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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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理由

 あのあと意識を失った私が次に目覚めたのは、全く知らない質素な部屋だった。


「目が覚めましたか?」


 体を起こすと、白いローブを羽織ったままのマウノが私を見ていた。


「マウノ……」


 神の代行者はお師匠様の仇である。

 だけど、マウノは友達だ。

 この二つの感情が絡み合い、複雑な気持ちで名前を呼ぶ。


「僕に幻滅しましたか?」


 水を注いだコップを手渡される。


「……分からない。マウノは賢いから、なにか事情があるとは思ってる」


 手渡されたコップに視線を落とした。

 マウノがイサベラに言った最後の言葉。

 マウノの目的が復讐だとすると、神の代行者達に何かを吹き込まれた可能性はある。

 例えば……。


「リュナさんも知っていたのでしょ? 僕の指を切り落とした子ども達が、魔塔士長の魔術で元に戻っていたことを……」


 コップを握る指に力が入る。

 マウノも、知っていたんだ……。


「……いつから神の代行者になったの?」

「リュナさんが魔塔に来る少し前です。実家に帰った時にある方に呼び出されてその事実を知り、神の代行者のメンバーになりました。だから黙っていたとしても、リュナさんを責めたりはしませんよ」


 私が魔塔に来る少し前にマウノに接触したのだとしたら、タイミングが良すぎる。


「もしかしてマウノは、私を監視するように命じられたの?」

「はい」


 淡々とした返事が返ってくる。

 マウノの話から考えて、神の代行者はお師匠様の件で私が純粋覚醒かどうかを疑い始めた。

 そして私が村から離れたのを見て、魔塔に向かった可能性があると判断したかもしれない。

 お師匠様は魔塔に属していたし、身寄りのなくなった私が向かう確率は高かった。

 そこで私が本当に純粋覚醒なのかを確認するために、監視者としてマウノに接触したんだ。

 ここで気になったのは、下位とはいえ貴族令息であるマウノが『ある方』と言っていることだ。

 つまり神の代行者は、貴族でも上位であるとも考えられる。


「私は神の代行者の姿を見ているのに、なぜ始末せずに誘拐したの?」

「それはリュナさんが一番ご存じなのではないですか? 僕はただ、自分を苦しめた奴等を自分自身の手で始末させてもらえるという約束で手伝っていただけです」


 マウノが悲しそうに薄く笑う。


「だって結局は魔塔主様も魔塔士長も、僕の心を救ってはくれませんでしたから……」


 そんなことないと言ってあげたいところだが、実際密かに助けたことはマウノの心をさらに傷付ける結果となっている。

 どんなに綺麗ごとを並べても、言い訳にしかならない。

 だからマウノの復讐したいという気持ちは理解できる。

 それでも、私は奴等を許せない。


「……自分の復讐のためなら、コハナを一度殺した奴等でも、マウノは協力するの?」


 マウノの体がピクリと反応した。

 私を監視するために傍にいたかもしれないけど、私達三人のやり取りの全てが演技だったとは思いたくない。

 マウノにとって心地よい時間だってあったはずだ。

 マウノが私に背を向けた。


「コハナさんを手にかけた奴等は、僕の手で始末しました。あの二人は、僕の指を切り落とした張本人と煽ったうちの一人でしたから」


 灰のように崩れ落ちて亡くなったイサベラを思い出す。


「さすがにイサベラ嬢とは違い、二人は僕の顔を覚えていたようですけどね」


 背を向けているから表情は読めないが、わずかに頭が下に動く。

 先程からマウノを見ていると違和感を覚える。

 それは復讐をこなしていっているのに、全く晴れ晴れした様子が見られないことだ。

 むしろ悲しみだけが伝わってくる。


「……後悔してるんじゃないの?」


 返事はない。


「私もお師匠様を殺されて、神の代行者に復讐したいと闇に飲まれそうになったこともあった。けど、神の代行者にマウノがいると知って、マウノの復讐したいという気持ちを察して、復讐しても虚しさしか残らないんじゃないかって思ったの」


 マウノの手がピクリと動く。

 やっぱりマウノは復讐をしても、気持ちは晴れないということに気付いているのかもしれない。


「犯してしまった罪は償わないといけないけど、今ならまだ引き返せるよ。一緒に帰ろう」

「余計なことはしないでもらおうか」


 ガチャリと扉が開くと同時に、白い仮面の白いローブを身に着けた人物が入ってきた。

 中年の威厳のあるおじさんのような声だ。

 マウノが頭を下げた。


「どうやら魔塔士に嗅ぎつけられたようだ。ここを離れるぞ」


 もしかして、先輩が近くに来てる?

