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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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魔塔士ランク

「ああ! 次の審査会の日まで待ち遠しいわ!」


 暗い話から一変。

 コハナが嬉しそうに声を上げる。


「審査会?」

「そうよ! 唯一魔塔主様のお声が聴ける場なのよ!」


 嬉しそうにしている理由が、すぐに分かった。


「半年に一度、誰がどのくらい国に貢献し、ランクがどう上がるかを審査される場なんですよ」

「魔塔に属するほとんどの人間が参加する場だから、凄いわよ。ま、一部やる気のない人は部屋に引きこもっているけどね」


 先輩が言っていた『魔塔に属する者は、何をしなくても国から給料が支給される』人達のことだよね。


「私は天才だから、審査会で二階級アップしているのよ」

「魔導具を作れば魔塔士生から中級魔塔士くらいにはなれますからね」

「あんた下級魔塔士のくせに馬鹿にしてんの!?」

「そんなつもりは……」

「二人はランクが違うの?」


 揉めている二人に声をかけると、同時に私に視線を向ける。


「ローブを見れば分かるでしょ!」


 色が違うくらいしか分からないです!


「魔塔では色によってランクが判断されています。魔塔士生は黒色、下級魔塔士は緑色、中級魔塔士は黄色、上級魔塔士は青色、魔塔主任は紫色、そしてたった一人だけに許された赤色が魔塔士長です」


 そういえばメニュー表もこの色の逆の順番で書かれていたかも。


「じゃあコハナはマウノよりも上のランクってことなのね?」

「その通りよ! そしてあんたは魔塔士生で私達より下ってこと」


 敬えってことかな?


「でも下級魔塔士くらいならすぐになれますよ。僕なんか毎日の街のゴミ拾いだけで上がれましたから」

「凄いね。毎日ゴミを拾うなんて、なかなかできないことよ」

「魔塔士ならゴミ拾いじゃなくて、ゴミを集める魔導具くらい作りなさいよ」


 上げてもすぐにコハナが下げてくる。


「でも僕は中級魔塔士になるために、集めたゴミから別の物に変えられないか研究しているんですよ。これで成果が出れば、上級魔塔士に飛び級するかもしれませんね」


 その時は敬えとでも言いたそうに、得意気な顔をするマウノ。

 マウノも負けてないな……。


「ふん! 簡単に上がれるのは中級までよ。上級からは人間性や思考とかも審査に入ってくるのだから」


 つまり人間性でコハナは上がれないと……。


「でも魔導具は物が残るから審査の対象になりやすいけど、ゴミ拾いとかは自分で言わないと審査してもらえないよね?」


 私の疑問に二人が神妙な顔をした。

 なにかとんでもないことを聞いてしまった?


「そうなのよ……そこなのよ……」

「あらゆるところで正体不明の者に見張られているというのは、怖いですよね……」


 見張られている?


「ここの会話も聞かれている可能性があるわ……あの地獄み……魔塔士長は有能だから」


 地獄耳って言おうとしたのかな?


「どこで聞いたのか、どこで知ったのか知らないのですが、良いことも悪いことも全て筒抜けなんですよ」

「そうなの。私達が気にも留めていなかった部分が評価されていたり、こっそり隠した部分が減点されていたり……」


 そりゃあ殺人犯とかまで管理しているのだから、堅固な見張りは必要かもね。


「色々試して見張られている場所を特定しようとはしているんだけど……」

「さすがは魔塔士長といったところでしょうか……」


 二人ともなんで小声なの?


「つまりあらゆるところに審査員がいるから、悪いことをしなければ問題はないってことね」

「本当にそれで大丈夫だと思ってる?」


 楽観的な私の言葉に、二人が甘いと苦言する。


「僕もそんなに悪いことをしている方ではないですが、怖い人に絡まれている人を助けなかったと減点されたこともあるんです」


 魔法が使えるようになったのだから、民の救済も仕事というわけね。

 そうだとしても、なかなか勇気のいる行動だ。


「私なんかこっそり魔塔士長の部屋に侵入しようとして、減点されたんだから。結局入れもしなかったのに!」


 それは追い出されなかっただけでも良かったのでは?

 先輩が魔塔建造者の一人になった理由が、分かる気がする。


「つまり、どこでどんな奴が見張っているか分からないから、言動には注意しろってこと」

「忠告ありがとう。でも魔塔士長の部屋に無断で侵入するのは、普通によくないと思うよ」

「僕もその意見は、リュナさんに一票です」

「あんたたちはロマンがないわね」


 不法侵入にロマンも何もないと思うけど……。


「あの部屋には査定という名のロマンが詰まっているのよ」


 つまり自分の査定評価が気になって、忍び込もうとしたというわけね。


「それで減点されているんじゃ、意味ないよね?」

「侵入しようとした事に対して減点されたんじゃないのよ! 『侵入方法に工夫がないから減点』って言われたのよ! ムキーーーーーッ!!」


 侵入しようとしたことを咎めるのではなく、侵入方法で咎められるとか、魔塔って寛容なんだね。

 それとも、それだけ侵入されない自信があるのだろうか?


「今度こそ加点になるような完璧な方法で侵入してやるんだから」


 コハナが不敵に笑う。

 完全に努力の方向を間違っている気はする。

 まあ楽しそうだからいっか。



 部屋に戻りお師匠様が残した黒い手帳を取り出す。

 教えてもらった話から、下級魔塔士に上がるのはそう難しくはなさそうだ。

 だけど私が今魔塔にいるのは、お師匠様の足手まといになっているからに他ならない。

 だったら目的はランクを上げることじゃない。

 少しでもお師匠様に近付く努力をすることだ。

 この日から、手帳に書かれた魔術の勉強を始めたのだった。



 あれから数日が経った。


「今日は買い物に付き合ってくれてありがとう」


 隣を歩くマウノにお礼を言う。


「僕も買いたい物があったので、誘ってもらえてよかったです」


 先輩から鍵があれば外でも買い物ができると聞いていたが、本当に買えるのか不安だったため、マウノにお願いして付いてきてもらったのだ。

 コハナが恨めしそうにみていたが、自業自得だから仕方ない。


「それにしてもたくさんテープとか買っていましたけど、何に使うのですか?」


 マウノが私の持つ大きな紙袋に視線を移しながら、尋ねてきた。


「このテープを使って魔導具を作ろうと思うの」


 紙袋からテープを取り出してマウノに見せる。


「それなら先にレポートを出した方がいいですよ」

「レポート?」

「はい。どういう魔導具を作るのかを書いた物です。それが通ると、使用する道具は経費で出してもらえますから」

「そうなの!?」

「はい」


 なけなしの給料から出したショックは大きい。

 どうせ使わないお金だからいいんだけどね。


「教えてくれてありがとう。お礼にこれあげる」


 研究をしながら食べようと思っていたお菓子を差し出すと、マウノが思い出したように声を上げる。


「そうだった! コハナさんにお菓子を買ってくるように頼まれていたんだった!」


 コハナに使いっ走りにされている!?


「やりたくないことは、はっきり言った方がいいよ?」


 心配するもマウノは明るく笑った。


「僕の魔導具の手伝いをしてくれる約束なので、大丈夫です」

「本当にその約束って、守ってくれるの?」


 コハナのことだから、そんな約束した覚えはないとか言い出しそうだが……。


「前にも話しましたが、約束事を破るのは悪い行いとして減点対象になりますから、さすがのコハナさんも破ったりはしませんよ。だってそれで下級魔塔士に降格も有り得ますからね」


 降格されることもあるんだ。

 気を付けよ。





読んで頂き、ありがとうございます。

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