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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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魔力石

 王様が私達に歩み寄り、目の前の令嬢を一瞥する。


「ここにいたのか。探したぞ」


 王様が声をかけたのは、令嬢……ではなく、なぜか私だった。


「あの……声をかける相手を間違えていませんか?」


 チラリと令嬢を見た。

 凄い形相で睨まれている。


「ファーストダンスはアシルに譲ったが、そろそろ私と踊ってくれてもいいだろ?」


 王様が私に手を差し出してきた。


「いえ! 私、アシル様以外とは踊れませんから!」

「私の誘いを断るのか?」


 王様の声が低くなる。

 王様といい、婚約者といい、沸点が低すぎない?

 ある意味お似合いだと思う。


「王様だって婚約者の方がいるのですから、踊るなら婚約者の方と踊った方がいいですよ?」

「ファーストダンスは彼女と踊ったのだから、役目は果たした」

「好きな人なら、何度踊ってもいいのではないですか? 私なら先ぱ……アシル様に誘われたら、何度でも踊っちゃいますよ」


 先輩に誘われた時のことを思い出し、顔がにやける。


「政治的な要因が絡んでいる以上、愛情などという感情は排除して考える必要がある」


 令嬢から小さく歯を噛みしめるような音が聞こえてきた。

 この王様の言葉に関しては、令嬢が可哀相に感じる。

 だって政治的な部分と、愛情の部分は別問題だと思うから。


「お言葉ですが」


 ビシリと姿勢を正して王様を見据えた。


「政治的な要因が絡んでいたとしても、愛情を持って接することはできるはずです」


 先輩だって魔塔士長として私を甘やかすようなことはしなかった。

 お酒を持ち込んで減点されたことは、一生忘れないだろう。

 私と先輩は恋仲だけど、ちゃんとお互いの立場では線引きするところはしている……と思う。

 眼鏡の私には甘くなるという言葉に、少し自信がなくなった。


「王様はこの国を守りたいという強い思いがあるのですよね? この国を大事にする思いがある方が、たった一人の女性を愛せないなどとは思えません!」


 先輩も今まで、魔塔主の残酷な決断を実行してきた。

 たとえ使命だったとしても、本当にこの国を愛していなければ従えなかっただろう。

 だからこそ思う。

 この国に最も愛情を注いでいるであろうこの人が、できないとは言わせない!


「ならばそなたが私の妻になるか? そうすれば政治的な要因が絡んでいたとしても、愛せる自信はあるぞ」

「私にはもう愛する人がいますから!」

「つまりはそういうことだ。私とて、婚約者が愛する人ならそなたが言う通りにしているだろう。だが……」


 王様が令嬢に目を向ける。


「愛していない者を愛せと言われても、無理がある」

「愛していない人と婚約したのですか!?」

「貴族の世界では、愛している者と結婚できることなど稀だ」


 そういえば先輩とイサベラの婚約も愛がある様子ではなかった。

 イサベラの方は先輩が好きそうだったけど……。

 思い出してもやっとした。


「続きは踊りながらでも話そうか」


 王様が無理矢理、私の腕を掴もうとした瞬間だった。

 バチリと青白い光が放たれ、王様の手に直撃する。

 痛かったのか、王様が思わず手を下げた。


「リュナ!?」


 その直後に会場に続くカーテンがバサリと開かれ、先輩が駆け寄ってきた。


「陛下。彼女に害を与えようとしましたか?」

「お前の仕業か?」

「彼女に危害が加わらなければ、何も起こらないはずです」


 まさかこのブレスレットに仕掛けがある?

 先輩から貰ったブレスレットを見た。


「俺が大公に呼ばれている隙を突いて近付いたのでしょうけど、もう二度と不用意に彼女に近付かないで下さい」


 先輩が私を背にかばい、王様の前に立ちふさがる。


「守りも完璧というわけか。女性に興味のなかったお前が、ここまで変わるとは……兄貴分としては嬉しいやら悲しいやら」

「陛下のことは尊敬しています。ただ、彼女に手を出すというのであれば、俺はあなたを敵に回す覚悟はできています」

「エルメルに忠告されている通りというわけか。興味はあるが魔塔を管理する大公家と敵対するのは、私とて本意ではない。二人の仲を認めよう」

「ありがとうございます」


 先輩がお礼を言うと、王様は会場へと戻って行った。

 王様の後を追うように、令嬢が私の横を通り過ぎる。

 この二人が結婚しても、幸せにはなれない気がする。

 悲しい思いをするかもしれないのに、結婚しなければならないのだろうか?


「どうして貴族は好きな人と結婚できないのですか?」


 先輩に尋ねると、二人が去って行った方に視線を向けた。


「貴族の結婚は、自分の家の繁栄のために行うことがほとんどだからね。どんなに好きな相手がいても、身分が違えばそれだけで別れさせられてしまう」

「そう思うと、私達は魔塔主様が先輩のお父さんで良かったですね」

「……そう……だね」


 先輩もあの二人を見て、思うところがあるようだ。


「それよりも、また先輩呼びに戻ってない? 二人きりの時は名前で呼ぶ約束だよね?」


 こちらに顔を向けた先輩が拗ねたように言った。


「……アシル……」

「よくできました」


 優しく頭を撫でられて照れくさくなる。

 甘いくすぐったさに、手首を握る。

 するとブレスレットが手に触れた。


「そういえばこのブレスレットって、拒絶する魔術でも仕込まれているのですか?」


 あの青白い光は、イサベラの付き人が魔塔に来た時に弾いたものと同じだった。

 ブレスレットを持ち上げて先輩に見せる。


「俺が傍にいなくても守れるように付与しておいたんだけど、まさかここで発動するとは思わなかったよ」

「でも王様相手だったので、私としては助かりました」


 あのまま掴まれていたら、有無を言わさず連れていかれていただろう。


「役に立ったのなら良かったけどね。でも一つ魔力石の力が無くなったから、また新しい石を補充しておかないと」

「この赤い宝石みたいな石のことですか?」

「そう。一つだけ赤い石の色が消えてるでしょ」


 よく見ると五つついている宝石の内の一つが、透明になっている。


「魔力石は希少性が高いわりに、一度魔力を放出すると力を失うからこういう護身用としてでしか使われないんだ」


 宝石が付いているから高そうだと思ったけど、宝石よりも高価なんじゃないの!?


「そんな貴重な石を、私、こんなところで使っちゃったんですか!?」

「魔力を持つ者以外には石ころ同然だから、気にしなくていいよ。それよりもあんたを守れたってことの方が大事だから」


 先輩が私の頬に手を当てて、指で優しく撫でる。

 愛されている心地よさから、手に頭をすり寄せた。

 すると先輩が動きを止めて、口を開く。


「……キス……してもいい?」


 きっと前回気絶したことで、確認してくれたのだろう。


「私も、したいです」


 素直に答えると、安心したように先輩が笑った。

 先輩の顔がゆっくりと近付いてくる。

 ホールから聞こえてきた感傷的になるような静かな曲に合わせて、唇を重ねたのだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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