 こんな時なのに、嬉しさが込み上げてくる。

 白い仮面を付けたおじさんが、私を連れて行こうと手を伸ばす。


「安易に触れては――!」


 マウノが警告した直後だった。

 新たに補充されたブレスレットの魔力石から、魔法陣が浮かび上がる。


「グワワワワッ!!」


 魔法陣から飛び出してきたのは、怒ったようなペンギンの声と共に、裏地が赤色の黒いローブを羽織った銀色の髪の人物だった。


「魔塔……士長……」


 マウノが顔を歪めて呟いた。


「ギョェェェェェェェッ!!」


 ペンギンが両手を上下に動かし、大きく鳴き叫ぶ。


「まずい! 口を塞がないと!」


 マウノが咄嗟に白蛇をペンギンに向けて放つ。


「させるか!」


 先輩が迫る白蛇に向けて青白い雷を落とした。

 その隙を突いて、白い仮面のおじさんがペンギンに向かって抜いた剣を振り下ろす。

 一連の流れを見ていた私は、おじさんの仮面に向かって氷の魔術を投げつけた。


「くっ!」


 氷の魔術が命中した箇所から、徐々に仮面を凍らせていく。

 慌てて仮面を払い落としたおじさんの顔を見て、先輩と私が驚愕した。


「パルヴィア公爵!?」


 顔を見られた公爵は顔を隠し、足元に魔法陣を発動させた。

 そしてそのまま魔法陣の中に吸い込まれていった。

 魔力がないはずの貴族派のおじさんが、転移術を使った!?

 公爵を追いかけようと部屋を出たマウノが、廊下で立ち止まる。


「あんた、何やってんの?」


 廊下からコハナの怒ったような声が聞こえてきた。

 公爵を追うのを止め、マウノは立ち尽くしたまま視線を落とす。


「全部、私の使い魔を通して見てたのよ」


 私がここにいると分かったのは、コハナが使い魔で跡を付けてくれていたからなんだ。

 確認しようと先輩を見ると、コクリと頷かれる。


「憎い相手に復讐をするのは、あんたの勝手よ。だけどリュナを連れ去るのは、違うんじゃない? それとも……魔塔士長に復讐するために連れ去ったの?」


 マウノは指を治した先輩を恨んでいる可能性がある。

 だけど先輩は強いから、弱い私を誘拐して復讐する狙いもあったということかな?

 復讐になるのかどうかは別だけど……。


「俺が憎いなら、直接俺を狙えばいいでしょ。だけど命令だからとあんたに危害を加えていないリュナを狙うのは、あんたの指を切り落とした奴等と変わらない行為だと思わない?」

「僕は信じていたんです! 魔塔主様やあなたのことを! その信頼をあなた達が先に引き裂いたのでしょう!!」


 こんなに声を荒げるマウノは初めて見た。

 それほどマウノにとって、この真実はショックだったのだろう。


「俺は彼らの指を治したことを後悔はしていない。復讐して回っていたなら、あんたも知っているはずだよね? 指を治した代わりに、彼等がどんな生活を強いられるようになったのか」


 そういえば復讐相手の二人は、神の代行者になっていた。

 魔塔が神の代行者にさせたわけじゃないだろうから、辛い生活から逃げるために神の代行者になった?


「知っていますよ。だから神の代行者になる話に、簡単に乗ってきたのですから」

「……マウノは、葛藤していたんだね」


 マウノが私を見た。


「本当は魔塔主様や先輩が、指の代わりとなる罰を与えてくれていたと知っていた。それでも自分の指を切り落とされたトラウマは、簡単に消せるものじゃない。だからあの公爵のおじさんに復讐の話を持ち掛けられて、心が揺れ動いちゃったんだね」


 コハナが大袈裟に溜息を吐く。


「馬鹿ね。それなら私に相談してくれれば良かったのよ。なんたって私は、復讐心で貴族を殺した殺人犯なんだから」


 自慢できる話でもないが、この中では一番説得力があるかもしれない。


「それで? もう気は済んだの?」


 コハナに問われてマウノがチラリと先輩を窺う。


「魔塔士長に復讐したいなら、いい方法があるわよ」


 コハナのいい方法って、絶対よくない気がする。


「リュナを誘惑するのよ。それはもう、魔塔にいる間にベタベタとね」


 やっぱり!!


「それは断固阻止するからね!」


 先輩が声を上げる。

 するとマウノが真剣な顔で顎に手を当てて、呟く。


「そういう復讐の仕方もあるのですね」


 絶対真に受けちゃダメなやつだから!!





読んで頂き、ありがとうございます。

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