ以前に魔塔士は医術塔をうろつける立場じゃないでしょ」
「アシル君も私を呼び出すのではなく、たまには会いに来て欲しかったな。そうすれば気付けたかもしれないのに」
「それ、わざと言ってる? あんたは医術塔内を調べるために内密で潜入していたのに、大公子で魔塔士長の俺と医術塔内で話をしたら、意味がないでしょ」
だからよく魔塔に来ていたんだ。
「相手はそれも承知の上で、私を医術師として雇っていた気はするね。アシル君達に内部を探られないように、あえて毒を飲んだって感じかな」
「飲んだ毒は無毒だったわけだけどね」
「心も体も癒すのが私の仕事だからね」
なんだろう……。
先生が言うと、いかがわしい感じがする。
私と先輩の冷たい視線が先生に突き刺さる。
「君達の視線が熱いよ」
寒くないんだ。
先生が魔力覚醒しない理由が、分かった気がする。
「だけどこれで医術塔が魔塔を毛嫌いしていたのは、王族派と貴族派の問題だけじゃなくて、魔塔士を医術塔に近付けさせたくないって目的もあったからかもね」
「問題は、この先で何が行われていたか……だね」
箱をどかし終わり、壁の前に三人で立つ。
先輩が壁の前で魔法陣を描く。
するとパリンという音と共に、硝子のような光が砕け散った。
そして扉のような物が浮き出てきた。
「鍵の解除術式で魔術が解除できたということは、やっぱりここが秘密の部屋になっているようだね」
「これは魔力のない私では気付けないな」
やれやれと先生が肩をすくめる。
先輩が扉を開けると、異様な空気が流れてきた。
目の前には階段があり、どうやら下に下りなければいけないようだ
「俺が先頭に行くから、リュナ、エルメルの順で付いてきて」
名前を呼ばれて体が跳ねる。
「リュナ?」
「は……はい! 分かりました!」
返事をして声が裏返ってしまった。
もしかして怖がっているって、分かっちゃったかな……。
二人の視線を感じる。
協力したいと申し出た以上、探索の邪魔はしたくない。
でも……。
そろりと扉の奥の階段に目を向ける。
ただならぬ雰囲気に、恐怖心が抑えられない。
ややあって、先輩が背を向けながら口を開く。
「怖いなら、好きな所を掴んでいていいよ」
頼もしい背中のローブをそっと掴む。
躊躇いながら顔を上げると、顔を半分だけ後ろに向けた先輩と目が合う。
微笑まれて恐怖心が和らいだ。
「私も怖いから、リュナちゃんの背中に抱きついてもいいかな?」
微笑んでいた先輩が、氷の刃を飛ばすような鋭い目つきに変わる。
「あんたを先頭にしてもいいんだけど?」
「嫉妬深い男は冗談が通じないから困るよ」
先輩が先生を睨みながら、手のひらに魔法陣を描く。
魔法陣から現れたのは、街灯などで見た白い光だった。
「後ろの人に痴漢されそうになったら、すぐに叫んでね」
怖くて叫んでしまったら、どうしよう……。
絶対誤解されそうだ。
不安を抱えつつ、先輩の背中のローブを握りながら付いて行く。
細長い階段を降りると、不気味な光景が広がっていた。
たくさんの空っぽの檻が壁沿いに並び、中央には処置台が設置されている。
壁の一角には研究用の道具なども置かれていた。
しかしそれ以外は、全て綺麗に片付けられているようだ。
「リュナちゃんが感じた怨念って、実験体にさせられていた動物達のものってことかな?」
エルメル先生が檻の中を探りながら言った。
「資料とかも残ってないね」
二人は平気そうに地下の施設を探っているが、私は階段を下りた先から一歩も進めずにいた。
私の異変に気付いた先輩が探索を中断して、こちらに歩み寄る。
「大丈夫?」
「……なんだか体の調子がおかしいんです」
「え!? 診察してあげようか?」
先生も傍にやってきた。
「その……なんて言えばいいのか……お腹の辺りがモヤモヤするというか、変な空気が体の中を駆け巡っている感じがするというか……」
症状を説明し終えると、先輩が口を開く。
「それはたぶん、ここに滞留している魔力の影響を受けているのかもね」
「医術塔で魔力!?」
驚く先生を先輩が一瞥する。
「ここの入り口にも魔術が使われていたんだ。魔術が密かに利用されていたとしてもおかしくないよ」
「でも魔塔や私の部屋も魔力が滞留していますよね?」
魔塔は魔術の宝庫だ。
転移板があるドームの部屋など、あらゆる魔術が発動しているはずだが、こんなにおかしい感じになったことはない。
「……それはここで使われていた魔術が、あんたの持つ光属性の魔力と類似しているからだよ」
先生と二人で首を傾げる。
「魔力は基本、放出されるとそのまま外に流れて自然に溶け込むんだ。だけどここは魔力が外に放出されずに充満している。だからあんたは自分の持つ魔力以上の魔力が体内に流れ込む状態になっているんだよ」
「それじゃあ、ここに溜まっている魔力って光の魔術なのですか!?」
怨念を感じた場所で治癒系統の光の魔術?
矛盾する状況に戸惑っていると、二人が私を見た。
「奴等はもしかして、キイラ女史の細胞を若返らせる研究を続けていたのかもしれないね」
「だとしたら奴等が狙っているのは、完璧な不死の力?」
それって初代王でも手に入れられなかった力を、奴等が手に入れようとしているってことだよね!?
読んで頂き、ありがとうございます。




