神の代行者の正体
先輩への復讐うんぬんかんぬんは一旦後回しとし、建物から出ることになった。
「あれ? リュナペンギンは?」
気付くと、先程まで応戦してくれていたペンギンがいなくなっていた。
「あの時と同じように、またゲートを使って精霊の森に帰ったんじゃない?」
「そうかもしれないね。生き物を呼び寄せるには相当な力を使うだろうから、限界を感じて戻ったのかもしれない」
そうなんだ。
私はあの子の契約者なのに、限界であることにも気付けなかった。
「どうせあのペンギンのことだろうから、またなにかあればひょっこり現れるんじゃないの?」
「確かに。今回もあんたの魔力に異変を感じて、俺のところにゲートを使って現れたくらいだからね」
「そんなに使い魔って、契約者の魔力を敏感に感じ取れるものなのですか?」
「高ランクになってくると、契約者の心の機微にも反応できる使い魔はいるかな。あんたの使い魔はかなり敏感に感じ取ってくれていると思うよ」
「えぇ~? あのペンギンがですか? どう見ても敏感って感じはしませんけど?」
コハナなら言うと思った。
「あの使い魔が普段のんびりしているのは、いざという時に俊敏に動けるためだと思うんだ。現にリュナが危険な状態かもしれないと判断した時は、力を惜しまないからね」
そういえばコハナを蘇らせた時も、大公家に乗り込んで来た時も、信じられない力を発揮していた。
そしてその後は帰るかのんびり寝ているかの状態だった。
「とりあえずマウノ上級魔塔士の処罰については魔塔主様の判断を仰ぐことになるから、それまでは首輪を付けさせてもらうからね」
先輩が魔術でマウノの首に首輪を嵌めた。
「今気づいたけど、コハナ、首輪付けてないんだね」
「実は、あんたを助けて一度死んだからってことで、魔塔士長が刑を執行された形で手配してくれていたの。あんたが誘拐された報告をした時に、その事実を聞かされたんだけど、もっと早く教えて欲しかったわ」
「今回は入室『不可』にならなかったんだ」
歩きながら私が尋ねると、コハナが先輩をギロリと睨んだ。
「前回の件があったから、部屋には入れないけど入口で要件だけは聞こうと思ってね」
まだ完全に信用はされてないんだね。
苦笑いながら細い廊下を出ると、玄関ホールのようなところに出た。
内装はボロボロで廃墟のようだが、大公家にいたからここがどこかの屋敷だったということだけは分かった。
辺りを見回しながら入口の扉に向かうと、先輩が突然魔術を発動した。
すると巨大な岩の壁が出現し、入口を塞いだ。
「みんな下がって!」
その直後に壁の向こう側から、金属を弾く音や爆発音が聞こえてきた。
「何が起こったの!?」
「もしかしたらリュナさんを取り戻すために、神の代行者達を集結させたのかもしれません」
身を屈めながら叫ぶと、マウノが顔を歪めた。
「この古い建物じゃいつ突破されるか分からない。ここ以外で出られる場所はないの?」
壁を強化しながら、先輩がマウノに尋ねる。
しかし答えたのはマウノではなく、コハナだった。
「裏手に出入口がありますけど、回り込まれている可能性は高いですよ」
ここに来た時に通ったのだろうか?
疑問に感じていると、コハナが淡々と答えてくれた。
「ここ。私が奴隷として仕えていた屋敷なの。ここが使われているということは、あいつらも神の代行者の一員だったのかもね」
驚いていると、私達が歩いて来た廊下から複数の足音が聞こえてきた。
姿を見せたのは予想通り白い仮面の白いローブを羽織った集団だった。
手には様々な種類の武器を所持している。
入口を強化している先輩が舌打ちをした。
先輩は今、手が離せない。
私達で防がないと!
コハナもマウノも臨戦態勢に入る。
「コハナ、マウノ。私が魔術をかけるから、あぶれた奴等をなんとかできる?」
「任せなさい」
「全力を尽くします」
三人で頷いたのを合図に、一斉に動き出す。
まず私がモヤの魔術を唱えた。
すると不意を突かれて避けきれなかった数名の閉じ込めに成功した。
端にいた者達は横に避けるも、すかさずコハナとマウノが魔術で攻撃する。
連携が上手くいき喜んでいると、どこかの壁が破壊されたのか轟音が鳴り響く。
先程よりも多い人数の足音が聞こえてきた。
そして白い仮面とローブを身に纏った集団が、瞬く間に私達を取り囲んだ。
「神の依り代を渡してもらおう」
囲っているうちの一人が口を開く。
先輩は無言のまま、私達三人を隠すように立ち塞がった。
それを見た口を開いた人物が、隣の二人と目配せをする。
合図を受けて二人が取り出した液体が入った試験管に、嫌な予感が過る。
あの液体って、まさか……!
