令嬢の扱い
注目を浴びながらホール中央に移動した。
優雅に足を運ぶ先輩と違い、私はガチガチに固まっている。
先に謝っておこう。
「……足を踏んだら、ごめんなさい」
「痛くないから、安心して踏んでくれていいよ」
紳士スマイルの先輩に、眉を寄せる。
絶対痛いから。
心の中でつっこんだおかげか、自然と緊張が解けていた。
先輩にリードされながら踊り始める。
「やっぱり先輩って貴族なんですね」
食事をしている姿を見ていても思った。
紳士的な振る舞いから所作まで、全てが体に染みついている感じだ。
「もう名前で呼んでくれないの?」
唐突に話題を変えられて、目を瞬く。
「陛下の前で俺のこと、名前で呼んでくれたでしょ?」
先輩でも魔塔士長でもない状態だったから、咄嗟に名前で呼びはした。
「でも先輩、以前『様』呼びは嫌だって仰っていましたよね?」
「俺は『様』抜きでいいとも言わなかった?」
つまり呼び捨てで呼んで欲しいということ!?
「や……でも、それは……」
「リュナ」
躊躇っていると、突然名前を呼ばれた。
「あんたは俺に名前を呼ばれて、どう思う?」
初めて先輩が私を名前で呼んだのは、治癒テープについて反抗した時だ。
あの時は驚いたけど、初めて名前で呼んでくれたことに気付くくらい嬉しかったことを覚えている。
先輩も名前で呼ばれたら、嬉しいってこと?
「……アシル……」
はにかみながら名前を呼ぶと、突然体が浮き上がった。
そのまま半回転して下ろされたのだが、怖くて首にしがみつく。
「突然は止めて下さい!」
「嬉しくなっちゃって、つい。ごめんね」
体を離しながら見上げた。
そんな嬉しそうな顔されても……!
「喜んでもらえたなら、良かったです」
簡単に許してしまう。
「でもさすがに人前で名前を呼び捨てにするのはまずいので、今まで通りに先輩か『様』付けにしますね」
「何がまずいの?」
コテンと首を傾げられる。
分かってて聞いているのかな?
「先輩は大公子であり魔塔士長なんです。そして私は平民で上級魔塔士なんです。分かりますよね?」
私だって上下関係の良識くらいは持っている。
先輩が肩を落とす。
「じゃあせめて、二人きりの時は名前で呼んでくれる?」
腰を引き寄せられて、耳元で囁かれた。
本当にこういうところが卑怯だと思います!
「……分かりました……」
けれどやっぱり簡単に許してしまうのだった。
踊りが終わると、先程までの冷たい視線とは違い、参加者達から温かい視線が向けられた。
冷たくなったり温かくなったり、貴族の感情って魔術をかけたみたいに変化が早いんだね。
一部、変わらず悔しそうに顔を歪める令嬢達の視線も混じってはいるようだけど。
「リュナ様。あちらで私達とお話ししませんか?」
先輩と移動中に、好意的な令嬢達から声をかけられた。
どうしようか迷い先輩を見上げる。
「話しをしたければ行って来てもいいよ」
令嬢達に聞こえないように耳元に顔を近付けて言ってくれた。
しかし令嬢達は先輩が私の頬にキスをしていると勘違いしたのか、真っ赤な顔を扇子で覆いながらもこちらを凝視している。
扇子の意味ないし、思い切り興味津々ですね。
「では少し話をしてきます」
「寂しいから、早く戻ってきてね」
これは令嬢達に見せつけるための演技な気がする。
私の手を持ち上げてキスを落とした。
凝視していた令嬢達は……前のめりでガン見している。
私と先輩の仲は不滅だという噂が流れるのも時間の問題かもしれない。
令嬢達と角の方の雑談できるスペースに移動した。
「先程はとても素敵なダンスでしたね」
「大公子殿下のあんなに楽しそうなお顔は、初めて拝見しました」
「噂では聞いていましたが、本当にお二人は仲がよろしいのですね」
礼儀作法の先生に聞いてはいたが、どうやら彼女達は未来の大公妃と仲良くなろうと近付いてきた人達のようだ。
「お二人は魔塔で知り合われたのですよね?」
「どうやって仲を深められたのですか?」
「告白はどんな言葉でしたの?」
答える前に、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
いつ答えたらいいんだろう……?
貴族令嬢達との会話って、難しいなあ。
「あなた達、みっともないですわよ」
騒ぐ私達に冷淡な声がかかる。
振り返ると、パルヴィア公爵の娘と思われる令嬢が立っていた。
「申し訳ありません!」
令嬢達がすぐさま謝罪する。
ぼう然とその様子を眺めていると、パルヴィア公爵令嬢が私を見据えた。
「あなたがリュナさん?」
品定めをするように、上から下へと視線を動かされた。
貴族って品定めが好きなのかな?
「少し話をしたいのだけど、よろしいかしら?」
「でも、今は他の方達と……」
「どうぞ、どうぞ! リュナ様、私達は十分お話しできましたので、行ってらして」
私は一言も話していなかったけど、十分なんだ。
貴族令嬢ってやっぱりなんか変なの。
みんなに送り出されて、パルヴィア公爵令嬢に付いて行った。
バルコニーに出ると、令嬢が振り返る。
「陛下の婚約者はパルヴィア公爵の一人娘でもある、私だけです。陛下の戯れを本気で受け取らないで下さいね」
ファーストダンスを踊る踊らないの時の話をしているのだろうか?
「本気もなにも、私が愛しているのはアシル様だけなので、他の誰にも興味はありませんから安心して下さい」
両手を振って否定した。
はっきりと否定したのに、なぜか令嬢が顔を歪める。
「あなた、私を馬鹿にしていらっしゃるの?」
馬鹿にした覚えはないのに、なぜ彼女がそう受け取ったのか全く分からない。
「少し陛下から口説かれたからと、いい気にならないで下さらない?」
えぇっ!?
いい気にもなってないし、むしろ迷惑なんですけど!?
「あなたがなぜ怒っているのか分かりませんが、陛下の戯れなんですよね? でしたら私に言うよりも、陛下に直接ご自身の気持ちを伝えた方がいいのではないですか?」
「平民の分際で無礼ですわ!」
令嬢が手を上げて、勢いよく振り下ろす。
上半身を後ろに逸らすと、令嬢の手が空を切った。
動きが遅いから、避けちゃった……。
令嬢がワナワナと体を震わす。
「そこで何をしている!」
背後から聞こえてきた声に振り返る。
こういう場面には必ずと言っていいほど出てくるのは、王子様!
しかしそこに立っていたのは、王子様、ではなくそれよりも上位の王様が立っていたのだった。
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