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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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下からの怨念

 不気味に静まり返った医術塔の前に来ていた。


「リュナちゃん。怖かったら私に抱きついていいからね」

「半径一メートル以内に近付かないでくれる?」


 先輩が私と先生の間に入る。

 マウノよりも遠くないですか?

 直径が半径になってる。


「さっさと行くよ」


 先生を急かしながら、さりげなく私の手を取った。


「アシル君。私も手を繋いであげようか?」

「いらない」


 さりげなくだったのに、しっかりと見られていた。

 やっぱり先生は目ざとい。


 医術塔には一度だけ来たことがあるが、中は真っ暗で人の気配はない。

 というより置かれている物はそのままに、人だけがいなくなったような感じだ。


「なんだか気味が悪いですね……」


 腕と腕が触れ合いそうなくらい、先輩に近付く。


「アシル君、怖い」


 先生が先輩の腕を掴んだ。


「気持ち悪いから、離して」


 それを先輩が嫌そうに引き剥がした。

 緊張感が全くない。

 というより和ませてくれているのかな?

 それにしても、本当に先輩と先生は仲がいいな。

 そういえば以前、礼儀作法の先生がエルメル先生のことを『殿下』と呼んでいたことを思い出す。

 先輩と親戚になるのだろうか?


「お答えできなければいいのですが、先生って王族の方なのですか?」

「やはり隠そうとしても、私から溢れ出るオーラだけは隠せないようだね」


 ……聞かなきゃよかったかな?


「なにを隠そう私は陛下の弟で、君の婿候補だよ」

「半径一メートル以内に近付くなって、俺、警告したよね」

「アシル君。それ、キャップしてあるけど針付きの注射器だからね」


 私の手にキスをしようとした先生の頬に、どこで手に入れたのかすかさず先輩が針付き注射器をグリグリと押し当てる。

 一連までの動作が早い。


「でもあまり王様と似てないですね」


 キラキラ度合いは似ているかもしれないけど。


「異母兄弟だからね。私達の父は手癖が悪くてね」

「ほんと、似た者親子だよね」

「君と大公殿下もよく似てるよね」

「やめてくれる?」


 先輩が苦々しそうな顔で言った。


「なるほど! 王様に気を付けてって、先生と同じで誰にでも手が早いって意味だったんですね!」

「アシル君! 君、一体どういう説明したんだい!?」

「事実でしょ」


 確かに婚約者がいるのに、平民の私にもしつこかった。


「アシル君はまだまだお子ちゃまだね。そんな面白味のない男は、彼女にあきれられるよ」


 なぜかこの先生の言葉に、先輩が押し黙る。


「……よく分かりませんが、私は一途に想ってくれる男性の方が好きです」

「リュナ……」


 先輩と微笑み合う。


「なんだろう……。私の人生観を全否定されたようなこの気持ちは」


 先輩が優しく笑いながら、先生の肩を叩く。


「案内の続き、してくれていいよ」


 先生は口角を上げてはいたが、完全に頬を引きつらせていた。

 きっと『爆ぜろ』とか思っていそうだ……。


 医術塔内を歩きながら、先輩が尋ねる。


「秘密の扉とか、怪しそうな場所はなかったの?」

「何年医術塔に勤めていると思ってるの? 目ぼしいところは全てチェックしているよ」


 先輩が立ち止まり、考え込む。


「どうしたの?」

「公爵が転移の魔術を使ったんだ」


 そういえば私達に顔を見られた直後に、黒猫の影のような感じで魔法陣の中に吸い込まれていっていた。

 魔力を持たない公爵は魔術を使えない。

 だとすると、魔術が使える誰かが傍にいる?


「転移の魔術って確か、発展させてはいけない魔術って以前言ってましたよね?」

「よく覚えていたね」


 先輩に尋ねると微笑んでくれた。

 頭を撫でて褒められているようで、なんだかくすぐったい。


「魔塔主様の使い魔が使う影の力と同等の力を持つ魔術ということは、かなり魔術に長けている人物が公爵の近くにいると思うんだ」

「お師匠様みたいなですか?」


 私の問いに先輩が目を見開き、そして再び考え込み始める。

 なにか変なことを言ったかな?


「そうか……。魔術で閉ざされた隠し部屋があるのかもしれない」


 先輩の呟きに、私と先生が顔を見合わせる。


「この建物の見取り図ってある?」

「案内板ならそこにあるけど、患者さんが使う場所しか記されていないよ?」


 先生が指した案内板に向かう先輩に付いて行く。

 三人で案内板を眺める。

 先生が言った通り、患者さんが使用する部屋しか載っておらず、ところどころ空白が見られた。


「この地図内の構造で違和感のあるところはないの?」

「そう言われても……完全な見取り図じゃないからね……」

「何年医術塔に勤めてたんだっけ?」


 先輩の嫌味に、先生が声を詰まらせる。

 案内板を眺めていて懐かしくなった。

 そういえば初めて来た時は怨念だらけで怖かったよね。

 右も左も上も下も……。下?

 そういえばあの時、下からも恐ろしい気配を感じた気がする。

 もう一度地図を眺める。

 あの時は確か、処置室から先生の部屋に向かう途中だった。

 一階の処置室から関係者以外立ち入り禁止の薄暗い人通りの少ない廊下を真っ直ぐ進み、階段を上った右手に部屋がたくさん並んでいた。

 地図には詳しく載っていないが、一階の部屋扉と二階の部屋の扉の数が明らかに違っていたのは覚えている。

 一階の個々の部屋が広いだけかもしれない。

 でもあの下から感じた怨念の気配……。


「私、処置室の先の廊下が少し気になるのですが、行って来てもいいですか?」

「なにか分かったの?」

「確信はないのですが、先生とここの廊下を歩いていた時に、下から怨念のようなものを感じたんです。今考えたら、一階なのに下っておかしいなと思って。だから一度調べてみたいんです」

「まさかエルメルの女癖の悪さが、こんなところで役に立つとはね」

「確信があるわけじゃないので、役に立ったかどうかは分かりません」

「喜んでいいことなのか、悲しんでいいことなのか分からない掛け合いは、止めてくれない?」


 こうして私達は、一階の廊下を探索することにしたのだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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