二人がそのまま先輩に向かって試験管を投げつける。
次の瞬間、複数の黒く丸い影が私達を囲むように出現した。
この影を私は見た事がある。
影から出てきたのは、魔塔主と魔塔士達だった。
投げられた試験管は、魔塔主に届く前にカチコチに凍らされた。
「キャーーーーー!!」
ややこしい悲鳴を上げたのは、コハナだ。
確かに女性としては憧れるシチュエーションだよね。
コハナの嬉しい悲鳴に、神の代行者達が一瞬体を震わせた。
その隙を突いて、魔塔士達が一斉に攻撃を仕掛ける。
決着は言葉通り瞬く間につけられた。
誰が予想できただろうか。
コハナの悲鳴が勝敗を分けることになるなんて。
制圧すると、魔塔主がこちらを振り返った。
興奮から、私を掴んでいるコハナの手が震えている。
感極まってるのかも。
しかし魔塔主が真っ先に声をかけたのは、先輩だった。
「アシル。よくやりましたね」
「ありがとうございます」
周りは魔塔主から魔塔士長への労いの言葉だと思っているようだが、二人が親子だと知っている私の胸は熱くなる。
なんとなく魔塔主が自分の息子を褒めたように思えたからだ。
だが、たった一人だけ思い切り勘違いをしている人物がいた。
「まさか……魔塔主様は、魔塔士長が……好き……?」
わなわなと私の隣で体を震わせて呟く。
衝撃を受けているのかも。
好きは好きでも親子愛の方ですから。
事実を知らないコハナの感情は、とても忙しそうだ。
むしろここで勘違い失恋をさせて、新しい恋に芽生えさせた方がいいのかな?
悩んでいると後ろから声をかけられた。
「みんな無事のようで良かったです」
振り返ると眼鏡と魔塔主任が立っていた。
「ところで……」
眼鏡が眼鏡を持ち上げながら、視線をマウノに向ける。
「その格好は彼らと同じようですが、捕らえるべきなのでしょうか?」
全員の視線がマウノに向けられる。
しかし魔塔主がそれを止めた。
「その件はあとで伺いましょう。今は彼等が何者なのかを探るのが先です」
魔塔主が試験管を投げるように命じた気絶している人物に歩み寄り、仮面を取った。
「エルメルから報告を受けていましたが、やはり医術塔の者達でしたか」
魔塔主の言葉に、魔塔士達が他の者達の仮面もはぎ取って行く。
そこには母子を貧しいからという理由で見下していた、受付のお姉さんもいた。
「医術塔のほとんどの者が神の代行者であったにもかかわらずエルメルが気付けなかったとなると、相当巧みに隠されていたようですね」
「しかしこれだけの大人数で秘密を隠しきるのは難しいと思います。操られていたとも考えられないでしょうか?」
「この人数を一度に操るには、高ランクの魔術を使える者がついていないと難しいでしょう。そのあたりの調査も含めて、一旦彼等を別々の牢へと収容して下さい」
先輩と会話し終えた魔塔主が、魔塔士達に命じる。
魔塔士達は素直に従い、動き出した。
「さて……」
立ち上がった魔塔主が、マウノに視線を向ける。
「あなたはどうしたいですか?」
問われてマウノが俯く。
「魔塔士長の使い魔から、だいたいの事情は聞いています。あなたの憎むべき相手の指を治すよう魔塔士長に命じたのは、私です。そのうえであなたはどうしたいのか尋ねましょう」
「……僕は許されないことをしました。どんな処罰も甘んじて受けます」
みんなが無言になる中、口を開いた人物がいた。
「神の代行者の情報も持っているかもしれませんし、生涯魔塔に幽閉でいいんじゃないですか? 私もそうでしたし」
「マウノは神の代行者達が襲ってきた時も、私達に協力してくれました。だから私もコハナの意見に賛成です」
私達の話を聞いて、先輩が魔塔主に意見する。
「……復讐に使い魔を利用したようですが、彼の使い魔は汚されていませんでした。つまり正当な理由で使い魔は協力したのだと思われます。そこから考えても彼は大きな罪を犯していますが、減刑も視野に入れてもいいのではないでしょうか?」
ややあって魔塔主が判決を下した。
「神の代行者の情報を渡すという条件で、マウノ上級魔塔士を魔塔士生に降格とし、生涯幽閉の刑とします」
マウノの目から涙が溢れる。
「ありがとう……ございます……」
きっとマウノも板挟みの状態で辛かったのかもしれない。
これでようやくマウノも前に進める。
泣き崩れるマウノにもらい泣きしそうになっていると、先輩がポツリと刑を追加した。
「あとリュナ上級魔塔士の半径一メートル以内に近付くことも、禁止にするから」
阻止すると言った件も、忘れていなかったのですね。
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